32.反逆 【勇者side⑪】



 午後7時15分。



「クソクソクソクソクソおおおおぉぉ!」



 オレは叫び散らかしながら、魔王城内を駆け回っていた。



「ヤツらはどこにいやがんだよおおおおぉぉ!」



 ツカサの転移魔法で、魔王城まで飛んできたはいいものの。


 いくら城内を走り回っても、マモルたちは見つからない。



「もしマモルが、ホントにクソ魔王をブチ殺しちまったら! オレは死ぬ! 死んじまう!」



 いやだ!



「そんなのはいやだ!」



 マモルとジョウカー。


 両方と戦ったからこそ、わかる。


 マモルの力はあきらかに、ジョウカーよりも上だ。



「どうにかして、マモルを止めなきゃならねえ!」



 死への恐怖のせいなのか。


 オレの背中には、冷や汗が流れ続けていた。



「ダイトさん! こうなったら、玉座の間に行ってジョウカーに助力を――」



「ざけんじゃねえ!」



 オレはブチ切れながら、ツカサの話をさえぎった。



「あんなヤツ、信用できるか! あのクソ魔王の策が中途半端だったから、こんな状況になってんじゃねえかよ! 野郎、何が現状打開策だ!」



「でっ、でもそれは! あの解呪師たちの乱入が、予想外だったから――」



「知ったことかよ!」



 オレは一蹴した。



「世の中、結果がすべてだ! 『魔王』の提案に乗ったせいで、ハンター・ハルカを取り逃がした! だったら全部、『魔王』が悪いってことになるだろうがよ!」



「…………」



 ツカサは黙り込んだ。


 そのとき。



「あっ! あっあっ! あーーーーーーっ!」



 急に、シャル姉が大声を出した。



「ダイトくん! ツカサちゃん! あいつらがいたよ!」



 なにっ!? 



「どこだ!? どこに行きやがった!?」



「あっち!」



 シャル姉が、暗闇の奥を指差す。



「向こうの角を曲がっていったの! ちらっと姿が見えたんだ!」



「でかしたぜ、シャル姉! たまには役に立つじゃねえか!」



 オレは、シャル姉が指し示した方向へと猛ダッシュする。


 ツカサも追いかけてきた。


 ……のだが。



「ありゃ……?」



 オレは首をかしげた。


 そこは、行き止まりだったのだ。



「誰もいません……よね?」



 ツカサも、いぶかしげな表情を浮かべている。



「んだよ! ただの見間違いか!? 期待させやがって!」



 オレはイラつきながら振り向き、言葉をブチまける。



「おいシャル姉! テキトーなこと言ってんじゃねえよ! テメエは昔からいつもいつも……って」



 え?


 あれ?



 後ろにシャル姉が……いない?



「おい? シャル姉、いったいどこに――」




「ダーク・ホーリーシュート!」




 いきなり。


 はるか前方から、声が響いたかと思うと。




 バシュバシュバシュバシュッ!




 光線の乱れ打ちが飛んでくる!



「うおああああああああ!?」



 な、なんだ!? 


 何が起こった!?


 オレは混乱しながらも、光線をよけ続けるが。



「ダーク・ホーリーシュート!」




 バシュバシュバシュバシュッ!




 間髪入れずに、次の光線が飛んでくる。


 そして。




 バシュッ! 




「うあっ!?」



 オレの隣にいた女は、よけきれなかったらしい。



「うあ……あ……あ……」



 ツカサの体が、前のめりに崩れていく。



「ツカサ!?」



 そんなツカサに、気を取られたスキに。




 ドシュッ!




 オレの右腕を、光線が貫通した。



「うぐああああああぁぁ!?」



 オレは痛みに絶叫した。


 ハイ・ポーションで回復しようにも、できない。


 マモルが引き連れていた女どもとの戦いや、ハンター・ハルカにやられた脚のケガの回復で、すべて使い切ってしまっていたのだ。



「ぐうううう……っ!」



 オレはうずくまりながら、傷を押さえる。


 そんなオレの耳に。




「なーんだ。殺せたのはツカサちゃんだけかぁ」




 ひどく能天気な声が響いた。



「本命は仕留めそこなっちゃったなぁ。残念ざんねーん」



 声の主はゆっくりと、オレに近づいてくる。


 誰なのかは、確認するまでもない。



「どういうつもりだ……シャル姉」



 オレが振り絞るように、声を吐き出すと。




「も・ち・ろ・ん! ダイトくんの首をもらうためだよ?」




 シャル姉は、あっけらかんと続ける。



「ダイトくんの首をおみやげにして、あの解呪師のところに寝返ろうかなーって! ダイト君視点でいえば、反逆ってヤツかなぁ? キャハハハハ!」



 シャル姉の瞳は、キラキラと輝いていた。



「だってだって! このままダイトくんといっしょにいても、絶対助からないし? でもでも、あの解呪師さんに取り入って首輪を外してもらえば、助かるでしょ! でしょ?」



 言いながらシャル姉は、ニヤリと笑った。



「勇者パーティーのリーダーの首を持っていけば、きっと喜んでくれるよね? で、首輪を外してもらったあとは、テキトーにコビを売って油断させて! テキトーなタイミングで始末すればオッケー!」



「ぐ……ぐぐっ……!」



 うめくオレを尻目に、シャル姉はケラケラと笑い続ける。



「そうだ! ついでにハンター・ハルカと、取り巻きの女たちも殺しちゃおっと! 気に入らないんだよねー、ムダにかわいくて美人な女って。そういう可憐な女の子は、シャルちゃんだけで十分なのに!」



「おい……シャル姉」



 怒りと、あきれを込めて。


 オレは、シャル姉に告げる。



「テメエには昔から、言いたいことがあった」



「へえ? 何かなぁ?」



 首をかしげるシャル姉に向かい、オレは言葉をぶつける。




「テメエは、狂ってる」




 オレの言葉を受け、シャル姉は。



「……あはっ」



 口の端を吊り上げると。



「あははは! キャハハハハ! キャハハハハハハハハ!」



 あざけるように笑った。



「あーーおっかしいぃ! それぇ、ダイトくんが言うぅ?」



 笑うシャル姉の瞳に、あきれの色が浮かぶ。



「どーーーーう考えても、ダイトくんの方がぁ。頭おかしいと思うよ?」



「うるせえ! テメエといっしょにすんじゃねえ!」



 オレは全力で否定するが。



「ま、別にどうでもいいけどねー」



 シャル姉は肩をすくめながら、くちびるをゆがめた。



「でもぉ。そういうこと言うならぁ。シャルちゃんからも、言わせてもらうね?」



 じりっ、と。


 オレに、シャル姉が近づく。



「シャルちゃんはぁ、昔からぁ……ダイトくんのことがぁ……」



 シャル姉の声に、危険な色が混じった。



「やべっ……」



 と思った瞬間。



「だいっキライだったんだあぁ! ダーク・ホーリーシュート!」




 バシュバシュバシュバシュッ!




 嵐のような光線は、一気に殺到し。




 ドシュッ!




「ぐあああっ!? うぎゃああああああああぁぁ!」



 オレは左脚を光線に貫かれ、その場に倒れ伏した……。


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