第3話 この世界の片鱗にふれる③
そうか、そうだったのか。猫人族、初めて聞いたけど、気付いてから二足歩行する猫しか見てない。人間というか、同種族見ていないな。
「納得しました」
力なく答えた。
「この国には、お主の様に理を超えて辿り着く者も少なくない。どの様な手段で来たのか。目的があるのか知りたいのだ」
「いやいや、そもそもどうして此処に来たのか、さっぱりで。気付いたら此処にいたとしか言いようがない……です」
「なるほどな」
三毛猫は、ふむふむと頷いた。
「では、お主は何処に辿り着いたのだ」
「何処にとは?」
「初めに出会った場所が分かるか。この国に着いた場所は其処か?別ならば教えて欲しい」
「ああ、そう言う意味ね」
納得とポンと手を叩く。うーんと、ひと唸りし、口を歪める。
「あの土手で、町並みと行き交う人の姿に衝撃を受けたんだよ。」
しみじみ思い出した。ほんの数時間前の出来事だ。うんうんと思い返していたら、非難の眼差しが飛んで来た。ちょっと怖いよ。身を引き締めて答えた。
「あの土手の下を流れる川沿いをずっと上流から歩いて来たんだよ」
「川の上流か……」
「ああ」
「出来れば、もっと場所を確定出来れば有り難いのだがな」
「それなら簡単だ。俺が倒れていた河原で、ずっと石積みをしていたから」
「石積みとな」
「ああ、大量の石塔があるはずだから、すぐに分かるさ」
「石塔?何故そんな事をしたのだ」
うーんと、ひと悩みして答える。
「お約束だと思ったからかな」
「お約束とな」
「そう、河原に辿り着いた時のお約束。ちょっと勘違いのようだったけどな」
ハハハと乾いた笑いを溢す。てっきり死んだと思っていました。
三毛猫と親分は、こっそりと視線を交わすと片隅にひっそりと身を沈めていた者が部屋を辞した。
親分が穏やかに切り出した。
「我が国は、ニャンホン国と云う。ほぼほぼ全て猫人族で構成されている。お主のような異種民族が、稀に流されて来るのだ。それはそれなりに問題があり、この異種民族管理局で、流れ着いた異種族は全て登録している」
「……」
「また、異種民族は町中にほぼほぼ居らず異様に目立つ。多くの猫人族は異種民族の存在を知らない。町中での普通の生活は著しく難しいだろう。まず、こちらで身柄を預かり、生活の基盤を調える手続きとなっている」
「なるほど」
「理解して貰えたであろうか」
取り敢えず、俺は猫人族の国に来てしまった。普通の人間はいないに等しい。しかも、この対応って友好的ではないよね。それ故、隔離されそうって事まで分かった。
「ここまでの部分については、理解しました」
「此処でお主を新たな異種民族の一員として登録する。そして、お主はこの国について学ぶ。そして、生き方を模索して貰う事になる」
「…………」
「我が国は、新たな登録者に金百枚の支度金を与え、週金二枚を支給する。これは、六ヶ月から最大一年となる。自活出来るまでの援助と考えて欲しい。それまでの期間は、補助人を付ける」
「……つまり、一年間は拘束されるって話だな」
俺が自虐的に言うと、親分はハハンと笑った。
「お前さん達異種民族は、此処で生きる術を持たず現れる。支援するのは、何もお前さん達の為ではない。我が国の為じゃ。何も持たぬ者は、罪を犯しやすい。危険の目を摘み取るのだ」
ふーん、つまりは過去に危険な犯罪者が現れたワケだ。でも実際問題黄昏ていた。見慣れぬ風景を前にして、どうすべきか分からなかった。正直、手助けは嬉しい。同時にそれにすがるのは危うくもある。判断材料が乏しいのは、お互い様だ。これに乗っかって進むべき道を探すのが正解か。
「では、仕方ないな」
俺は、嘆息する。
親分は、斑猫から巻物を一つ受け取る。巻物を広げ、目を通し、うんうんと小さく頷く。
「まず、お主の登録をしたい。具体的に身上を改める」
色々質問されるが、のらりくらり躱して、絶対個人情報は渡さないぞ。真実でも嘘でもない本当の事を話していく。
名は、シンリ(と呼ばれている)
年は、十八(位に見えるって、良く言われる。やや童顔らしい)
性別は、男
職業は、学生(十八の時は、間違えなく学生)
住所(十八の時は、其処に住んでいたんだよ。知っても意味がないよね)
親は、いない(此処にはね。同居でもなかったし)
まぁ、そんな問答の繰り返し。此処での俺が出来上がる。この世界に辿り着いた経緯を補足し、内容の確認をする。
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