24.推測



 『カフェ・神月』に戻った、僕たちは。



「マモルさん! よかった……本当に……!」



 カンナギの熱い抱擁に出迎えられた。



 それから僕たちは、カンナギの淹れてくれた紅茶を飲みつつ。


 ユウリやアイと、情報を交換したが。



「ハルカの手がかりはなし、か」



 ナヅキとカンナギの情報によると、ハルカ――妹も生きているはずだ。


 ユウリたちなら、何か知っていると思ったが。



「あたしはずっと、アイとふたりきりで……」



「申し訳ございません……」



 しょんぼりする、ユウリとアイに向かい。



「気を落とさないで」



「必ず会えますよ!」



 ナヅキとカンナギが微笑んだ。



「ハルカ……」



 僕の心に、幼い妹の声が浮かんでくる。




『ハルカは、弓使いになろうかな。みんなの後ろから、ビシュッて矢を撃って助けるんだ』




 なんて言ってたけど。


 ハルカは今、どこで何をしてるんだろうか……。



「それにしても。まさか村を焼いたのが、『魔王』とはね」



 ユウリが厳しい顔になる。



「ああ。絶対に許せない」



 思わぬところで、手がかりが見つかった。


 このチャンスを、逃す手はない。



「『いにしえの勇者パーティー』の力があれば、魔王とだって戦えるはずだ。この手で、必ず復讐してやる……!」



 僕は、メラメラと闘志を燃やした。



「確か魔王の名前は、『ジョウカー』だったかしら?」



「おっしゃる通りです、ナヅキさま」



 ナヅキの問いに、アイが答える。



「半年前にいきなり出現すると、人間に宣戦布告をした。そんなお話でしったけ?」



「カンナギの言う通りだよ。だから本当に、つい最近のこと……って」



 ん?



「ちょっと待った」



 僕は覚えた違和感を、口に出してみる。



「魔王ジョウカーは、本当に僕たちの復讐相手なのか?」



「え?」



 カンナギが目を丸くする。



「それは……まちがいないと思うわよ?」



 ナヅキも、戸惑った様子だ。



「魔族の話は、私も聞いたもの。村を滅ぼしたのは、ワタシが仕える魔王様なんだ! って叫んでたし」



「あたしも同感」



 ユウリが首を縦に振る。



「それにトドメを刺す前も、ビビりまくってたしね」



「いくら魔族とはいえ。あのような精神状態の相手が、ウソを言うとは思えませんが……?」



 アイも、ふたりの意見に賛成みたいだ。



「確かに僕も、魔族はウソを言ってなかったと思う」



 僕は続ける。



「犯人は魔王。つまり僕らの復讐相手も、魔王。この認識は、間違いない」



「でも。マモルさんには、気になることがあると?」



 カンナギの問いに、僕はうなずく。



「村を滅ぼした『魔王』と、世間を騒がせている魔王・ジョウカー。このふたりは、本当に同一人物なのか?」



「えっ?」



 みんなは、目をパチクリさせる。



「どういうこと……なの?」



 目を泳がせるナヅキに、僕は言う。



「もしもジョウカーが、勝手に『魔王』を名乗っているだけだったら。復讐相手イコール、ジョウカーとはならない」



「あっ……!」



 はっとしたように、ユウリが声をあげた。



「なるほど……。おっしゃる意味がわかりました」



 アイが納得したように、首を何度も縦に振る。



「自分が王様だと、口に出すのはカンタンでも。実際にその人が、王様だとは限らない。そういうことですね、マモルさま?」



「アイの言う通りだよ。もしかするとヤツは、本当は魔王じゃないのかもしれない」



「その根拠もある、と?」



「根拠というか、引っかかることがあってさ」



 僕は、興味深げなカンナギに答える。



「よーく、考えてみてほしいんだ。僕らの村が滅ぼされたのは、何年前だ?」



「10年前よ。忘れもしないわ」



 ユウリが答える。



「そう、10年前だ。じゃあ聞くけど」



 僕は続ける。



「魔王ジョウカーが現れたのは、いつだ?」



「それは、半年前で……あっ!」



 ナツキが、口元を手で押さえた。


 どうやら、気づいたらしい。



「そういうこと……! 時期がズレすぎてる!」



 ユウリが叫んだ。



「10年前に潜伏していた魔王が、今になって急に姿を現す……。言われてみると、確かに引っかかりますね……」



 アイは目を伏せ、考え込む。



「もちろん、明確な理由があれば納得できる。たとえば、人間を滅ぼすための準備が整った、とかならね」



 でも。



「魔王ジョウカーに、そんな様子はない。何となく宣戦布告したかと思えば、あとは黙りっきりだ。まるでゲームを楽しんでるみたいな……って」



 気がつくと。



「すごいわ……マモルくん」



「やるわね……マモル」



「さすがは、マモルさま……」



「マモルさん……お見事です」



 ナヅキも、ユウリも、アイも、カンナギも。


 尊敬の目で、僕を見ていた。



「一応、言っておくけど」



 そんなみんなに向かい、僕は付け加える。



「ここまでの話は、ぜんぶ推測だからね?」



 そう。


 すべては推測だ。



 可能性は、考えようと思えばいくらでも考えられる。


 細かいアラを探してケチをつけるのは、誰にだってできることだ。



「ともかく、重要なのは」



 くちびるをなめ、僕は言う。



「ジョウカーを倒すことで、僕らの復讐が終わると決めつけない方がいい。それだけは、お互い頭に入れておこう」



「わかったわ」



「承知しました」



 ユウリとアイがうなずいた。



「まあ……そうは言っても」



 僕は続けた。



「ジョウカーは倒す必要があるな。それも、なるべく早くに」



「マモルさんの『力』に、期限があるから……ですか?」



「ああ」



 カンナギの問いに、僕は首を縦に振る。



 『力』に目覚めたとき。


 謎の声は、確かに言っていた。




『なお。手にした力には、使える期限があります』




 と。



「ジョウカーが犯人だとしても。そうじゃなかったとしても。倒すことで、何かが見えてくるはずだ。『力』にタイムリミットがある以上、あまり時間はかけられない」



「決まりね」



 ユウリが僕の瞳を、強く見つめる。



「次のターゲットは、魔王ジョウカー。あたしも、マモルと一緒に行くわよ」



「わたくしも、お供いたします。10年間鍛え続けた斧さばきで、必ずやお役に立ってみせます」



 アイは、うやうやしくおじぎをした。



「ありがとう。ふたりがいっしょなら、僕も心強いよ!」



 僕が、ふたりに笑いかけると。



「えへへ……!」



「うふふふ……」



 なぜか、ユウリとアイは。


 にやけながら、頬を染めた。



「よし! それじゃあ、今日はもう休もう! 魔王城へは、あさってに殴り込みだ!」



「え、あさって?」



 ナヅキが首をかしげる。



「明日じゃなくて、ですか?」



「もちろん」



 不思議そうな様子のカンナギに、僕は笑った。


 だって。



「明日は大切な、『カフェ・神月』のリニューアルオープン2日目だからさ!」



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