二人の攻略対象
ゲームだから授業とか、小テストとかはないと思っていたけど、この世界でも普通に成績というものはあるらしい。こんなところまで現実に似せなくていいのに。
あと、生活していて思ったことがある。…なかなか攻略対象と出会う機会がない。まだ最初の体育の授業がないっていうのもあるけど、なるせりんにもあれから一度も会えていない。あと6人の攻略対象はどこにいるのやら、検討すらつかない状況だ。学校に所属している生徒の数が多すぎて一人一人の名前を確認するってわけにもいかないし、開始早々八方ふさがり状態に陥っている。
でも今日は初の体育。体育館に全員集合だから、たぶん種目決め兼先生との顔合わせを行うのだろう。
体育着に着替えて、体育館履きを持って体育館に向かう。2,5,9の三クラスだけだからそんなに混雑しないだろうと思っていたが、いざ整列するとなかなかの人数で、体育館が少し暑苦しかった。
整列して座っていると先生が体育館に入ってくる。そろそろ授業が始まるようだ。
「はい、この代を担当する真鍋です。バスケ部の顧問をしています。球技を選んだ人たちのほとんどは俺が担当すると思うからよろしく」
「高橋です。…」
4人の先生の自己紹介が終わり、とうとう種目決めが始まる。
種目は前期後期で一つずつ。種目は球技全般から、陸上種目、器械体操などバリエーションが豊かだった。まあでも私に選べる選択肢などないのだけれど。同じ種目になって距離を縮めるため、なるせりんと同じ種目を選ばなければ。
私は、なるせりんを見つけ、あとをつける。どうやら友達を探しているようだ。
「もーもか!」
「ひぇ!」
後ろからななが話しかけてきたので驚いて振り向く。
「なに?」
「いや、見るからにぼっちだったから、一緒に回ろうと思いまして」
「余計なお世話」
体育館の壁には種目が書かれた紙が貼ってあり、そこの前に並べばいいようだ。もう並び始めている人もいる。
再びななを連れて、なるせりんの姿を探す。なるせりんはバスケの種目の前で友達としゃべっていた。
「ももかはどこの種目がいい?」
「バスケ」
「え、ももか球技得意でしたっけ?」
「なんであんたが私が球技苦手なこと知ってんのよ」
「いやあ、親友として当然じゃないですかあ」
そう。私は一生ボールとは友達になれない人種である。そもそも、体育とは私にとって苦痛でしかない。できれば汗をかきたくないし、ずっと見学をしていていいのなら端っこの方でじっとしていたいと思う派の人間だ。
重たい足を引きずってバスケの種目の紙の前に座る。暇だからゲームウィンドウを出してなるせりんの隣に座っている友達の名前を確認する。対象の情報は多ければ多いほどいい。でも、いつまでたってもなるせりんの隣に座っている友達の名前は現れない。もしかしてと思って攻略対象の画面を確認する。すると、なるせりんのほかに一つ情報が公開されていた。
名前は、しみずあき。第一印象はイケメン。とにかく顔が整っている。しかも、スタイルもめっちゃいい。どこかのモデルさんみたいな感じだ。
「お、もう二人の情報が公開されてるんですか!」
「なんで見てんのよ」
「いいじゃないですか、親友なんですから」
「親しき中にも礼儀ありって知らないの?」
「馬鹿にしないでくださいよお。それぐらい知ってます」
「じゃあ、ちゃんと礼儀をもったらどうなの」
「あ!二人は親友らしいですよ。私たちと同じですね!」
ななは私の話をさえぎって言った。
「いや、全然違うでしょ」
そう答えながら内心喜んだ。攻略対象と攻略対象が友達だなんて。とても運がいい。一人と仲良くなれたら、もう一人とも仲良くなれる可能性がある。
バスケを選んでいる女子は少なかった。周りを見渡しても、ざっと片手とあと数本の指で数えられてしまうぐらいの人数しかいない。恋愛ゲームをするにはいい環境だけど、男子が多い中でこんなに女子が少なかったら男女混合チームができかねない。私の絶望的な運動センス的ではついていけない環境ができてしまう。
「後期の種目はまた学期の終わりに決めたいと思います」
種目決めが予定より早く終わり、授業時間が余ったため、自由時間が与えられる。
「ももか!バレーしません?」
「球技苦手なの知ってるって言ってたよね?」
「いや、急に得意になってたりするかもしれないじゃないですか」
「ありえないでしょ」
「でも、ヒロイン補正が入ってるかもしれませんよ?」
ここで、ありえない話ではないと思ってしまったのが失敗だった。ななの口車にまんまとのせられた私は下手な球技を披露して、とても恥ずかしい思いを抱えながら授業が終わるのだった。
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