34.決戦
午後7時50分。
設定した『力』のタイムリミットまで、10分を残し。
玉座の間にたどり着いた僕たちを、出迎えたのは。
「ふむ。キミが解呪師のマモルか」
余裕しゃくしゃくといった様子の、ひとりの男だった。
全身を白いローブで包み、顔には仮面をつけている。
仮面の額部分には、闇色のクリスタルが不気味に輝いていた。
「アンタが、ジョウカーだな?」
「その通り。ワタシが『魔王』ジョウカーだ。自己紹介ぐらいは、した方がいいかな?」
「結構だ」
僕は首を振る。
「ここに来る途中で、ハルカから話は聞いている。それに、長い付き合いにはなりそうもない」
「ふん、言ってくれるね。しかし」
ジョウカーは大げさな仕草で、肩をすくめる。
「まさか本当に、『魔王の呪い』を解呪できるとは思わなかった。キミの話は、勇者ダイトから軽く聞いていたが。ここまでの力を持っているとは、さすがに想像できなかったよ」
「そんなことはどうでもいい。アンタには、聞きたいことがある」
「ほう。何かな? 答えられる質問であれば、何でも答えさせてもらうよ」
僕は、ジョウカーの仮面を見据え。
聞く。
「10年前。僕の故郷『フューチャ村』は、火災で滅びた。犯人は、アンタか?」
「ふむ……」
しばしの沈黙のあとで。
「あいにくと、記憶にないね」
ジョウカーは、あっさりと否定した。
「ワタシは『魔王』だ。魔王は本拠地の最深部にいると、相場が決まっているだろう? ワタシがこの城を留守にしたことは、一度もないよ。自慢にはならないがね」
「……そうか」
真実か?
フェイクか?
断言はできないが。
僕の予想が正しいとすると。
(真実……なんだろうな)
ならば。
「聞きたいことは、以上だ」
僕は会話を打ち切った。
ジョウカーが『偽りの魔王』ならば。
この場で、コイツを倒すことで。
状況は、確実に動く。
「決戦といこうか。とっとと片付けさせてもらうぞ」
僕の宣言で。
「できるものなら、ね」
ジョウカーに、殺気がみなぎる。
「人の命をゲームの駒にする。そんなふざけた真似、私は絶対に許さない」
「アンタが何者でもいい。ハルカをもてあそんだツケは、キッチリ払ってもらうわよ!」
「借りは返させてもらうわ、ジョウカー。もう、同じ手は食わないから」
「わたくしの悲願。お嬢さまたちの悲願。そしてマモルさまの悲願! この場で、必ず果たします!」
ナヅキが、ユウリが、ハルカが、アイが。
それぞれ武器をかまえた。
にらみ合いが数秒、続いたあとで。
「では、こちらから」
先に仕掛けたのは、ジョウカーだった。
ヤツは、バックジャンプで距離を開けると。
「――アピアランス」
手を広げたジョウカーの前方に、4つの透明なオーブが出現する。
「ブリザード、ライトニング、シャイニング、ダークネス」
ジョウカーの詠唱で、オーブに次々と色が灯っていく。
1つ目は、青に。
2つ目は、黄色に。
3つ目は、白に。
4つ目は、黒に。
「ハルカの言っていた、つぶての技で来るか」
それなら。
「これまで使った『力』でも、対応できるな」
僕は、ジョウカーの技の発動に備える。
すぐに。
「テトラ・バレット!」
ブアアアアアアアア!
ジョウカーの合図でオーブから、4色のつぶてが大量に撃ち出された。
すかさず僕も、『力』を発動する。
「いにしえの勇者たちよ! 僕に力を! ロック・スプレッド!」
宣言で僕の手から、こぶし大の岩が大量に撃ち出される。
ガギガギガギガギガギイイイイイイイイイイイン!
僕が撃ち出した岩の嵐は、ジョウカーのつぶてを片っ端から撃ち落としていく。
ホープタウンの勇者パーティー戦では、手加減して使ったが。
本来の力を出せば、この程度の芸当はできる。
「こちらからもひとつ、聞きたいことができたよ」
つぶてを撃ち続けながら、ジョウカーが質問する。
「解呪師マモル。キミは、本当に解呪師なのか? キミの今の芸当は、解呪師の域を超えている。どんな手品を使っているのかな?」
「さあね」
つぶてを撃ち落とし続けながら、僕はしらばっくれる。
「タネがバレちゃ、手品の意味がないからな」
「ふん。まあいい」
ジョウカーは鼻を鳴らした。
「推理は嫌いではないのでね。キミに教える気がないなら、ワタシ自らの手で暴くまでだ」
ガギガギガギガギガギイイイイイイイイイイイン!
ジョウカーのつぶての嵐と、僕の岩の嵐。
双方が、激しく火花を散らしたあとで。
先に勢いが鈍ったのは。
「ちっ……!」
ジョウカーのつぶての方だった。
ヤツは手を広げると、ふたたびオーブに魔力を込めようとする。
「させるか! ナヅキ、ユウリ、アイ! オーブを破壊するぞ!」
合図とともに。
僕はジョウカーが展開する、黒のオーブめがけて走った。
「了解よ!」
「まかせて!」
「はい!」
同時に3人も、それぞれ別のオーブへ向かっていく。
「ふっ!」
「てやあっ!」
「はあああっ!」
パキン! パキン! パキーン!
ナヅキの鎌が、青のオーブを砕き。
ユウリの剣が、黄色のオーブを砕き。
アイの斧が、白のオーブを砕いた。
そして、最後に。
「せえっ!」
パキーン!
僕の手刀が、黒のオーブを砕く。
その瞬間。
ブアアアアアアアア!
僕の砕いたオーブから、闇が大量に噴き出す。
ハルカから聞いた、情報の通りに。
「いにしえの勇者たちよ! 僕に力を! メガ・フラッシャー!」
パアアアアアアアア!
僕は即座に『力』を発動させ、空間を光で包んだ。
闇と光とがぶつかり合い、お互いを打ち消し合って消滅させる。
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!
そのタイミングで僕たちに向け、呪いの首輪が飛んできたが。
「チェイサー・アロー!」
ガキガキガキガキガキーーーーン!
後方に控えていたハルカの矢が、すべてを撃墜してみせた。
「なにっ……!?」
「ムダよ」
驚くジョウカーに向かい、冷静にハルカは告げる。
「それはただの初見殺し。二度目は通用しないわ」
「ま、二度目は想定してなかったんだろうけどな」
僕も、ジョウカーに言ってやる。
「ついさっき、言ったはずだ。タネがバレちゃ、手品の意味がない」
つまり。
「ハルカを泳がせておいたのは、大失敗だったってわけだ。首輪の呪いを過信した、アンタのミスだよ」
「むうっ……!」
うなるジョウカーに向け。
僕は宣言する。
「倒させてもらうぞ、ジョウカー。僕たちの目的を果たすために、な」
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