第4話 この世界の片鱗にふれる④



「……この内容に相違ないか」

「はい」


 親分がポンポンと軽く手を叩いた。奥から、大きな箱を抱えて新たな斑猫が出て来た。この部屋は、見た目より人というか猫人が配置されているようだ。しずしずと慎重な足取りで近づいて来る。斑猫は、俺の前にその箱を置いた。何やら重厚そうな造りの箱に透明な玉が埋め込んでいる。


「では、その玉に手を置いてくれ」


 埋め込まれた透明な丸い玉。俗に言う水晶のようだ。じっと見るが、ただの水晶にしか見えない。俺の認識だとパワーストーンだ。何らかの力があるのかな。それとも下の箱に意味があるのか。箱の素材が分からない。箱の周りに不思議な紋様が刻まれている。


「これは、どう言う玉なのだ」


「ふむ、それは魔法具なのだ。お主の観察札を作ってくれる」


「観察札?」


「平たく言うと身元証になるのかな」


 良く分からないが、好印象ではない。でも、拒否出来る雰囲気でもないんだよな。ヤバくない事を祈りながら手を置く。ピカッと眩く白光した。


「眩しい……」


 咄嗟に目元を腕で覆う。と、腕に違和感が……ナニコレ。手首にシルバーの板のようなモノがブレスレットのように巻き付いていた。じっと、見詰める。幅一センチ位で厚みは薄い。緩みなくピタッと張り付いている。触ると表面はツルッとしている。感触からは金属じゃないようだ。あれ、さっきただのシルバーだと思ったのに模様が刻まれていた。肉球のような模様と単なる傷みたいな印。なんだ、これ。


「これは……マ、マ、マジック」


 そうか、手品か。高度だな。俺の目はキラキラと輝いたと思う。俺は、親分を見詰めた。俺の純粋な視線に些かたじろいだようだ。


「い、いやぁ、マママジックではない。それは魔法だ」


「魔法!」


 ヤバい、興奮してしまった。未知なるキーワードだ。此処は、魔法があるのか。あっ、スルーしていたけど、あの箱魔道具って言ってたわ。じゃあ、これは何なんだ。じっとブレスレットを見詰める。あれ、れ、違和感が……。


「それが、観察札じゃ」


 あー、掴みかけた何かが霧散してしまった。観察札って、語感がどうも良い印象を受けないんだよな。これ、一生取れないヤツか。気になって、ブレスレットを撫でる。と、目を見張る。表面の模様が消えた。どうなっているのだろう。


 徐に顔を上げ、続きを促す。


「今、お主の情報が登録されたのだ。触れると名前が表層に現れる。異種民族の場合は、保護された日が分かるようになっておる。そして、再び触れると消える仕組みだ」


 あれ、文字だったのか。もう一度ブレスレットを撫で、現れた模様を見る。肉球文字と傷数字。ないなぁ、ないわ。意味不明だよ


 それにしても観察札って、犯罪者が付けるヤツじゃないか。ピキッと。眉間に怒が刻まれた。


「俺は、モルモットか」

 思わず、怒りを込めて叫ぶ。


「も、モルモットとは何ぞや」


 そうかモルモットは、存在しませんか。言葉難しい。

 俺は、ブレスレットの付いた腕を高々と振り上げる。

「これは、俺を見張る為のモノだな」


 親分は、口元をポリポリ掻気、ちょっと口籠もった。


「まぁ、そうとも言うかな」


「何だぁ、その中途半端回答は!」


「まぁまぁ、お二方共落ち着きなされ」


 白熱した俺にのんびりと三毛猫が割って入った。俺を静かに眺めると宥めるように話し始めた。


「まず見て分かるように私達は、種族が違います。種族の違いは、衣食住の生活様式のみならず、思想、思考、生き方、全てに現れるのです。その違いが、我々猫人族にとって、問題があるのかないのか分からないのです。しかも、種族の違いとは別に個体の違いもあります。貴殿にとって我々が危険かどうか分からぬように、貴殿が我々にとって危険な人物であるかどうかも分からないのだ。相互理解するには、時間が必要だ。しかし、今此処に貴殿はいる。分からぬまま排除も迎合も出来ない。その結果がこの観察札なのじゃよ。耐えて貰えないかのぉ」


「チッ」


 低姿勢で語られると強く出られない。


「これも何かの縁。我が館にて面倒を見て進ぜよう」


「それは助かる。では、治癒院にて身体検めしたのち世話を頼むとする」


 あれ、いつの間にか二人で話が纏まったようだ。


 俺と言えば、またまた何処からか現れた新たな斑猫に拉致されて、着ぐるみ剥がされ、荷物を奪われた。そして出来上がったのが、田舎侍ならぬ、怪しい侍風かな。恐らく七五三以来と思われる袴に羽織。目元だけ開いた頭巾。更に深編笠を渡された。それと草履。下駄じゃなくて良かった。下駄だと、更に怪しい動きなると確信出来る。


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