28.逆転 【勇者side⑩】
「クソったれがああああぁぁ!」
オレは、懐からハイ・ポーションを取り出して飲み干した。
「はぁはぁ……ちきしょう……!」
痛みは消えたが。
ビシュッ! ビシュッ! ビシュッ!
「うおおああああぁぁ!?」
ハンター・ハルカの猛攻は、とどまるところを知らなかった。
「なんなんだよこの女!? コイツといいマモルといい、どうして勇者より強い連中がこんなに……って……」
お?
「そうだ……!」
そうだそうだそうだ!
(思いついちまったぜぇ……! コイツの心を乱す、とっておきの作戦をよ!)
オレはニヤリと笑い。
ヤツに呼びかける。
「おい、あんた! さっき言ってたよな? 解呪師マモルの居場所が知りたいってよ!」
「……っ!」
オレの言葉に、ハンター・ハルカの攻撃が止まった。
おし、乗ってきた!
読み通りだ!
「教えてやるぜ! あいつの居場所はな!」
「…………」
「じ・ご・く、だよ!」
「っ!? な……っ……!?」
ハンター・ハルカの顔が、みるみる青ざめていく。
すかさずオレは、ベラベラと言葉を続ける。
「いやー! さっきはウソついて悪ぃ悪ぃ! 実はオレたち、2日前にあいつ殺してたんだわ! バレるとやべぇと思ってたけど、やっぱウソはよくねーよなー!」
もちろん、今しゃべってる方がウソなんだが。
「な……な……!」
ハンター・ハルカは、まったく気づいていない。
ワナワナと、肩を震わせるだけだ。
「『封印の塔』で、だまし討ちにしてやったのさ! 伝説の武器の封印を解かせたあとで、ナイフでブスリ! 気分よかったぜ? ヒャハハハハ!」
事実もたっぷり混ぜながら、オレが挑発していると。
「ちなみにシャルちゃんはー。逃げられないように、マヒの呪文をかけてあげましたー! えらいでしょ? ホメてくれてもいいんだよー! キャハハハハ!」
「アタシは毒魔法で追い打ちでしたねー。裏切られたと知ったときの、あの人の顔! 今思い出しても、笑えてきます♪ アハハハハ!」
シャル姉とツカサも、ノリノリで乗っかってきた。
目がキラキラと輝いている。
「……許さない」
ハンター・ハルカが、震える手で弓を構えた。
瞳には、怒りの炎が宿っている。
「許さない……許さない……許さない……」
矢をつがえ。
オレたちを鋭くにらみつけると。
「うあああああああああああ!」
ビシュッ! ビシュッ! ビシュッ! ビシュッ! ビシュッ!
絶叫とともに。
さっき以上のスピードで、矢の嵐が飛んでくる。
……だが。
「へへっ……」
オレはほくそ笑んだ。
確かに速いが、精度がガタ落ちだ。
数多くの矢が、見当違いの方向へ飛んでいく。
「許さない許さない許さない許さない許さない! 許さないいいいいいいいいいい!」
ハンター・ハルカは狂ったように、矢を射続ける。
さっきまでのクールな態度は、どこへやら。
完全に怒りで、我を忘れている。
(こうなりゃこっちのもんだ! すぐにスキができる!)
オレは回避に専念すると、ひたすらチャンスを待った。
10秒。
20秒。
30秒。
そのとき。
ズルッ!
「あっ!?」
ヤツの手から、弓がすっぽ抜けた。
ここだ!
「くっ!」
慌てて手を伸ばし、弓をつかもうとするヤツに向かい。
「うおりゃああああああぁぁ!」
全力ダッシュで、オレは突っ込む!
「っ!? しまっ――」
「遅いぜええええぇぇ!」
勝利宣言とともに。
オレの体は、ハンター・ハルカの2メーター以内。
ヤツのデッド・ゾーンに侵入していた。
「っしゃああああああああぁぁ!」
オレが、勝利の雄たけびを上げた瞬間。
ピピピピッ!
無機質な音が鳴り響いた。
ハンター・ハルカの首輪は、赤く点滅している。
サリィの爆死前と、同じ状況だ。
「ひっ……!?」
ヤツの顔が引きつった。
焦ったように首輪をガチャガチャ引っ張るが、もちろんビクともしない。
「ハーッハハハハハハハハ! 形勢逆転は一瞬だったなぁ!」
オレは高らかに笑った。
「ダイトくん、ナイス挑発ぅ!」
シャル姉がグッ! と親指を立てた。
「死んだなんてウソっぱちを信じちゃうとかぁ、お・ば・か・さん! キャハハハハ!」
ケラケラと、シャル姉は笑い続けている。
「な……ウソ……?」
泣きそうな顔で聞き返す、ハンター・ハルカに。
「そうです。解呪師マモルは生きてますよ?」
ツカサがニヤつきながら答えた。
「確かにアタシたちは、あの解呪師を殺そうとしました。でも、失敗したんですよ。アナタも生きてさえいれば、どこかで会えたんでしょうけどね?」
ツカサはトドメとばかりに、言葉をぶつける。
「ざ・ん・ね・ん・で・し・た♪ アハハハハ!」
「そん……な……」
ハンター・ハルカは、その場にがっくりと崩れ落ちた。
ピピピピッ! ピピピピッ!
首輪の音が、鳴り響く中で。
「マモルお兄ちゃん……助けて……」
ぽつりと。
ハンター・ハルカは、つぶやいた。
「は?」
お兄ちゃん?
お兄ちゃんだって?
くっ……くくくくく……!
「何だてめえ、マモルの妹かよ!? しかも、この状況でマモルに助けを求めるとか?」
おいおい!
おいおいおいおい!
「助けに来るわけねえだろうが! どんだけてめえはブラコンなんだよ!?」
「うわー、笑えるぅ! でもよかったー! これであのクソ生意気な解呪師さんにも、痛い目見せられたしぃ!」
「ですね! あの解呪師には、メチャクチャイラつかされましたもんね! かわいい妹さんに、かわりに罪をつぐなってもらいましょう!」
オレたちは好き放題に、ハンター・ハルカをあざ笑った。
いい気分だ!
こんなにいい気分なのは、久々だぜ!
「あと少しで、この女は爆死する! そしたらオレは、晴れて自由の身――」
パアアアアアアアアァァ!
いきなり、まばゆい光があたりを包んだ。
「うおっ!?」
何事かと、オレが混乱していると。
光の中から、誰かが飛び出して――。
バギイイイイイイィィ!
「ぷぎゃああああああぁぁ!?」
顔面にパンチを受け、オレはブッ飛ばされた。
「えっ? えっ?」
「なっ……!?」
シャル姉とツカサの、とまどう声が聞こえる。
「うぎぎ……ぎぎぎぎ……!」
オレは顔を押さえながら、前を見ると。
「うぎぎ……ぎいっ!?」
鎌を持った、黒マントを羽織った女がいた。
剣を抜いた、赤毛の女がいた。
斧を手にした、メイド服姿の女がいた。
そして女たちの中心に。
ヤツはいた。
「な……何でだよ……どうしてだよ……!」
オレは全身を震わせ、絶叫する。
「どうしてテメエがここにいるんだよおおおおぉぉ!? マモル・フジタニいいいいいいいいいい!?」
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