27.対面 【勇者side⑨】
午後5時45分。
オレとシャル姉に、ツカサは。
『絶望の崖』という名の、断崖絶壁にいた。
ハンター・ハルカをブチ殺し。
いまいましい『魔王の呪い』から、解き放たれるために。
「しっかしよ。こんな場所を処刑場に選ぶとは、シャル姉も趣味が悪いぜ」
オレは肩をすくめた。
「なーに言ってるの、ダイトくん! どうせ処刑するなら、ふさわしい場所をチョイスしないと!」
シャル姉は、ご満悦の様子で笑っている。
「崖の先端で、夕日を浴びながら、心を絶望に包まれて爆死! とか、最っ高にステキな死に方でしょ?」
「素晴らしいです……シャルロッテさん!」
ツカサが感激のまなざしで、シャル姉を見つめた。
「でしょでしょ! さっすがツカサちゃん! わかってるぅ!」
シャル姉はツカサと手を取り合い、キャッキャウフフと盛り上がっている。
「ったく、この女どもは……」
オレはあきれたが。
理にもかなってるのが、恐ろしいところだ。
「ジョウカーの魔石の効果は、5メーター先への対象召喚。ただし、即死場所への召喚はNGだったな」
そして、今。
「オレたちの5メーター先は、崖の先端。もちろん、即死はしない」
でもって。
「少しでも後退すりゃあ、崖下に真っ逆さまに転落……ってわけだ」
さらに。
「オレたちに突っ込んできて、横をすり抜るのもムリだ」
なぜなら。
「半径2メーター以内にオレたちが侵入すれば、ヤツの首輪は起爆条件を満たすからな」
プラス。
「ヤツの精神状態は、ボロボロのはずだ」
なぜかというと。
「いつ追手が来るかわからない状況で、丸2日以上が過ぎてんだからな。ロクに寝てねえはずだぜ……!」
それに引き換え。
「オレたちは、さっきまでゆっくり寝させてもらったからな。精神状態の差も、圧倒的だぜ……クククク!」
オレの口から、笑みがこぼれた。
「カンペキだ! この状況なら、どんなボンクラでも負ける要素はねえ! クハハハハハハハ!」
ひとしきり笑ったあとで。
「おっしゃ! そろそろはじめようぜ! お待ちかねの処刑ってヤツをよ!」
オレは、シャル姉とツカサに声をかけた。
「はいはーい! 待ってましたー!」
「いつでもどうぞ♪」
「っしゃあ! ご対面の時間だぜ! 出てこいハンター・ハルカぁ!」
オレは手にした、魔石を砕いた。
その瞬間。
ブアアアアアアアアァァ!
前方に、闇が広がって。
すぐに、それが収まると。
「……なっ!? ここは!?」
そこには弓を手にした女が、驚きの表情で立っていた。
赤茶色の髪。
バツグンのルックスに、大きく見開かれた黒い瞳。
まちがいねえ!
魔王城のスクリーンで見た、あの女だ!
「もらったぜ! ハンター・ハルカああああああぁぁ!」
すかさずオレは、前方へと一気にダッシュした!
作戦通りだ!
ハンター・ハルカが状況を把握できないスキに、ダッシュで突っ込み!
ヤツの半径2メーター以内に侵入して、首輪の起爆条件を満たす!
(勝った!)
と思った瞬間。
「ちいっ!」
鋭い舌打ちとともに。
ハンター・ハルカの弓から、勢いよく矢が放たれた。
ビシュッ!
「うおっ!?」
ギリギリのところで、オレは矢をかわしたが。
立て続けに二の矢、三の矢が、オレに向かって飛んでくる。
ビシュッ! ビシュッ! ビシュッ!
「うおわああああああっ!?」
たまらず、オレは後退した。
「ちょっとダイトくん! なにやってんの! とっとと突っ込んじゃってよぉ!」
「む、無茶言うんじゃねえ! あんなんで近づけるかよ!」
怒鳴るシャル姉に、オレは怒鳴り返した。
そんなオレたちを。
「あなたたちが、追手?」
ハンター・ハルカは、クールな視線で見定めると。
「ムダな戦いはやめた方がいい。あなたたちでは、わたしに勝てない」
なんて、ほざきやがった!
「ざけんじゃねえよ!」
オレは絶叫する。
「オレには、テメエを殺さねえといけねえ理由があるんだ! お前を殺せば、魔王ジョウカーを殺せる! そのあとで、あのクソ生意気な解呪師のマモル・フジタニも――」
「マモル・フジタニ!?」
「は?」
なぜか。
どういうわけか。
ハンター・ハルカは、反応を示した。
「あん……?」
眉をひそめるオレに向かい。
「今、マモル・フジタニって言ったわね!? 知ってるの!? 生きてるの!? その人は今、どこにいるの!?」
顔色を変え、ハンター・ハルカが叫ぶ。
何だコイツ?
マモルの知り合いか?
「マモルがどこにいるか!? そんなの、オレの知ったこっちゃねえよ!」
オレも、ハンター・ハルカに叫び返した。
「ま、すぐに地獄へ連れてくけどな! テメエとジョウカーをブッ殺したあとによ!」
「……そう」
ぽつりとつぶやくと。
ハンター・ハルカの瞳に、鋭さが宿った。
「それならわたしは、ここで死ぬわけにはいかない」
ビシュッ! ビシュッ! ビシュッ!
「のわああああぁぁっ!?」
「ひゃああああっ!?」
「くうっ!?」
矢が連射され、次々とオレたちに飛んでくる。
「ちくしょう! 何て速さなんだよ!」
クソ、それなら!
「おいシャル姉!」
「めーーいーーれーーいーーするなって言ってんでしょう! わかってるよ!」
シャル姉はイラつきながら、防御魔法を唱える。
「ダーク・ホーリーウォール!」
パシュン!
オレたちの前方に、黒い光のカベが展開された。
矢の嵐は光のカベにさえぎられ、次々に消滅していく。
「見た見たー? シャルちゃんの手にかかれば、ヘッポコ弓矢なんてどうってことないしー!」
勝ち誇るシャル姉だったが。
「それはどうかしら」
ハンター・ハルカは冷静に、次の矢を放つ。
「ペネトレイト・アロー!」
ギュイイイイイイイイン!
紫色に輝く矢が、超速で光のカベにブチ当たると。
バギイイィィィィイイン!
光のカベは音を立て、コナゴナに砕け散った。
「なにっ!?」
「ウソっ!?」
驚くオレと、シャル姉に向かい。
ビシュッ! ビシュッ! ビシュッ!
ふたたびハンター・ハルカの矢が、雨あられと襲いかかる。
「ツ、ツカサ! 魔法だ! 魔法でヤツをブッ倒せ!」
「だ、ダメです! 攻撃が速すぎて、詠唱するスキがありません!」
ツカサは、矢から身をかわすので精いっぱいの様子だ。
ビシュッ! ビシュッ! ビシュッ!
矢は途切れることなく、次々とオレたちに飛んできて……。
ドズッ!
「うぎゃああああああぁぁ!?」
激痛に、オレは絶叫した。
1本の矢が、オレの右腕を貫いたのだ……。
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