酷暑 VS. 格安物件

 夏至は過ぎたが、とはいえ7月初旬である。西の空がいつまでも明るい。先日油断して夕方にドアを開けたとき、太陽光が強すぎてうっかり悲鳴を上げてしまった。鬼滅の刃にそういうシーンあったわ。


 私の部屋は東南向きだ。(物件サイトによっては南向きとも書かれるが、正確には不明)玄関側に窓はないが、東南側にはベランダに通じる大きな窓のほか、1mほどの幅の天窓もある。

 しかしその窓。向かいに建っている家の窓がびっっくりするほど西日を反射するため、夕方になると本日2回目の日差しが入るというマジックが起きる。レースカーテンのダマスク柄の陰が壁に映されるのは、なかなかロマンティックだ。綺麗だね。まるで金持ちの家みたい。


 そんな事情で冬でも明るい素敵な我が家であるが、つまりは日中のほとんどの時間を太陽光に晒される状態なのだ。

 今年の夏はこれがかなりきつい。


 我が家の家賃は2.9万円である。実際は共益費や細々とした手数料が加わるので3万円以上支払っているが、物件検索サイトで「東京都・家賃3万円以下・共益費を含まない」で検索すると、たまに私の城が表示されるかもしれない。

 これまでにも古さゆえ、安さゆえの問題は色々あったが、今年の異常な暑さがもたらした弊害がある。難しいことは何もない。つまりシンプルに、めっちゃ熱いのだ。本当にそれだけなのだが、厄介この上ない。


 もともと内見の時点で、不動産業者から以下のような説明は聞いていた。


「ロフトをベッド代わりにするんですよね? 夏はすごく暑くなりますよ。木造だし、天井と屋根がほぼ一体になってるので、太陽熱が直に照り付けるようなものなんです。クーラーがロフト部分より上にある場合は問題ないんですが。クーラーって下方しか冷えないから」


 なるほど、確かに熱は上へ、冷気は下へいくと小学校で習った。

 だから、基本的にはロフトに布団を敷いて寝床にするが、暑い期間だけロフト下に布団を敷くというルールにしている。なにしろワンルームが狭すぎて、ベッドを置くとドン・キホーテの通路くらいしかスペースが余らない。それが嫌だったので自然とそうなった。


 今年はこれまでで最も早く寝床を引っ越した。5月末くらいではなかっただろうか。

 天気が良いと熱がこもるので、4月頃から就寝前にサーキュレーターで上と下の空気を混ぜて冷やす工夫をしていた。それでも暑い。朝日が昇った瞬間から更にヒートアップ。天窓から降り注ぐ容赦ない日差しと熱。少なくとも5月のうちに、私の布団を棲み家にしていたダニたちは全滅しただろうな、と思っている。しらんけど。


 寝床を引っ越すタイミングには私なりの目安がある。

 ロフト上に小さなアナログ時計を置いているのだが、それの安否を気遣うようにして決める。


 私はデジタル時計が苦手なので壁に掛けられるアナログ時計を複数使っているのだが、実は我が家の時計、既に4つ壊れている。

 そのうち3つはほとんど同じタイミングで壊れたので、最初は霊障かと思ってドキドキした。だが、そのうちの2つはメルカリで購入した同じモデルの商品だったため「寿命かな?」という考えに落ち着いた。


 しかしその後、また時計が壊れた。パルコで購入したばかりの、間違いなく新品のものである。私は朝から出かけていて、夜に帰ってきたら壊れていた。


 再び新しい時計を購入し、説明書のようなものをチェックしてみる。すると「50℃以上の場所に設置しないでください」と注意書きがあった。


 薄々そんな気はしていたが、やはり時計たちは暑さにやられたらしい。

 ペットを飼っている人はよく冷房をかけっぱなしにして出かけるが、時計たちにも犬猫並みの愛情を注いでやらなければならなかったようだ。ごめんね。


 メルカリで買った別の時計には温度計が付いている。それによると、エアコンを付けずに出かけると5月でも室温40℃を超えるらしかった。ロフト上は50℃近くになるかもしれない。


 今年の暑さを凄まじいと感じるのは、我が家の壁の薄さゆえでもある。壁から、屋根から、玄関扉から、三方向から炙り焼きにされているような状態だ。どんなに冷房を酷使しても文字通り焼け石に水。冷房の設定を22度以下にしても室温が32℃から下がらない。こんなことは初めてだった。もはや100時間ぶっ続けで稼働させているエアコンのほうが壊れそうで怖い。


 時計も大事だが、昨年ノートPCを買ったばかりの私にとっては、こちらの安否もかなり気になるところだ。実際、どれくらいの室温に耐えられるんだろう? エアコンは大家さんが買ってくれるはずだがPCが壊れたら誰も責められない。やばい。絶対壊れて欲しくないんだけど。


 そんなわけで「うちでは可愛いわんちゃんを飼っているから仕方ない」と思い、なるべく常に室温が高くならないよう気を付けて過ごしている。


 安物買いの銭失いと言うが「馬鹿みたいな暑さで時計が壊れる」なんていうのはまさに盲点だった。逆にまだ壊れていない洗濯機や扇風機を褒めてやりたい。みんなえらい! 頑張ってる! これからもよろしくね!


 今年の暑さを鑑みるに、このような古い木造住宅に人間が住めなくなってしまう、そんな未来も近いのではないか? と、不安になる。

 住宅建築の素材に耐熱性の怪しいものとか含まれてないんだろうか。30年前なら50℃程度を耐えられれば材料として問題なかっただろうが、もはや耐熱基準が50~60℃では心許ない時代になってしまった。


 可能な限り早く、エアコンを消して出かけられる物件に引っ越したい。この部屋のことは嫌いではないが、格安物件はやはり日々戦いである。


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