初めてのリトライ
帰り道。私は一緒に帰る人もいないから仕方なく、ななと一緒に帰っていた。
「いろいろ順調そうじゃないですかあ」
「何がよ」
「こんなに早く二人も攻略対象を見つけるなんて思わなかったですもん」
「見つけたっていってもまだ話したこともないんだから何も変わらないでしょ」
「そうですけど、これからイベントとかもどんどん起こっていくわけですから」
「イベントって具体的に何なの?やっぱり好感度アップのやつ?」
「そうですねえ…。イベントの結果によって好感度は変化しますよ」
「へえ」
「でも上がるだけじゃなくて、選択によって下がることもあります」
「恋愛ゲームだからね」
そこで、私はふと気になったことを聞いてみた。
「やっぱりゲームだから、このゲームにもゲームオーバーとかってあるの?」
「ありますよ」
平然とななが答える。
「え!?」
「なんで驚くんですか。ゲームですからあるにきまってるでしょう」
「そりゃあそうだけど。でも、ゲームオーバーって…、何したらゲームオーバーになるの…?」
「試してみます?」
運が悪かったんだと思う。ちょうどここは歩道橋の上。物語で歩道橋の階段の上から突き落とされることなんてあるあるで。
「はい、よいしょー」
無防備な私の背中を、ななは躊躇せずに階段に向かって突き落とした。
ただ、物語と違うところは、周りの景色なんて見る余裕はなくて。ただただ地面が私に向かってくるのしか、目には映らなかった。とうとう、地面にたたきつけられる…、と思ったところで、私の前にウィンドウが出る。
―リトライしますか?
死んだらゲームオーバー。ほんとに現実と同じ。違うのはこのゲームウィンドウが目の前にあるということ。
一瞬考える。死んで、ゲームオーバーになったら元の世界に帰れるのではないか。でもこのゲームがそんな簡単に、現実世界に私を返してくれるのだろうか。ないわけじゃないけど、そんな不確実な可能性に賭けて、ほんとに死んでしまうなんて嫌だ。漫画ではゲームで死んだら現実世界の体も死んでしまうなんてあるあるだから。
〖YES〗
そう答えた瞬間、世界が暗転する。目を開けているはずなのに目の前が真っ暗で何も見えない。体の感覚はあるけど、暗闇と体の境目がわからない。視界を奪うだけでこんなにも恐怖を与えられるなんて知らなかった。おまけに何も聞こえないし、周りには何もない。
―最新のセーブデータにアクセスします。
暗闇から急に声が聞こえた。自身が置かれているこの状況にも関わらず、私が最初に思ったことは、これってオートセーブなんだ、だった。我ながら、肝が据わりすぎている気がする。
―セーブデータを読み込み中…。完了しました。転送します。
暗かった視界に白い光がさす。まぶしすぎて目をつぶった。
「何してんの?」
「え?」
急に聞こえてきた声に驚いて目を開ける。
「ゆうき?」
「なに?」
「いや、なんでもない」
「おまえ、急がなくていいの?」
「なんで?」
「遅刻だけど」
「え」
この感じ。もしかして…。
「今日って4月5日だったりする…?」
「お前何言ってんの?おかしくなったの?」
私はスマホの日にちを確認する。
―8:20 4月5日
初日と全く一緒の時刻。戻ったんだ…。
「ボーっとしてないでさ、もう行かないとさすがにやばいんじゃないの?」
「わかってる」
そういって一歩踏み出したとき。急に信じられないほどの吐き気が私を襲った。目から涙があふれてきて、立っていられずに座り込む。さすがにゆうきも驚いたらしく、目を見開いている。
目を開けられない。吐き気だけじゃなくめまいもする。顔からさーっと血の気が引いていくのを感じた。
「ちょっ…、お前、大丈夫か?」
ゆうきが私の横にしゃがんで背中をさすってくれる。まだ吐き気が収まらない私は何もしゃべれずにただ口に手を当ててうつむいていた。
たぶん相当な時間、しゃがんでいたのだろう。足が痛くなってきたあたりでやっと吐き気が収まってきた。今はもう目を開けられる程度にめまいも治っている。
「ごめん」
「お前、具合悪いなら休めよ。無理して学校行く方がつらいし、迷惑かけるだろ」
ずっとそばにいてくれたゆうきは不機嫌そうに言う。
「いや、朝は大丈夫だったんだけど」
リトライの影響だろうか。こんなにつらい思いをするなんて。
「今から学校行く?」
「おれ、もうこんな時間だから行かないわ」
「ほんとごめん」
「いいって」
不機嫌だけど、今日はちょっとだけいつもよりゆうきが優しい気がした。
「お前も今日休めよ」
「うん、そうする」
「じゃ」
そういって隣の家にゆうきが入っていく。前とシナリオが変わったけど、ゲームウィンドウには
相変わらず、なるせりんとしみずあきの名前がある。まあ、前回も初日で好感度は変わらなかったから、今日学校に行かないくらいで二人に出会えなくなるということはないだろう。
でも、とりあえず、ななは許せない。こんなつらいことをさせるなんて。しかもあんなに躊躇なく人を殺せるなんて。最後に見たななの顔が頭の中から離れなくて怖くなる。親友とか言っときながら、面白いものを見るように人を殺すななに恐怖した。
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