寝具にまつわるsomething

 絶賛ピチピチギャル期である二十歳の頃、私はうつ病で寝込んでいた。(※初診での診断結果はうつ病。のちに双極性障害と診断されたが、当時は「症状が多すぎる」と言われて特定の病名が付かなかった)


 その頃は文字通り寝たきり状態で、病院の待合室では座っていられないので上半身を倒し、ぐにゃりと寝そべって自分の番を待つほどだった。

 しかし二十二歳の頃には寝込む日よりも外出できる日の方が多くなっており、専門学校への入学も叶った。今思えば決して調子が良かったわけではないのだが、単純に若かったので無理がきいたのだと思う。


 今は二十代の頃より無理もできないし、しないほうが良いということもわかってきた。

 布団から起き上がれない日は三ヶ月連続で無ければ良いほう。連日布団から出られないという状態も、まちまちだが、まあある時はある。

 一昨年の十一月頃から、寝てばかりの日が急に増えた。それ以来今日まで、なんだかいまいち調子が良くない。五年後に振り返れば「あの頃は体調暗黒期だった」と思うのかもしれないが、二十歳の頃に比べれば環境も変わり、自分に合った薬を服用しているので、全体的に悲壮感は少なめである。


 本題に入りますと、一人暮らしを始める時に買った寝具が俄然ゴミのようになってきて悲惨だって話よ。


 去年はまさかこんなに体調不調が長引くと思っていなかったが、一、二ヶ月寝っぱなしになる程度のことは最初から見越していたので、私は新居でも実家同様、万年床にする気満々だった。

 以前の記事に書いたが、暑い時期には寝具をロフトから階下へ移動する。また、腸の調子を悪くしてトイレの回数が多い時期なども下で寝る算段だった。なので寝具は軽量のマットレスにトッパーと呼ばれる薄いウレタン製の敷布団を重ねて、上げたり下げたり持ち運びしやすい工夫をしている。


 トッパーはAmazonで買った。三~五センチから厚さを選べたが、どれもくるくると丸めて専用の不織布ケースに入れられるほどコンパクトで軽い。私はデスクワークなどのせいで昔から腰痛を起こしやすいが、たまたま選んだこのトッパーは普通の布団より腰に負担が少なくて非常に良かった。

 その代わり通気性が悪く、また床の温度が直に伝わってくるため、お値段以上と謳うニトリさんで緩衝材代わりに折り畳みマットレスを買った。買ってきたばかりの頃は四~五センチくらいあったのだろうか。トッパーよりもマットレスの方が軽かったので、電車だったが配送サービスを使わず自力で持ち帰ってこられた。


 そのマットレスがもうヤバい。トッパーもヤバいけどマットレスはもうほぼマットレスの遺骸。

 ニトリさんは確かにお値段以上だったと思うが、私の寝る時間も常人以上なので仕方ないだろう。おそらく一般的な会社員の三倍は布団の使用時間が長いはずだし、ニトリさんの計算よりも三倍速く死んでしまったに違いない。


 もはや西松屋で売ってるおしり拭きみたいになってしまったマットレスのせいか、それともスライスチーズくらいの頼りなさになってしまったトッパーのせいか、私は一日中身体の痛みに悩まされるようになった。


 たまに「そんなに痩せられるなら自分も病気になりたい羨ましい」とかアホなことを言われるが、病気で痩せるとマジで良いことがない。

 世の中では「筋肉はパワー」らしいが、私にとってはパワーじゃなくてカバーである。筋肉が落ちると骨が出っ張ってあちこちが痛い。もしかしてどこが一番痛いかで骨格診断ができるんじゃないかと思うくらい、いろんなところが痛い。私の体感では、少しばかりの脂肪などではまるでクッションの役目を果たしてくれない。やはり筋肉はカバー。


 先述した腰痛もあるが、寝るときは半身を布団にくっつける形になるので、どんな体勢で寝ようがどこかしらが痛む。


 例えば骨盤の左右の出てるところとか。これは仰向けでない限り、全方位痛いやつだ。

 背骨も痛い。背骨は痛いポイントが二つあって、一つはなんかこう、S字カーブの、こう、腰の曲がったおばあちゃんの腰の、妙に出っ張ってるあたりだ。幸い私の腰はまだ曲がっていないが、腰の痛みを和らげようとすると百歳のおばあちゃんの如く前のめりになるので、結構早く曲がる予感がある。

 ちなみにそのポイントは、浴槽に浸かっている時にバスタブにカツンとぶつけると電流走るくらい痛い。隠れファニーボーン見つけちゃった。


 もう一つは仙骨と恥骨周辺一帯。隠れファニーボーンより少し下である。一帯全部が痛いのではなく、仙骨と恥骨それぞれが痛い。痛いポイント集合地帯。筋肉がないばかりに。


 そんなわけでどう頑張って寝ても痛い。一日中どこかが痛い。


「布団を買う」と決断するにも結構な元気が要るのでずるずる先延ばしにしてしまったが、ニトリへお出かけするのも大変な体調なので、結局思い立ったときにAmazonで同じトッパーを買った。

 そう、マットレスでなくトッパーを買っちゃった。よりヘタっているのはマットレスのほうなのだが、Amazonでマットレスをわざわざ探して選ぶのが面倒くさくて出来なかったので、一度買ったことがあるトッパーに逃げたのだ。

 マットレスはただの緩衝材だから、おしり拭きでもいいよもう!


