30.信念



「それにしても、コイツら……」



 ダイトたちの状況は、ここに来る前に裏を取っていた。


 ホープタウンで兵士に捕まったあと、逃走したという話だったが。



「僕だけならまだしも、ハルカまで……!」



 どす黒い感情が、僕の心にわき上がる。


 ……しかし。



 謎の声の警告を、忘れてはいない。




『ただし。あなた、もしくはあなたのパーティーメンバーが人間を殺めた場合。手にした力は失われます』




「一時の感情に流されて、大切な『力』を失う。愚の骨頂だ」



 どす黒い感情は、受け流し。



「ナヅキ、ユウリ、アイ。今のうちに、ハルカへ状況説明を頼む」



 そう告げると。


 僕は、勇者パーティーの前に進み出た。



 『復讐』に向け、必要な情報を得るために。



「ぐ……ぐぐっ……!」



 連中は動かない。


 ハルカやナヅキたちとの戦いで負ったダメージが、大きいのか。


 それともようやく、力の差を理解できたか。



「時間がもったいない。単刀直入にいくぞ」



 僕は連中に、言葉をぶつける。



「アンタらにひとつずつ、聞きたいことがある。3秒で答えろ」



「はぁ!? どういう――」



「ムダ口を叩くな」



 僕がすごむと。



「わ、わーった! わーったよ! そんなに怖い顔すんなって!」



 ダイトは慌てつつも、ヘラヘラ笑った。


 さて、まずは。



「ダイト。伝説の武器は今、どこにある?」



「あん? 聖剣のことか?」



「そうだ」



 僕がうなずくと、ダイトはふてくされたような表情を浮かべた。



「『ホープタウン』で、兵士に取られちまったよ。今頃は、そこの城にあるんじゃねえの?」



 よし。


 なら、次は。



「シャルロッテ。剣聖サリィは今、どこにいる?」



「あ、あはははは……」



 シャルロッテは、目を泳がせながら答える。



「い、いろいろあって、今はお休みしてるの。ウソは言ってないよ? ホントだよ?」



 コビるような、シャルロッテの視線は無視だ。


 最後に。



「ツカサ。アンタ、どんな魔法を使える? 大ざっぱでいい」



「魔法……ですか?」



 ツカサは首をかしげつつも、答える。



「攻撃魔法全般と、状態異常系。転移魔法も使えますけど……それがなにか?」



「以上だ」



 フェイクに混ぜた、とある質問への答えは。


 僕の予想を、確信に変えた。



 ならば。


 次の一手は――。



「お、おい! んなこたぁどうだっていいだろ!? そんなことよりも!」



 いきなり、ダイトが駆け寄ってくると。



「この首輪を! オレのコイツも解呪してくれよ! 頼む! この通りだ!」



 僕にガバッ! と、頭を下げた。



「あ、あんたの妹を笑ったのは謝る! これからは心を入れ替えて、世のため人のために戦う! だ、だから! お願い――」




 パチン!




 僕は指を鳴らし、告げる。



「解呪完了だ」



「へ?」



「え?」



 シャルロッテとツカサは、あっけに取られているが。



「へ……へへ……へへへへっ……! へへへへはははははははは!」



 ダイトは、狂ったように笑うと。


 顔をあげ。



「ありがとよおおおおおおぉぉ! 死ねやコラああぁぁ!」



 僕に、右手を突き出してきたが。




 バギィン!




 僕は手刀で、ダイトが握ったナイフを砕いた。



「んなっ――」




 ドガアッ!




