33.姉弟 【勇者side⑫】



「クソが……クソがクソがクソがクソがああああぁぁ!」



 痛みを、怒りで押さえつけ。


 オレは立ち上がった。



「ブッ殺してやる……コイツだけは……絶対に……!」



 オレは剣を抜き、シャル姉……いや。


 シャルロッテをにらみつけ。



「うおああああああああぁぁ!」



 全力で、ヤツに突撃したが。



「ダーク・ホーリーウォール!」




 バキイン!




「うがああああああぁぁ!」



 シャルロッテが繰り出した光のカベに、弾き飛ばされた。



「ムダムダぁ! シャルちゃんの防御は鉄壁でーす! へっぽこダイトくんなんかに、破れるわけがありませーん!」



「そのわりに……ハンター・ハルカにはカンタンに破られてたよなぁ……?」



 勝ち誇るシャルロッテに、オレはニヤリと笑った。



「なにが鉄壁だ……へっ!」



「む……」



 シャルロッテの頬が、ヒクリと引きつる。



「そーいう細かいとこ、イラつくんだよねぇ。ホンっとキラい」



 いまいましげに吐き捨てると、シャルロッテは光のカベを消し去った。



「クソ……がああぁぁっ……!」



 オレは剣を支えに、どうにか立ち上がるが。



「ダーク・ホーリーシュート!」



 すかさずシャルロッテは、光線を放った。




 バシュバシュバシュバシュッ! ドシュッ! ドシュッ!




「ぎぃぃぃぃああああああああぁぁ!」



 光線に左腕と右脚を貫かれ。


 オレは膝から、前のめりに崩れ落ちた。



「ぐが、ああぁぁ……」



 両腕からも両脚からも、血がドクドクと吹き出している。


 もう、立ち上がれそうもなかった。



「そろそろ、お別れみたいだねぇ?」



 シャルロッテがゆっくりと、オレに近づく。


 手には、ナイフが握られていた。



「やっぱりトドメは、自分の手で刺すに限るよねー!」



 シャルロッテが近づいてくる。


 ニヤニヤと、勝利を確信した表情で。



「遠くから魔法で殺しても、ちーっともおもしろくないし!」



 もはや、ヤツとオレとの距離は、ほんの少ししかない。



「死ぬ直前と、死ぬ瞬間と、死んだあと! 一番イイ顔はどれかなぁ? シャルちゃんがちゃーんと、見比べてあげるね! キャハハハハ!」



 そして、ついに。


 シャルロッテの足が。


 オレの目の前で止まった。



「それじゃあバイバイ、ダイトくん! 地獄でサリィちゃんと仲良く――」



「うおああああああああああああああ!」




 ガシッ!




 オレは気力を振り絞り。


 両手で、ヤツの左足首をつかんだ。



「へ?」



 間抜けな声を出すシャルロッテに、憎しみの限りを込めて。



「おおぉぉぁぁああ……」



 オレは気合ともに、体内の魔力を高めていく。




 ゴゴゴゴ……!




 周囲の空気が、ビリビリと震えだす。



「な……な……? なななな何? 何なのよぉ?」



 うろたえるシャルロッテに向かい、オレは答える。



「メギド……」



「えっ……?」



「体内の魔力を暴走させて放ち、触れている生物を焼き尽くす……。勇者であるオレの、切り札だぜ……」



「ひっ……!?」



 ヤツの口から、悲鳴がもれた。



「使えば瀕死状態になる……。しばらくは回復も受け付けなくなるが……」



 オレはニヤリと笑う。



「コレでテメエをブチ殺せるなら、安いもんだ……!」



「う……うそ……でしょ……?」



 シャルロッテは、震え声でつぶやくと。



「は、離して! 離せ! 離せ離せ! 離せええええぇぇ!」



 足に力を込め、オレの手を引きはがそうとする。


 しかし。



「誰が離すかよぉ……!」



 オレは死に物狂いで、シャルロッテの足首を握り続けた。



「地獄に行くのはテメエの方だ――」



「離せって言ってんでしょうがよおおおおおおぉぉ!」




 ドガッ!




「ぐほっ……!」



 頭に激痛が走った。


 シャルロッテが右足のカカトで、オレの頭を踏みつけたのだ。



「離せ離せ離せ離せ離せ! いい加減にしろおおおおおおおおぉぉ! 離せええええええええぇぇ!」




 ドガッ! ドガッ! ドガッ! ドガッ!




「あがっ……がっ……ぎ……!」



 シャルロッテのカカトが、頭に雨あられと降り注ぐが。



「ぐぎ……ぐ……ぬぐぐぐ……!」



 オレは耐えた。


 耐えに耐えて、己に魔力をため込み続ける。




 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!




「あと30秒だ……フィナーレまで、あと30秒だよ……! へへっ……!」



 オレの宣言に。



「イ……イヤ……」



 シャルロッテは、弱々しい声をもらしたかと思うと。



「イヤあああああああああぁぁ!」



 耳をつんざくような、金切り声が響いた。



「ごめんなさいダイトくん許してごめんなさい! あたしが悪かったから殺さないで! あたしたち姉弟だよね! ふたりだけの姉弟だよね! これから一生ダイトくんに尽くすからぜったいだからお願いお願い助けて助けて助けてええええええええ!」



 カカトの雨は止まった。


 顔を上げると、シャルロッテはブザマに尻もちをついている。


 完全に、腰が抜けたらしい。



「何が……姉弟だよ……」



 オレはあきれた。


 心の底からあきれた。



「姉らしいことなんて……一度もされたこと……ねえ……よ」




 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!




「さあ……フィナーレだ……」



「イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤああああああああああ!」



「最後に……言わせてもらうぜ……」



「だれか助けてええぇぇ! サリィちゃんツカサちゃん助けて! 助けて助けて助けてよおおおおおおおおおおお! イヤだあああああああああああああ!」



「昔から……オレは……オレも……テメエが……テメエの、ことが……」



「ジョウカーでもいいからああああああああぁぁ! ハンター・ハルカでもいいからああああああああああ! 解呪師さんでもいいからああああああああああ! お願いだからああああああああああああ!」




「大キライ……だったぜ」




「イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだあああああああああああああああ!」



 心地よい、シャルロッテの音色を耳にしながら。


 オレは。


 収束した魔力を、解き放つ。



「メギド……」




 カッ! ドゴオオオオオオオオオオオオン!




「あぎいいいいいいいぎゃああああああああああああああああああああ!」



 巻き起こった爆風は。


 一瞬で。


 シャルロッテを黒焦げにした。



 その、美しい光景に。



「へへっ……へへへっ……」



 口からは自然と、暗い笑いがもれた。



「へへへへ! へへへへへへ! へへへへへへへへ! へへへへへへへへへへへへ!」



 ひとしきり笑ったあとで、爆風がおさまると。


 目の前には。



 焼け焦げた消し炭の山。


 すなわち。


 シャルロッテだったものの残骸が、こんもりと残されているだけだった。



「ざまぁみやがれ……」



 ふっと、体の力が抜けた。


 オレは今度こそ、前のめりに突っ伏す。



 意識を手放す瞬間、耳元で。




 カツカツカツ……。




 誰かの足音が、聞こえたような気がした……。


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