31.決意



 午後7時。



 僕、ナヅキ、ユウリ、ハルカ、アイ。


 魔王城に突撃した、僕たち5人は。


 城内を駆け回っていた。



「次の分かれ道は、右だな!」



「落とし穴のトラップに気をつけて」



 城内の構造は、僕の『力』で把握済み。


 プラスで、ハルカのガイドがある。


 迷うことなく着実に、僕たちはジョウカーのもとへと向かっていた。



「ハルカ。今のうちに、ジョウカーの戦闘力を確認してもいいか?」



 僕の問いに、ハルカはうなずく。



「注意すべきなのは、ふたつよ。オーブから発射される、つぶての嵐と。闇を使った目くらましからの、呪いの首輪ね」



 ハルカは続ける。



「とはいっても、わたしでも1対1で渡り合えたぐらいだから。このパーティーなら、負ける要素はないと思う」



「そうよね! 何てったって、あたしたちにはマモルがいるし!」



 なぜかユウリが、誇らしげに胸を張ると。



「ええ! たとえ、首輪をハメられたとしても。マモルさまのお力で解呪いただけるのは、証明済みですので!」



「ホント、非常識な解呪力よね。今さらだけど」



 アイもナヅキも、信頼に満ちた視線を向けてくれる。



「でも、油断は禁物だ。それに本命は……おっと!」



 前方から、モンスターの群れが現れた。


 キメラが複数に、ゴーレムとデーモンが1体ずつだ。



「いくぞ!」



 僕の号令で、みんなは武器をかまえる。


 かくして、戦闘は始まったが。



 戦いは一方的だった。



「ソニック・ウェーブ!」



「サンダー・ブリッツ!」



「レイン・アロー!」




 バシュン! バヂバヂバヂバヂッ! ビシュッ! ビシュッ! ビシュッ!




「ギャギャギャギャアアアアアアァァ!」



 ナヅキの衝撃破が。


 ユウリの雷撃が。


 ハルカの弓の嵐が。



 あっという間に、キメラの集団を蹴散らすと。



「はああああああああっ!」




 バギイッ!




「グガアアアアアアァァ!?」



 アイの斧は、一撃でゴーレムを叩き砕く。


 最後に。



「いにしえの勇者たちよ! 僕に力を! トルネード・エッジ!」




 ブオアアアアアアァァ!




「ウギャアアアアアアァァ!」



 僕が『力』で生み出した竜巻の刃が、デーモンを切り刻んだ。



「よし、先を急ごう!」



 僕らは、ふたたび駆け出した。



「こんなこと言うのも、アレだけど」



 走りながら、ユウリがしみじみとつぶやく。



「あたし、ちょっぴり嬉しいの。みんなとパーティーを組んで戦う日が来るなんて、思いもしなかったから」



「わかるよ……ユウリさん」



 ハルカが賛同すると。



「わたくしも……ユウリお嬢さまやハルカお嬢さまと、同じ気持ちです」



 アイもうなずいた。



 僕の心にも、幼い頃の思い出が浮かんでくる。




『アイね! おっきくなったらメイドさんになる! ただのメイドさんじゃないよ! 戦えるメイドさんになって、マモルさんやみんなを守るの!』



『それじゃあユウリは、魔法剣士になるわ! 剣にカミナリをドカーン! って落として、ズバッ! て敵をやっつけるの! かっこいーでしょ!』



『ハルカは、弓使いになろうかな。みんなの後ろから、ビシュッて矢を撃って助けるんだ』



『僕は、やっぱり解呪師かな。鑑定士さんに見てもらったけど、すごい才能を持ってるって言われたし』



『えー? ちょっと地味じゃない? ユウリ、マモルには勇者が似合うって思うけどなー』



『わたしは、解呪師もいいと思う。ハルカが大変な呪いにかかったとき、お兄ちゃんに助けてもらうの。そういうの、あこがれちゃうな』



『アイ、いいこと思いついたよ! 解呪師と勇者、両方なっちゃえばいいんだよ! マモルさんなら、絶対できるから!』




「これも、運命なのかな」



 だとしたら。



「僕らの運命の女神様は、ナヅキだ」



「え?」



 きょとんとするナヅキに、僕は続ける。



「もしもナヅキと出会わずに、僕が『封印の塔』で命を落としていたら。ユウリもハルカも、アイも。今頃は、生きてなかったかもしれない」



 そう。



「全部、ナヅキとのキスのおかげ――」



「それは言わないでええええええぇぇ!? 恥ずかしいからああああああぁぁ!」



 いきなりナヅキは、頭をバリバリかきむしり始めた。


 大声で叫び散らかす、ナヅキを見て。



「……ぷっ」



「あはははは!」



「ふふっ……」



「クスクスッ」



 僕らは、揃って吹き出してしまった。


 すると。



「そ、それよりも……マモルくん」



 ナヅキは、わたわたした態度から一転。


 急に声のトーンを落とし、僕に聞く。



「すべてが終わったら……その、マモルくんは……どうするの?」



 ナヅキの瞳には……不安の色が宿っていた。



「やっぱり……みんなと、どこかに旅立っちゃうの?」



「いいや」



 きっぱりと、僕は否定した。



「実はもう、決めてあるんだ。ナヅキたちさえよければ、だけど」



 じっとナヅキの目を見つめ、僕は告げる。



「『カフェ・神月』を、手伝いたいって思ってる」



「ホント!?」



 ナヅキの瞳に、おどろきと喜びの色が浮かぶ。



「ああ! ナヅキやカンナギのおかげで、僕は妹や幼なじみと再会できた。その恩を、全力で返したくてさ!」



「マモルくん……!」



「それに、興味が出てきたんだ」



 そう。



「自分のブロデュースした店が、これからどうなっていくのか? この目で見てみたい、ってさ」



「うれしい……」



 ナヅキの瞳に、涙が浮かんだ。



「もちろん、あたしもお手伝いするわ!」



 ユウリが笑う。



「お父さんを天国に連れて行ってくれたのは、ナヅキなんでしょ? 娘のあたしが恩返ししないで、どうするのよ! それにほら! お店にはマモルもいるし!」



「当然、わたしもよ」



 ハルカが微笑む。



「ナヅキさんはお兄ちゃんと力を合わせて、わたしのもとに駆け付けてくれた。その恩は、一生をかけても返すわ。それにほら、お店にはお兄ちゃんもいるし」



「お仕えするお嬢さまが、増えそうですね」



 アイはエプロンドレスの端を持ち上げ、ナヅキに頭を下げる。



「これからよろしくお願いいたします、ナヅキお嬢さま。それに……」



 アイはクスッと、イタズラっぽく笑う。



「お店にはマモルさまもいらっしゃいますし、ね?」



「ありがとう……! 本当にありがとう……!」



 ナヅキの瞳からは、涙がとめどなくこぼれ落ちていく。


 そんなナヅキや、みんなの様子を見て。



「失敗は許されない……な」



 僕の心に、炎が宿った。


 決意という名の、炎が。



「行こう! ここですべてを終わらせるんだ!」



 みんなに向け、僕は宣言する。



「僕は、絶対に復讐を成し遂げる! 最善手は尽くした! これから何が起こったとしても、僕を信じてくれ!」



「もちろん」



「当然!」



「信じるよ」



「心得ております!」



 僕らは、互いにうなずき合うと。


 魔王城の最深部を目指し、駆け続けるのだった。


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