新しい高校生活

 ここがゲームだなんて信じられないと思った。ゲームの中でこんなにみんなが生き生きと動けるはずがない、と驚くくらい一人一人の表情が豊か。

「ももかはこの席だよ」

「うん…」

 周りのリアルさに圧倒されていると、周りに座っていた子たちが私に話しかけた。

「新学期早々遅刻なんてすごいね」

「でもこのクラスあたりだよ!」

「なんで?」

「名簿見た感じだと、陽キャがたくさんいるからね…!」

 みんながうなずく。いや、私はあなたたちの名前もわからないのだけど…。

〖そこのお困りのあなた!〗

 みんなの話についていけずに困惑していると、ななから通知が来る。

〖ゲームウィンドウには登場人物以外にもクラスメートや先生の情報が載っているよ!確認してみよう!〗

 私は、みんなに気づかれないように手を左から右に払う。すると、さっきのゲームウィンドウではなく、一人ひとりの頭の上に文字が出てきた。よく見ると名前と大雑把な性格が書かれている。

「あ、ももかちゃんだっけ?」

「うん」

「遅刻だから、一応職員室行って先生に報告してきた方がいいんじゃない?」

「そっか!ありがとう」

「うちらの担任は中村先生だからね」

「おけ!」

 廊下に出て職員室に向かう。常時ゲームウィンドウを出しているおかげで、学校の中で迷わなくて済んだ。現実にもこういう機能があったらいいのに。


 職員室についた。職員室には入りにくい雰囲気がある気がして、私はドアの前で心の準備をする。

 ゆっくり深呼吸した後ノックをした。

「失礼します。中村先生はいらっしゃいますか?」

「はい、どうした?」

 中村先生は数学の先生のようだ。声が特徴的で覚えやすい。

「新学期早々なんですけど、遅刻をしてしまいまして…」

「なかなかいないぞ?初めから遅刻するなんて」

 笑いながら中村先生が続ける。

「遅刻理由は?」

 学校への行き方を忘れちゃって…っていう理由は言えないのでここは定番の寝坊ということにしておこう。

「寝坊ねえ…。今度から気を付けるんだよ?」

「はい、すみません」

「これから俺もいくから、クラス戻ったらみんな席に座るように言っておいて」

「わかりました」

 遅刻した人がクラスに指示するのはきついと思いながら、先生の頼みを断るわけにもいかず、足取り重くクラスに戻る。


 戻る途中でほかのクラスも観察する。どうやら私の学年は9クラスもあるらしい。私は2組だ。これ、もし9組とかに攻略対象がいたりしたら大変だな、とか思いながら廊下を歩いていると、ふと一人の男子が目に留まった。

 頭の上に書いてあるはずの名前が見えない。何度見ても見えない。その子だけ。

 何度も目をこすりながら見ていたら、その子と目が合った。相手は不思議そうな顔をして少しこちらの様子を伺った後、友達とのおしゃべりを再開する。やっべと思った私は早足で自分のクラスに戻った。


 みんなを席に座らせて、自分も席に戻る。

 このクラスは理系クラスで女子が少ない。私の席の周りはほとんどが男子だった。もともと男子とのコミュニケーションが苦手な私はどこの話にも入ることができず、先生が来るまでひそかにゲームウィンドウを見ていた。すると、

「なるせ りん?」

 攻略対象の欄に名前が追加されていた。見た目はかわいいの一言。笑顔がほんとに無邪気って感じだ。

「はいホームルーム始めるよ」

 なるせ りんの存在に気づいたところで先生がきた。ざっと見て七人ぐらいの攻略対象の一人。確か5組だった気がする。5組は文系クラスだ。接点がなさすぎる。

「ねねね、体育さ…」

 前の男子たちが小声で話しているのが聞こえる。

「今年どことだっけ?」

「たしか…2,5,9の組み合わせだった気がする」

「5,9で友達いたっけ…」

 この学校は体育が文系理系混ざって行うらしい。にしても運がいい。ちょうど5組と体育が一緒だ。あとは種目が一緒ならもっといいんだけど。


 そんなことを考えているうちにホームルームが終わった。私は何人かの女子と連絡先の交換をしてから帰路についた。


 通学で電車に乗ったことがないからわからなかったけれど、平日の昼間はすごく空いている。さすがに慣れていない電車で最初から満員電車に乗ったら大変なことになるのは目に見えていたので、運がよかった。

 電車から見える景色は全く見覚えにないものだったけど、今日は快晴で、さらに桜が今年は遅くまで残っている方らしく、この時期には珍しく満開で、きれいだった。この景色が見覚えのあるものに変わっていくと思うと、少しうれしい気もしたが、早く元の生活に戻りたいとも思うので、なんだか複雑な気分で今日を終えた。

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