でも、これは確かに恋愛ゲーム

「なな、今日は一緒に帰らないの?」

 いつも帰りのホームルームが終わったら近づいてくるななが、今日は来なかったので、不思議に思って聞いてみる。

「あ、今日はほかの友達と帰りますねえ」

「え」

「え、ってなんですかあ。そんなに私と帰りたいんですか?」

「うるさい。あんたとなんか帰りたくないわよ」

「典型的なツンデレですね」

 なながにやにやしながら言う。

「ももかは寂しいんですよねー?」

「さっさと帰れ」

「そんなこと言わないでくださいよお」

「ななー、帰らないの?」

「今行きます!じゃあ、また明日、ももか」

 すたすたとななが行ってしまう。今までななとすっと帰っていたから、こういうことになると私はぼっちだ。まあ、現実世界ではいつも一人で帰るのが好きだったからいいのだけど。



 イヤホンを耳に着けてスマホで好きな曲を流す。私の日課は、ちょっと離れた公園まで歩いて寄り道をすることだった。公園に行く途中には大きな川があって、その上にかかる橋を渡るときに感じる風が心地よくて、誰にも邪魔されたくないと感じさせる瞬間だった。

 公園に着いたらいつも座るベンチに向かう。ちょうど公園に着くころには夕日がきれいに芝生を照らしていて、緑に見えるはずの草が、太陽光を反射して白く輝いているのが少し目を痛くする。

 ベンチは木陰にある。夏は蚊が大量発生するので虫よけは欠かせない。日焼け止めと虫よけスプレーは、夏の常備品だ。まんべんなく体に吹きかけたら、ベンチに座る。最近の自分の中でのお気に入りの本を取り出して広げたら、もう完璧。

 本を読んでいると急に夕日がさえぎられる。見上げると繧�≧縺�がそこにいる。

「なんでここにいんの?」

「なんでって、お前を見かけたから」

「追いかけてきたわけ?」

「ボッチだからかわいそうだと思って」

 これはいつものやり取り。別に強く当たりたいわけじゃないけど、優しいから甘えてしまうのも事実で。

「帰るぞ」

「うん」

 帰るころには夕日はもうほとんど落ちていて。オレンジと紫と青と…。いろいろな色が混ざり合った空が目の前には広がっている。

 帰るときにはまた川を渡らなくてはいけない。来た時と違って、川に空の色が反射して紫色のカーペットができている。その川を見ながら私と繧�≧縺�は無言で歩く。

 私はこの時間が心の大きな一部になっていた。



「ももか…ちゃんだよね?大丈夫?」

「え?」

 信号機の前。ここは高校の最寄り駅の途中の横断歩道だ。

「もう信号赤になっちゃうよ?」

「あ、ごめん」

 二人で信号を渡りきる。

「ありがとう、えーと、りん君でいいんだよね?」

「うん、りんでいいよ」

「ありがとう、りん」

「ううん、大丈夫」

 りんが私の顔をのぞく。

「それより、ももかは大丈夫?なんか具合悪い?ずっと信号渡らないで止まってたから」

「いや、大丈夫。さっきは…」

 さっきは…何考えてたっけ?

「さっきは?」

「いや、なんでもない」

「やっぱ具合悪いんじゃない?」

「悪くないよ」

「でもちょっと顔色悪い気がする」

「気のせいだって」

「あ、やっぱり、鼻まだ痛い?それのせい!?」

「絶対それはない」

 まだ、鼻のことを気にしているのか。少し笑ってしまう。

「あ、笑ったね」

 りんがにこっと微笑んで言う。夕日に照らされた笑顔。なんかかっこいいな。と思ってしまうのは、これが恋愛ゲームだからだと信じてる。

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