消えた幼馴染:6

 

 巫女と少年が去った異空間に、二つの怪物が舞い降りた。すでに鳥居とりいは破壊され、赤黒い岩肌の大地は、より一層の大破壊が加えられたらしく、もはや荒野とすら呼べない瓦礫がれきの山と化していた。


 巫女によって討伐とうばつされた魍魎もうりょう残骸ざんがいはさみ、二つの影が押し問答もんどうり返す。


「それで、結局は何の成果も無かった、と?」


 僧侶そうりょの恰好をした悪鬼あっきが、対面する悪魔デビルを挑発する。


折角せっかくこの俺が時間稼ぎを用意したというのに、収穫なしで戻って来るとはな」


 睨みつけてくる悪鬼あっきの視線を正面に受け、それでも悪魔デビルは動じた様子もなく、見えない椅子いすひじを置く。


「時間稼ぎとな? もう少しまともな弁明べんめいをしたらどうだ。たかが三人食っただけの小鬼を用意した程度で」


 人間と大差のない声質な悪鬼あっきに対し、悪魔デビルの声は地の底からい上がる念仏ねんぶつのようだ。この二人は、互いの身分ポジションを主張するかのように、一歩も引かない態度で睨み合っていた。


「あの魍魎もうりょうに適した魂だった筈だ。どういう理由で逃げられたと?」


 悪鬼あっきの高圧的な姿勢がなおも増していく。


「近頃は白鳥のような“エクソサイズ”が次々と悪夢あくむばらいを実行している。そんな中で見つけた逸材いつざいをあっさりと逃がしおって」


 見下すように顔を突き上げる悪鬼あっきを、されど余裕よゆうの笑みで返す悪魔デビル


「確かに、ササクラアヤコは貴重きちょう獲物えものだった。たたってやれば、さぞ活躍したことだろう」

「おいおい、まともな返答が無いままか?」

「キサマも解っておろうに。あの鶴は厄介だ、奴が近くに居た以上、迂闊うかつに手出しは出来ぬ」


 悪魔デビルがそう発言したことで、悪鬼あっきの表情が一転して笑いをこらえた。


「いやまさか、アンタの口からそんな軟弱なんじゃくな言葉が出てくるとは、いつそんな冗談を覚えたのだ?」

「今のが冗談に聞こえたという事は、キサマの不手際ふてぎわにも納得がいく。あのエクソサイズが連れたは例を見ない程の障壁しょうへきだ。それを知らぬというのだからな」


 途端とたんに、悪鬼あっきの表情からは余裕よゆうが消え、先程さきほどまでの権威的けんいてき眼差まなざしはいぶかりへ切り替わった。


「そうか、奴が連れているのか……」

「解ってくれたようだな。つまり、あのエクソサイズはキサマを標的ひょうてきとしているに違いない。近い内、キサマの前にが現れるぞ」


 なにかひらめいたのか、悪鬼あっきあごさわりながら天井を見上げる。


「なるほど、そうと解ればこちらも準備をせねばなぁ」

「ほう、準備とな?」


 悪鬼あっきがほくそ笑む。


「あぁ、少々の時間がいるがな。それまでそっちに足止めをたのんでよいかな?」

「と言うと?」

前々まえまえから思い付いていたさくがある。それをお披露目ひろめといこうじゃないか」

「何の事かは解らんが、しっかり頼むぞ」

おうとも。その巫女がうわさ通りの奴なら、こちらも完璧な状態でいどまねばならぬからな」



 集会を終えた二人は黒いうずの中にしずみ、立ち去る動きすらも無いまま姿を消した――。



 

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