初接触

 やっとバスケの授業がやってきた。体育館に入ると、数人のバスケ部らしき人達が意気揚々とシュート練習をしている。

「うわあ、やっぱりバスケ部うまいですねえ」

「それはそうでしょ」

 バスケって初心者と、長年やってる人との違いがほかの競技よりも分かりやすい気がする。何というか経験者はバスケでの体の使い方をわかっている動きをする。

「ももかもシュート打ってきたらどうです?」

「いくわけないでしょ。ななが行ってくれば?」

「いいんですか?私、自分でいうのもなんですが、うまいほうだと思いますよ?そんなこと言うならおいてきますよ?」

 そういってなながボールを持ってゴールに向かう。バスケ部に交じってシュートを打ち始めた。癪だが、うまいことは確かだ。


「そろそろ始めるぞ」

 先生が体育館に入ってきて、ななが戻ってくる。

「どうでした?」

「やってたわけ?バスケ」

「ちょっとだけですけど」

 あのうまさははちょっとやってたとかのレベルじゃない気がするけど。

「じゃあ、準備体操して始めるぞー」

 運動不足だ…。体の硬さがそう物語っている。

「ももか…、もう、壊滅的ですね…www」

「うるさい」

「そろそろおわったかー」


 準備体操が終わり、本格的にバスケの授業が始まる。パス、ドリブル、シュート…。体育だからそんなつらいことやらないだろうってなめてたのに、ちゃんと練習みたいな感じで、意外とハードだ。


「うわあ。やばいね」

「ほんと、何でバスケ部入んなかったんだろう」

 隣のコートでやっているりんとあきを見て、みんなが騒いでいる。そりゃあそうだ。なんでこんなうまいんだっていうぐらいスピードがあるし、シュートも落とさない。パスミスなんてもってのほか。

「これが補正というやつか…」

「いやあ、すごいですねえ」

「あんたも十分補正かかってるでしょ」

「それほどでもお」

「ほめてないから」

 でもこう見ると、やっぱり攻略対象なだけあって、かっこいい。

「かっこいいですよねえ」

「まあ、そうじゃないと攻略対象にならないでしょ」

「そうですけどお」

 でも、かっこよすぎて、私なんかが頑張ったところで好感度は上がるのだろうか。


「最初だから、みんながどこまでできるのか知るために試合、やるぞ」

 案の定、女子が少ないから男女混合チームで試合を行うことになった。


「よろしく」

 ぎこちない様子でチームメイトが自己紹介をしていく。

「清水秋です。あんま動くの得意じゃないけど、よろしく」

 運よく私はあきと一緒のチームだ。なるせりんとは違うチームになってしまったけど、総当たり戦だからいつかは当たるだろう。

 そして、試合が始まる。素人にはついていけない試合展開。これでも女子に合わせてゆっくりに手加減しているんだろうけど、ただコートを行ったり来たり走るので精いっぱいだ。周りを見る余裕もない。

 「ももか!」

 チームメイトの一人からパスが回ってくる。危うくキャッチミスしそうになったが、すんでのところでこらえた。前にはディフェンス。誰かもらってよー、と思いながらピボット(ディフェンスをよける動き)を踏む。でも、私がパスをしないのを察したのか、ディフェンスはどんどんと距離を詰めてくる。どんどんパニックになる私。すると、パンっと手をたたいた音が聞こえた。

 ディフェンスの手の隙間から見ると、あきがポスト(センタープレイヤーがボールをもらう位置)あたりでボールを呼んでいる。私は無我夢中でそこにボールを投げた。

「あ、やば」

 必死に投げたボールは、私の投げたいと思った方向ではなくすこし、いや、だいぶ上の方にボールが飛んで行ってしまう。取れないだろうと思ったが、さすがだというべきか。あきはうまくポジション取りをしてボールの真下に回り込み、ジャンプしてそのままシュートした。いわゆるタップシュートというやつだ。

 あきが地面に足をつけたタイミングでゴールが揺れる。コートの外から歓声が上がる。すごい。

 そのあとも順調に点を稼いでいき、私たちは大差をつけて他チームに勝利していった。ほとんどがあきの活躍による点で、バスケ部がいるチームにも負けることはなかった。


 最後の一戦。無敗で私たちはなるせりんがいるチームと当たることになった。

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