35.魔王
「みんな! 一気に押し切るぞ!」
僕が号令を出すと。
「プロテクション・シールド」
バシュン!
ジョウカーは自らを囲うように、光の防御膜を展開した。
この状況で守り一辺倒とは、ずいぶんと消極的だ。
「想定を超える事態への対応は、苦手みたいね」
挑発するように、ハルカが言う。
「何とでも言いたまえ。キミたちの力が強大でも、打ち破ることは――」
「できますわ」
サラリと、アイは答えると。
「はああああああああ!」
アイは、ジョウカーに向かい大ジャンプ!
そのまま、斧を一気に振り下ろす!
「アース・ブレイク!」
バギイイイイイイイイイイン!
一撃で、ジョウカーの防御膜は砕け散った!
「な……にっ……!?」
驚きの声をあげるジョウカー。
そのチャンスを見逃さず!
「そこね!」
「もらったわ!」
ナヅキとユウリが、ジョウカーに向かい突っ込んでいく!
「ミスティー・ダンス!」
「サンダァァァァア・ストラァァァァッシュ!」
ズバッ! ズバッ! ズバッ! ズバッ! ズバアアアアアアアアァァッ!
「む……ぐっ……!?」
ふたりの連続攻撃に、ジョウカーは大きく体をグラつかせる!
「今です、マモルさま!」
「もうひと息よ、マモルくん!」
「あとはまかせたわ、マモル!」
3人が、バックジャンプで飛び退く。
そのタイミングを狙って。
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!
ふたたび、呪いの首輪が飛んできたが。
「甘いわよ! チェイサー・アロー!」
ガキガキガキガキガキーーーーン!
ハルカは苦もなく、すべての首輪を叩き落とした!
「馬鹿……な……!?」
ジョウカーは、棒立ちで硬直している。
スキだらけだな!
「これで最後だ! ジョウカー!」
僕は『力』を発動させ、ジョウカーのふところへ飛び込んだ!
「いにしえの勇者たちよ! 僕に力を!」
こぶしを光り輝かせ!
「シャイニング・ボンバァァァ!」
僕はジョウカーのボディに、渾身のストレートを叩き込む!
バギイイイイイイイイイイィィ!
「がっ……はっ……!」
ジョウカーの口から、苦悶の声がもれる。
僕の一撃は、ジョウカーの腹部を貫通していた。
手ごたえはあった。
ありすぎるほどに、あった。
だが……。
「何だ、この感触は……?」
硬い感触。
無機質な感触。
生命の息吹を感じない、冷たい感触だった。
「クククク……」
いきなり、ジョウカーが笑い出した。
「クックックックックックッ……ハッハッハッハッハッハッ……!」
僕はこぶしを引き抜き、後ろに下がる。
「確かに……ワタシの負けのようだ。だがこれで、ワタシが終わったわけではない」
「……どういう意味だ」
聞き返す僕に、ジョウカーは告げる。
「『魔王』を倒しても、『魔王』は生きている。『魔王』が死なない限り、『魔王』は何度で……も……?」
そこで、ジョウカーの言葉が止まった。
「ワ……ワタシは……? ワタシはいったい何を言ってるのだ!?」
ジョウカーの体が、ガクガクと震えはじめる。
「ワ、ワタシは魔王ジョウカーだ! 『魔王』によって造られた、この世を支配する魔王ジョウカー……!?」
何やら勝手に混乱しているが……。
造られた?
ということは、コイツはやっぱり……。
「『魔王』に!? ワタシが『魔王』に造られた!? だがワタシは魔王だ!? ワタシがワタシを造ったのか!? ワタシがワタシにツクられたのか!? ワタシがワタシでワタシがワタシ!? ワタシはワタシはワタシガワタシハワタシハ!?」
ジョウカーは、意味不明な言葉をわめき散らかしながら。
全身を、激しくけいれんさせている。
まるで……壊れた操り人形みたいに。
「ワタシはワタシはワタシガワタシハワタシハワタシはワタシはワタシガワタシハワタシハワタシワタシワタシワタシワタシワタシワタワタワタワタワタワタワタワタワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワ」
やがて、ジョウカーは。
「ワタシハイッタイ……ダレナンダ……」
ぽつりとつぶやき。
その場に崩れ落ち、動かなくなった。
「…………」
壮絶な光景に。
しばらく、誰も動けなかったが。
「ひるんでる場合じゃない」
僕は気持ちを奮い立たせ、動かなくなったジョウカーに近づいた。
魔力の発信源を探ってみる。
「仮面……だな」
僕は、闇色のクリスタル付きの仮面に手をかけ。
しばらく調べ回したあとで。
ジョウカーの顔から、仮面を外した。
すると。
「これは……!」
仮面の下には……顔がなかった。
のっぺりした、球体の金属があるだけだ。
「ということは……」
続いて僕は。
ジョウカーのまとっているローブを、一気にはぎ取ると。
「あっ……!」
ナヅキは息をのみ。
「これって……!」
「人……形?」
ユウリとハルカは、ぼう然とつぶやいた。
そう。
そこにあったのは。
腹部に大きな穴が開いた、人型をした金属のカタマリだったのだ。
「……お見事です、マモルさま。昨夜の推測は、当たっていたようですね」
感嘆の声をもらすアイに、僕はうなずく。
「ジョウカーは。追い求めている、復讐相手の『魔王』じゃなかった」
そう。
「僕たちの復讐は、まだ終わっちゃいない」
僕は、ジョウカーから外した『仮面』を握りしめながら。
懐中時計に目をやった。
「8時ちょうど……か」
それを確認した瞬間。
「うあっ……」
僕はその場に、がっくりと膝とついた。
「マモルくん!?」
「マモル!?」
「お兄ちゃん!?」
「マモルさま!?」
駆け寄ってくる、みんなに向け。
僕は、告げる。
「ダメだ……『いにしえの勇者パーティー』の力が、僕の中から消えた……」
「なっ!?」
みんなが絶句する。
「ウ、ウソでしょ!? マモルくん、ウソよね!?」
「ちょっと!? マモルの『力』が消えちゃったら、どうやって真の『魔王』を倒せばいいのよ!?」
「こ、これじゃ……勝てないの!?」
「マモルさまの『力』なしでは、打つ手が……!」
「そ、それは……」
みんなに言葉をつむごうとした、その瞬間。
「アハハハハ! アハハハハハハハハ!」
背後から、高笑いが響いた。
「誰……だ?」
振り向くと、そこには。
「ざまぁないわねぇ?」
ひとりの女が立っていた。
「さんざんエラそうなこと言ってたくせに、真の敵を見誤って時間切れとか? すっごい笑えるんですけど! アハハハハハハ!」
女は余裕たっぷりに、僕たちの方へ歩いてくる。
まちがいなく、見知った顔だった。
(コイツが……真の魔王……)
僕は、その場に膝をつきながら。
手にした仮面を、ぎゅっと握りしめる。
(釣れた……! 賭けに、勝ったぞ……!)
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