26.道筋
午後3時ちょうど。
僕たちはカフェを閉め、作戦会議を開く。
「これから僕は、目的を果たすために全力を尽くす。みんなの力を、貸してほしい」
ナヅキ、ユウリ、アイ、カンナギ。
みんな、力強くうなずいてくれた。
「目的はふたつだ。妹――ハルカを助けることと、復讐の成就」
もちろん。
「最優先は、ハルカの命だ」
僕は断言した。
「問題は。6時までに、どうやって『絶望の崖』まで行くかですけど……」
アイが考え込んだ。
「今からじゃ、馬車を飛ばしても間に合わないわよ!」
ユウリがうなる。
「僕のテレポートも、行ったことがない場所は無理だ。ちなみに誰か、『絶望の崖』に行ったことは?」
みんなは渋い顔で、首を振った。
「なら、死神のワープはどうだ?」
僕は、ナヅキを見たが。
「……ごめんなさい。無理よ」
ナヅキは悔しそうに、首を振る。
「ワープが使えるようになるのは、対象の死の直前なの。それに個人限定だから、パーティーでの移動はできない。妹さんの呪いは、私じゃ解けないわ……」
「ワタシも、ナヅキさんと同じワープは使えます。でも、それ以上は……。荒事にも、対応できないかと……」
カンナギがうつむいた。
「それなら、こういうアプローチはどう?」
ユウリが提案した。
「呪いの根源……つまり、『魔王』を先に叩く。ジョウカーが本当に魔王かは、わからないけど……」
「呪いをかけたのがジョウカーなら、倒せば解呪されるかもしれない。ってことか?」
「そうよ。魔王城なら、あたしとアイは行ったことがある。偵察目的で入り口まで、だけどね」
ユウリが僕を見る。
「この条件でも、マモルのテレポートは使えるの?」
「ああ。『いにしえの勇者パーティー』の力を組み合わせれば、いける」
確信があった。
「テレポートできる条件は。僕の頭の中に、場所のイメージが思い浮かぶことだ」
だから。
「僕の『力』――マインド・コネクトで精神をつなぎ、イメージを共有すれば。僕が行ったことがない場所へも、テレポートできるはずだ」
「『力』の使用期限は、いつでしたっけ?」
カンナギの問いに、僕は答える。
「『8時』だ。それまでは、問題なく使えるはずだよ」
本当の期限は、『10時』だけど。
時間は常に、余裕を持っておいた方がいい。
ギリギリで考えると、いざというときに足元をすくわれる。
しばしの沈黙のあとで。
「挑む価値はあるわね。ここで手をこまねいているよりも、妹さんの生存確率は上がると思うわ」
ナヅキが賛同した。
「わたくしも賛成です。マモルさまの『いにしえの勇者パーティー』の力があれば、ジョウカーとて恐れるに足らないのでは?」
アイも同意するが。
「待てよ……?」
僕には、何かが引っかかった。
最近どこかで、『魔王の呪い』についての話をしたような……?
……あ!
「そうだ! 昨日、勇者パーティーと出くわしたとき……」
僕は、会話を思い出す。
『……そういうことなら。魔王を倒せば、その呪いとやらも解けるんじゃないか?』
『それがムリなんだよ! 魔王が死ぬと、この首輪も道連れで爆発しちまう! あの陰湿魔王のヤローが、オレにそう言いやがったんだ!』
「……ダメだ! 先にジョウカーを倒しちゃダメだ!」
僕は叫んだ。
「えっ!?」
ぎょっとした表情のユウリに、僕は告げる。
「魔王を先に倒すと、『魔王の呪い』が発動してしまう! 昨日、例の勇者パーティーが言ってたんだ!」
「ウソ!?」
「何ですって……!?」
ユウリとナヅキの顔が青ざめた。
アイとカンナギの表情も、みるみる硬くなっていく。
「ということは……ですよ?」
カンナギが厳しい表情で言う。
「ジョウカーを倒す前に、妹さんを助けないといけないわけですけど……」
「そこへ行く手段がない……」
ナヅキの表情がゆがむ。
「つまり……手詰まり、ってこと?」
ユウリは、眉間にしわを寄せ。
「そんな……」
アイは肩をふるわせ、うつむいてしまう。
僕はといえば。
「いいや! あきらめるのは早い! 必ず、何か手があるはずだ!」
自分を鼓舞しながら、必死に頭を回し続ける。
「……そういえば」
ナヅキは以前。
ワープの仕組みを、何と言っていた?
「確か……」
『今回のフジタニくんの件も、この水晶玉に映し出されたの。私は水晶玉と、自分の精神とをリンクさせて。頭に浮かんだ状況の場所にワープした、ってわけ』
『私のワープも、死亡推定時刻キッチリに飛べるわけじゃないの。少し早まるから、その……』
「……わかったぞ!」
僕の大声に。
「ええっ!?」
驚きの表情を浮かべる、みんなの中から。
僕は、ひとりに目を向ける。
「ナヅキと、僕。ふたつの『力』を組み合わせれば、いける!」
「わ、私?」
「ああ!」
とまどうナヅキに向かい、僕は力強くうなずいた。
「前に、ナヅキは言ってたよな? 僕が死にかけたときは、カンナギの水晶と自分の精神をつなげて、『頭に浮かんだ場所』にワープした、ってさ!」
「……あっ!」
ナヅキがハッとしたように、口元を押さえた。
「ナヅキの頭に、イメージが浮かんだタイミングで。マインド・コネクトで、僕とナヅキの精神をつなぐ」
それから。
「ナヅキとイメージを共有した僕が、テレポートを使えば。パーティー全員で、目的地に飛べるはずだ!」
「で、でも!」
ナヅキの表情に、迷いが生じる。
「イメージがふくらむのは、死の3分前ぐらいなのよ! たった3分で、解呪はできるの?」
「もちろん、できる」
僕は断言した。
「解呪の力と、『いにしえの勇者パーティー』の力。このふたつを組み合わせて、できないことなんてない」
そう。
「たとえ相手が『魔王の呪い』でも、ね」
自信を持って、僕が告げると。
「……そうね。私、前に自分で言ったわよね」
ナヅキが笑った。
「絶対にうまくいくわ。だってマモルくんに、不可能はないもの」
「ああ! ユウリ、アイ。来てくれるな?」
「もちろんよ!」
「仰せのままに」
ふたりの信頼のまなざしを受け止め。
僕は、カンナギに告げる。
「僕らが出て行ったあとは、また紅茶の準備を頼むよ」
「はい! ワタシは、ワタシの役割を果たします!」
カンナギの表情は、真剣そのものだった。
「ありがとう、カンナギ。必ず、ハルカを連れて帰るよ!」
僕は時刻を確認する。
3時15分。
「作戦の決行は、6時前。まだまだ時間があるな」
ハルカ救出の道筋は、見えた。
なら、残る時間をどう使うか?
答えは、ひとつだ。
「ハルカを助けたあと。限られた時間で復讐を成し遂げるには……どうすればいい?」
きわめて重要な難題を、解決するために。
僕は、思考の海へと潜るのだった。
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