新生活?

 目覚まし時計の音がして目を開ける。今は7時50分。朝のホームルームは8時40分だし、私の家は高校からあまり離れていないため、みんなはこの時間に起きたら絶望するかもしれないけど余裕で間に合う時間だ。

 自分の制服を取り出して着る。昨日丁寧に掛けなかったからしわくちゃになってると思ったけど、ハンガーにしわなくかけてあった。お母さんがやってくれたのだろうか。

「ももか!いつまで寝てるの!?」

 いつも通り教科書などの準備をしているとお母さんが一階から声をかけてきた。いつもなら時間に余裕があるから何にも言ってこないのに。

「寝てないよ!もう出る!」

 そういって一階へ向かう。するとお母さんがリビングから出てきて、お弁当を手渡す。

「遅刻してもちゃんと学校まで行くのよ」

「この時間だったら全然間に合うよ」

「間に合うわけないでしょ!早くいきなさい!」

 家から追い出された。でも、お母さんの反応よりも私は外の景色に困惑した。

「ここ…、どこ?」

 いつもの家ではない。いや、正確には、私の家がそのままどこかに移動したというべきか。というか、ここがどこかわからないってことは学校への行き方もわからない。呆然と家の前でたたずんでいると一件の通知が入った。

〖君の親友のななだよ!〗

 今は恋愛ゲームをやっているときじゃない。でも、次の通知が私の目線を奪った。

〖学校への行き方がわからない君へ!学校の場所をリンクに貼っておいたよ!〗

 うそでしょ。てか、何でゲームが今の状況をわかってるわけ?

〖今日は新学期初日!遅刻しないように学校まで来よう!〗

 いや、今日は新学期初日じゃないけど…。そう不審に思いながらスマホの時計を見ると。

―8:20 4月5日

 え。おかしいでしょ。だって、昨日は…。昨日?昨日は何してたっけ?何をしてたか思い出せない。どんな天気だった? 生ぬるい汗が流れてくる。学校はあった?どんな弁当だったっけ?

「何してんの?」

「…へ?」

 前を見るとひとりの男子。

「顔真っ青だけど」

「え…」

「おまえ、遅刻だけど急がなくていいの?」

「…君だって急いでないじゃないか」

 ゆうきだ。私の幼馴染。

「俺はいいんだよ」

「良くないでしょ」

「おまえ具合悪いんじゃないの?」

「大丈夫」

 ゆうきが声をかけてくれたおかげで少し落ち着いた。とりあえず今は学校に向かうしかない。

「なんで俺についてくるんだよ」

「同じ学校でしょ」

「いつも嫌がるじゃん」

「今日はしょうがない理由があるの」

 小さい頃は家が近かったこともあり、一緒に遊ぶことも多かったが、年を重ねるごとにどんどん話す回数も減り、ついには顔を合わせても声を掛けなくなった。

 ゆうきについていくと駅に着いた。ゆうきはさも当然かのようにICカードを使って構内に入っていく。

「ちょっとまって!」

「何だよ」

「切符買ってくる」

「は?」

 いつも電車を使って登校しないからICカードなんて家に置いてきてる。私は切符売り場の前について気付いた。頭上にある線路図で学校の最寄り駅を探したが…ない。どこを探してもない。代わりに見つけたのは月野という駅。

「おかしくなったのかな」

 切符を買って、改札へ走る。

「遅い」

「ごめん」

 月野までは30分ぐらい。ななのいう通りなら今日は新学期初日。新学期早々遅刻してしまうなんて…終わった。

 幸い、駅から学校まではそんなにかからなかった。校門のそばには誰もいなくて、しんとしている。それにしても、

「テンプレみたいな学校だな」

「なに言ってんの?」

 どこかのゲームで見かけたことあるような、というか、どのゲームでも使われていそうな外観。この学校には人ではない何かや、急に現れる転校生などがたくさんいそうだ。


 昇降口に向かうとなながいた。

「遅かったね!」

「なな…」

「これからの学校生活よろしくね!」

 私はななに歩み寄り、まくしたてる。

「何これ。これ、ゲームの設定だよね。しかもなんでゲームの中のキャラクターが出てきてるわけ?親友とか言ってるけど私、あなたと親友になった覚えないんだけど」

「そんなこと言われても困りますよお」

 ななが、さも面白そうに言う。

「同意したじゃないですかあ。今更怒られても、ねえ?」

「そんなの…」


―ゲームの仕様に同意しますか?

  『YES』


「した…けど…」

「ほら。ちゃんとしてたじゃありませんか」

「え、これ、帰れないってこと?」

「ゲームクリア目指して頑張りましょうね!」

 ななが微笑みながら言う。どうやら、クリアしないと戻れないらしい。

「ゲームクリアって、何すればゲームクリアなの?」

「お、やっとやる気になってくれたんですか」

「だってクリアしないと戻れないんでしょ?」

「はい!」

「じゃあクリアするしかないじゃん」

「このゲームは恋愛ゲームですから、登場人物の心をつかんでいただければいいんですよ」

「どうやって?」

「どうやってって…、普通に?(笑)」

「恋愛ゲームなんだから、何かあるんじゃないの?」

「ないですう。このゲームは現実に即したゲームなので…。あ!でもゲームウィンドウは見れますよ。こうやって手を動かしてみてください」

 そういってななは左から右に手を動かした。それに続いて私もやってみる。


―攻略対象との親密度を読み込みます。LODING...  完了しました。


 私のゲームウィンドウにははてなマークと0%の文字が連なっている。

「これを100%にすればいいの?」

「そうです!簡単ですよね!じゃあ、今日から頑張りましょう!」

 いつもこういうゲームの中に入ってしまう系の漫画などを読んでこんなこと起こるはずないだろとか思ってたけど、いざ自分に起こると非現実すぎて冷静になれている自分がいた。

「教室はこっちです!」

 ななに導かれ、ついに私は自分の教室に足を踏み入れた。

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