「ぶぎゃああああああぁぁ!?」



 続けて放ったキックで、ダイトは吹っ飛ぶ。



「読めてたよ。ワンパターンすぎる」



「ぐ……ぎ……」



 鼻血まみれのダイトに、僕は告げる。



「さっきのは、解呪したフリだから」



「……は?」



 ダイトは、慌てて首の周りを触った。


 顔は、みるみる青ざめていく。



「な、な……!」



 ダイトの首には、首輪がついたままだ。


 いくらなんでも指パッチンひとつで、解呪できるわけがない。



「て……てんめええええぇぇ! オレをダマしやがったのかああぁ!?」



 怒り狂うダイトに向かい。



「悪いけど、試させてもらった。アンタ、信用できないから」



 僕は、吐き捨てるように言った。



 僕をだまし。


 ハルカをだまし。


 きっと数え切れない人たちを、だましてきたんだろう。



「だまされた人たちの苦しみが、理解できたか? 自分がどんなに酷いことをしてきたか、自覚はできたか!」



「だ、だまれ! だまりやがれ! このクソエセ解呪師野郎がああああぁぁ!」



 ダイトは、吠え散らかした。



「この首輪が爆発したら、オレは死ぬぞ! 勇者が死んだら、誰が魔王をブチ殺すんだ!? 言ってみろ! 言ってみろよコラアァ!」



「魔王を倒すのは……」



 僕は、断言する。




「アンタらじゃない。僕たちだ」




「んな……っ!?」



 目を見開き、固まるダイト。


 僕は叫ぶ。



「僕の『力』は! あと2時間も経たずに消える! 今を逃せばチャンスはなくなる! だから何としても! 『午後8時』のタイムリミットまでに! 魔王を倒す!」



 僕の高らかな宣言に。



「…………」



「…………」



 シャルロッテとツカサは、無言だった。


 思案をめぐらせるように、宙を見つめている。


 一方、ダイトは。



「てんめえよおおおおおおぉぉ!」



 ひとりで吠えまくっていた。



「前に言ったよな!? 魔王が死んでも、首輪が爆発すんだよ! オレが死ぬのに、何で魔王殺そうとしてんだよ!? バカかマジでよおおおおおおぉぉ!?」



「僕は、正義の味方じゃない」



 吠えるダイトに、僕は言葉をぶつける。



「信念がある。どうしても成し遂げたいことがある。どうしても守りたい人がいる。そして……そうじゃないものもある」



 僕はダイトをにらみつけ、言い放つ。




「アンタを守る義理も、義務も。僕にはない!」




「ぐ……が……!」



「アンタにも信念があるなら、僕を止めてみせろ。止められるものならな」



 そう言い残し。


 僕はみんなのもとへ戻った。



「行こう、魔王城へ! テレポートを使う!」



 言いながら僕は、ユウリの手をぎゅっと握る。



「ユウリ、イメージを思い浮かべてくれ!」



「りょ、了解」



 なぜかユウリは顔を赤くしつつ、目を閉じるが。



「待って、お兄ちゃん」



 ハルカがストップをかけた。



「わたし、玉座の間までたどり着いてるわ。わたしのイメージで、一気に魔王のところへ――」



「ダメだ!」



 僕は、大きく首を振る。



「無理に奥に行くために『力』を使い過ぎると! 魔王ジョウカーとの戦いで『力』がもたない! もう『力』の残量に余裕はない! ムダ使いはできないんだ!」



 僕の大声に、ハルカはうなずく。



「そういうことなら――」



「行かせるかよおおおおぉぉ!」



 しつこくダイトが向かってくるが。




 ビシュッ! ドズッ!




「うぎゃっ!? ぎゃああああああぁぁ!?」



 ハルカに脚を射抜かれ、崩れ落ちた。



「これで借りは返したわ」



 クールに告げるハルカを、横目で見ながら。


 僕は『力』を発動する。



「いにしえの勇者たちよ! 僕に力を! マインド・コネクト!」



 ユウリのイメージが、頭に流れ込む!


 魔王城が……見えた!



「いにしえの勇者たちよ! 僕に力を! テレポート!」



「クソが! クソがああああああぁぁ!」



 ダイトの遠吠えを耳にしながら。


 僕の視界は、ぐにゃりとゆがんだ。


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