貧巫女の乏しき第六感、発動
最初に断っておくが、たいした話ではない。
普段からたいしたことあるエピソードの方が稀だが、今回は本当に「今月更新してないから、Twitterや近況ノートじゃなくてこっちに書いたろ」という気分で記すだけなので、いつも以上に軽く読んでほしいと思います。
私の初宮詣は武蔵一宮氷川神社だったと聞いている。
我が家は転勤族だったが、ちょうど七五三の時期は関東圏にいたため、妹たち共々なんだかんだ各地の氷川神社にお世話になった。
私とはそれなりに所縁がある神社と言って良いのではないか、と思っている。
だが、氷川神社の神様たちは私にとって結構サイケなのだ。いや、サイケって書くと逆にスピリチュアルみがあって語弊を招きそうだから止める。「大胆」あるいは「簡明」というのだろうか、難しいな。
ざっくり言うと、ダメなものはダメというのがすごくわかりやすい。
私はまったく神通力とは無縁な性質のゼロ感なので、良い気配や幸福の前兆などはしょっちゅう見逃していると思うのだが、それでも「オラオラ」と尻を叩いて追い出そうとするような感じは案外わかる。
春先など、とある場所(氷川神社に縁のある所だった)であからさまに具合が悪くなり、冷汗をかきながらぶるぶると震えていたことがあった。その際私は「御縁を結びにきたけど、この場所にあるものとはめちゃくちゃ御縁がない」と解釈したが、それが合っていたのか否かは未だわかっていない。
そんなわけで正直なところ「氷川神社ってなんかちょっと……」という気持ちがなくもない。例えるなら、顔を見るなりお行儀のことで叱ってくる親戚のおばさんみたいな存在である。親戚で気安いからこそカジュアルに叱るみたいな。
それでもやはり所縁があると自負している神社なので、たまに通りかかるとどうにも入ってみたくなる。
今日も都内某所を歩いているとき、偶然グーグルマップ上に「氷川神社」を発見した。大通りから外れているものの、目的地とはちょうど同じ方向にある。特に急いでもいなかったので、私は未だ見ぬ氷川神社へ寄ってみることにした。
境内の近所には背の低い古そうなマンションが並んでいて、レトロな都心の住宅地といった風情だった。しかしながら裏参道に出るといっきに風景が変わる。端的に言えばいたく雰囲気が良い。トトロの森のような苔むした深い緑の中に佇む鳥居は、小ぶりながら非常に古めかしく荘厳に感じた。
とりあえず本殿で御挨拶をし、私はそこそこ広い境内を探索することにした。
この氷川神社は好みのタイプだった。珍しく私との相性が良い。
実は私は、大宮の氷川神社には以前から苦手意識が強かった。かつてお宮参りをした神社であるのになんだか妙なことだが、あそこは私にとってあまり居心地が良くないし、手水を舐めればまあ不味い。
中門を出て「さてどこの鳥居から帰ろうか」とトトロの森をうろうろしていると、不意に私の身長程度しかない小さな鳥居が目に入った。
立て看板を見ると、どうやらそこはお稲荷さんのエリアらしい。よく見れば石の御社の横に狐がいる。
祠と社があればとりあえず詣でるタイプなので、本殿の方と同じように柏手を打ったのだが、こちらはまた随分と異質な空気感だった。
厭というほどではないが、他の場所に比べてなんとなくその祠の周囲は感じが良くない。平たく言えば「ちょっと怖いな」と思った。
御社の横はこんもりとした小山があり、歩いて登れるようになっている。おそらくこの上にはもっと立派なお稲荷さんの御社があるのだろう。坂の手前には簡素な鳥居もあった。
しかしどうしてもその鳥居をくぐりたくない。
なんか、虫とか多そうだし。
白のスニーカーが土まみれになるのも嫌だし。
坂登るのも疲れるし。
そんないくらでも湧いて出る言い訳を並べ立てながら、私は退散するように氷川神社の境内を出た。目当てにしていたメロンのショートケーキを食べて、その後はまっすぐ帰宅した。
家に着くなり着ていた服を洗濯機に放り込んで、ほぼ下着だけの状態で入念に手を洗う。今時期は感染症対策としてこのようにしているのだが、バッグをクローゼットに仕舞うときのことだ。思わず「あっ」と声が漏れた。
どうやら私は、肌着のタンクトップを裏表逆に着たまま出かけていたらしい。前後の向きは合っていたし、タグもないのでまったく気づいていなかった。
そのとき、私は一瞬にして小学生の頃に読んだ「地獄先生ぬ~べ~」のエピソードを思い出した。
それは妖怪退治がメインの話ではなかった。古臭い迷信を子どもに強要し煙たがれる駄菓子屋のおばあさんが登場するという、ちょっと地味めな回である。うろ覚えだが「おばあちゃんは魔女?」みたいなタイトルだった気がする。
そのおばあさんの言う迷信は「朝の蜘蛛は殺すな」といったポピュラーなもの(私の感覚です)がほとんどなのだが、私が一度も聞いたことのないものもあった。
それが「服を裏表逆さに着ていると狐に憑かれる」というものだ。
エピソード序盤でマコトくんの同級生ミキちゃんは、おばあさんから「服が逆さじゃないか」と指摘され「これはリバーシブルよ」と至極真っ当な返しをするが、終盤で「所詮は迷信、見てなさい」とマコトくんの目前でリバーシブルの服をわざとひっくり返し、案の定だが近くにいた悪いものにに憑りつかれてしまう。リバーシブルなのにちょっと可哀想。
だが私があの居心地の良い神社の中で、唯一お稲荷さんの前でだけ怖気づいたのは、意外にも仕事のできる危機察知能力か、あるいは「不敬を避けよ」というほとんど本能的な信仰が働いたのかもしれない。
と、思うとちょっと面白いな~というだけの話である。
「服を逆に着ると良くない」という迷信について詳しく調べたことはないが、あとでググるくらいのことはしてみたい。
ちなみにその神社でおみくじを引いたところ、小吉だか末吉だった。小銭がなかったので少し多めに初穂料を納めたが、その甲斐なく特によろしいことも興味深いことも書いていない。
と、思ったら下の方に短く一行
「恋愛 あきらめよ」
と書いてあり一人でめっちゃウケてしまった。一切の希望を捨てよ! みたいな。ここは地獄の門の前か?
うん、こっちの話の方が面白かったかもしれないわね。
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