【短編集】ことほげ!貧乏神チャン
平蕾知初雪
貧乏人はお金を遣った経験も乏しい
少し前、ハンドメイド作品を販売するのが流行ったが、なにかモノを売った経験はあるだろうか。飲食店を経営していたとかでもいい。
ここではフリーマーケットやバザーの話は省くから、あまり経験がない人のほうが多いかもしれない。
貧乏人は売値の設定にその貧乏感が出る。
唐突にデカめの主語で話を始めてしまって申し訳ないが、書きやすいのでこのままデカい主語で書こうと思う。
自分が大きな買い物をした経験に乏しいと、顧客もそうだろうと思う。
例えば古物商許可を取ってアンティーク雑貨を買い付けてきたとする。
その中にとても貴重なアンティークのスプーンがあり、原価を考えると4,000円以上にはしたい。
しかし貧乏人はここで「自分だったらスプーン1本に5,000円も出さないし、買ってもらえないだろうな」なんて思ってしまう。そして「お客さんのために」と自分に言い聞かせて、4,400円くらいで売ってしまうのだ。ずっとこんな調子だと、売れようが売れまいがいつまでも潤わない。
一方、感覚的にお金を遣うことに慣れている人は、モノの価値に見合った強気の価格設定ができる。貧乏人と違い、そこは臆さない。その上彼らの周囲には最初からモノの価値がわかる他の人間がいるので、彼らは商売を始めてもすぐにすっと軌道に乗る……ように見える。
そのスプーンに価値を見出せる人は「ヴィクトリア時代のものなのにギリシャ風のデザインなんて面白いね!」とか何とか言って7,000円や8,000円であっても買ってくれるし、多分、お金持ち気質の周りには『妥当な価値のわかる人』兼『買いたいものを買いたい人』が集まって来るのではないか。
「良いものにお金を払いたい」という気持ちの人は、結構いつもアンテナを張り、欲しいものやお金を遣う先を探しているイメージがある。
「類友」が肝なのかもしれない。
臆して高値を付けられない貧乏人の店を好むのは結局、安さに目が眩んだ貧乏人ばかりなのだ。
安売りは「価格のファン」ばかりを生む。商品や品揃え、店(あるいはオーナーその人)自体のファンではないから、もし似たようなものをもっと安く売っているところがあれば、客はすぐそちらに流れてしまう。
私は「無印良品なんて高すぎて買えねぇ~~!」と悶えているレベルの貧乏人だが、あれのようにブランドイメージなどを付加価値としてファンを増やすのが、やはり「安売り商売」の場合の常套手段なのだろう。Awesome Storeもめちゃくちゃデカい声で「オシャレやで!!」とアピールしながら店舗増やしたし。
でなければ、貧乏人相手に商売をして儲けるのは、おそらく相当難しいのではないか。というか、儲けようとするとイケアやコストコのような戦法になるだろうし、個人ではハードルが高いように思う。
よくよく考えれば、飲食店の検索サイトには予算からレストランや料理コースを選ぶ機能もある。単純な話で、高価なものにも常に需要はあるということだ。
しかし貧乏人の場合、何事においても圧倒的経験不足が痛い。
お婆ちゃんの還暦のお祝い、どこのレストランに行く?
あら、Aホテルの上階に、新しくヌーベルシノワのレストランができたんですって。開店記念の20,000円コースが美味しそうね、ウェルカムドリンクも付いていてお得だし。
こんな会話が家庭内で飛び交っていた経験がないので、20,000円のコース料理があるような店に入る勇気が出ないのも、自分が店を持った時に「誰でも気軽に! アットホームなカジュアルフレンチです!」とついつい良心的過ぎる価格設定にしてしまうのも、致し方ないのである。
東京で暮らすようになり、駅前を歩いていると「意外と喫茶店なんかが潰れないんだな」と思う。
地方都市だと、開店したそばからどんどん潰れる……というイメージが強い。
田舎から出てきた貧乏人が「自分でお店を持つなんて無理無理」とリスクばかり考えるのは、若い時からそんな光景を見てきているせいもあるかもしれない。地方都市(ケチばっかりの地方都市もあれば、お金を遣いたがる地方都市もあるが)の、家賃がお高そうながらも良い感じの喫茶店、マジですぐ潰れる。
かと言って、自分にはとっくに不要のものを、あわよくばとメルカリで恥ずかしげもなく定価みたいな価格で売るのもまた貧乏人である。
1日でもおまえの家に置いてあった時点で新品未使用も4割引なんだよ!!
これはただの愚痴です。
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