 しかし結果的に、これが超良かった。

 私は「当ホテルでは西川の布団を使用しております」みたいな寝具が売りのビジホに泊まると、ぐっすり眠れる代わりに最悪の気分で目覚める。先ほどまで見ていた悪夢を覚えていないくらいよく眠っている、ということじゃないかと思うのだが、トッパーを替えてからは、毎日自宅に居ながらにしてビジホ状態だ。目覚めの気分は最低だが、よく寝つけていると感じる。


 まあ、本当に寝覚めが悪いので手放しで「さいこー!」とは言い難いが、痛みを感じながら浅っさい悪夢を見るよりはよほど良い。

 なにしろ少し前までは眠りが浅すぎて、見た夢の内容もよく覚えているし、夢を見ながら寝返りをうったり枕ポジションを直したことも覚えているという、とんだマルチ脳状態だった。マルチタスクは苦手なのに。


「毎日毎日一日中寝てるよ~」なんて言いながら、案外ほとんど眠れていなかったのかもしれない。


 そんなわけで寝具の重要性をわかっていたのに、近頃随分それを粗末にしていたとわかった。


 で、トッパー買い替えに味を占めた私が次に投入した選手はアイマスクくんとアイス枕くんである。

 アイマスクは、朝昼の明るい時間帯にがっつり眠りたいときのために以前から欲しいと思っていたのだが、意外と高価なので二の足を踏んでいた。「百円均一で売ってそうで売っていないものランキング」があったら上位三位以内に入りそう。売ってないんだよな~。私は千四百円くらいで購入した。


 アイス枕もネットで探すと高価なものも安価なものもあり、特大サイズ、長時間使用可能、ツボ押し突起付き、使い捨てなのか否かよくわからないものまで色々出てくるので迷ってしまうが、ドラッグストアで冷凍しても固くならないシンプルなものを売っていたのでそれにした。


 アイマスクは毎日起床すると、なぜか足元に吹っ飛んでいたり、尻の下でぺちゃんこになったりしている。確かにゴムが少し緩いので、寝ている間に外れてしまうのは仕方ない。しかし寝ている間にアイマスクのポジショニングをしたり、足元にブン投げるといった記憶は残っていないから、やはり以前より熟睡できているに違いない。

 夜にアイマスクを着用するメリットとしては、自分の「寝るモード」をオンに切り替えられることだろうか。スマートフォンの画面がパッと光っても気づかないので気にならないし、YouTube動画を再生したままや、アップデートが終わらないPCを付けっぱなしにもしておける。

 今はまだ使いはじめでマスク自体のニオイが少し気になるので、これに良い感じの香りを付けてみたいな~と思案中だ。


 そしてアイス枕。これめっちゃ良い。


 でも待って、一旦アイス枕切ります。

 話をうつ病に戻す。四年くらい前、私は解熱鎮痛剤がうつ病患者のうつ症状に効くかもしれない、というネットニュースを見かけた。うつ状態真っただ中の人間に何かしらの炎症反応が認められたので、炎症を抑えればうつ症状を和らげられるかもしれない、という理屈だ。


 最近私はうつ症状が酷いとき、バファリン・塩入り麦茶・砂糖入り紅茶・ビオフェルミン・野菜ジュース(ビタミンサプリ)をとりあえず全部飲んでみる。

 要するに解熱鎮痛剤・塩分・糖分・カフェイン・整腸剤・ビタミン・水分をすべて摂取すればどれかは効くやろ、ということだ。脱水や塩分不足で不調を感じることも結構多いので、塩入り麦茶はちょっと量多めで。


 ビオフェルミンは私が腸の病気だから飲んでいるというわけではなく、脳と腸とはわりと連動しているらしいので飲むようにしている。

 これは私の勝手な推測だが、内臓の半分くらいは腸なのだし、血液が働きの悪い胃腸のほうへいってしまったら誰しも怠くなるのではないか。実際、気怠い時にビオフェルミンを飲むとなぜかシャキッとするのでおすすめです。私は会社員の頃、ラムネのようにガラガラと飲みまくっていた。


 で、炎症とうつ症状の話に戻る。

 件のネットニュースを見て以来、私はバファリンやイブを服用してみて「いつもではないけど、確かに鎮痛剤を飲んで調子がマシになることもあるな」との知見を得た。


 身体のどこで炎症が起きているのかは不明だが、うつ症状なのだから脳の可能性が高そうだなぁ、と素人ながらに思う。ろくに調べてもいないので続報は見かけていないが、発見が難しい炎症だからこれまでに発見されなかったのではないか。発見しづらいとなると、やはり脳内のどこかな気がする。


 仮に私の脳に炎症があるとして、脳を冷やしたらうつ状態良くなったりせんか?

 双極性状態の躁状態のときも、脳を冷やしたら過活動を押えらられたりせんのん?


 私がアイス枕を使ってみたいと思ったのは、そんなチルデッシュな発想からである。


 しかしシンプルに冷たいのきもち~~~頭の下に敷いたり耳を冷やすのもきもちーけど、なんかもう気持ちよすぎて抱き枕にもしてるわ。


 暑いのダメなんですよ。

 わかるでしょ名前初雪つって。しかも東北育ち長いし。

 ほんとかどうか知らんけどご先祖様ロシア人だか樺太人なんだってよ。

 暑ちーんだよ現代日本。冬しか生きていけねえんだよ。


 手放しで言える。

 アイス枕さいこ~~!!


 などと、思わずテンションが高くなってしまった。はあ、アイス枕で頭冷やそう。今日はここまで。おやすみなさいませ。



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