23.屈辱 【勇者side⑧】
サリィが死んでから、しばらくの時が経ち。
オレ、シャル姉、ツカサの3人は。
「では。見世物のお礼に、現状打開策を授けるとしよう」
魔王ジョウカーに、不気味に光る宝石を見せつけられていた。
「これが、キミたちの切り札になるだろう。キミたちが首輪から解放される条件、ハンター・ハルカ殺害のための、ね」
ジョウカーは続ける。
「これは、『魔王』が作った『転移の魔石』だ。任意の首輪の装着者を、使用者の5メーター先に召喚できる」
すぐに、オレはピンと来た。
「ソイツを使えば! ハンター・ハルカも呼び寄せられる、ってわけか?」
「ご名答」
ジョウカーはうなずいた。
「この魔石は先ほど、キミたちをここへ呼び出すためにも使わせてもらった。効果は、身をもって確認済みではないかな?」
「それはいいんだけどぉ。使うときの注意点も、教えてもらえるかなぁ?」
「ふむ。用心深いお嬢さんだ」
抜かりないシャル姉に、ジョウカーは笑う。
「ふたつ、教えておこう。まず。この魔石は消耗品なので、使えるチャンスは一度きりだ」
ジョウカーは続ける。
「それと。相手を即死地点へ召喚するのは、NGだ。その場合は対象の死とともに、すべての首輪が連鎖爆発する」
つまり……。
「オレの5メーター先が空中で、下に地面がなかったら……」
「相手の落下死とともに、キミたちも爆死する。十分気をつけてくれたまえ」
「なるほどな……へへっ!」
オレの口から、笑いがもれた。
「確かに起死回生の一手だぜ! ソイツがあれば、ハンター・ハルカを探す必要もねえ! どんなに距離が離れてようが、一発で射程圏に入るんだからな!」
「スゴイスゴーイ! サリィちゃんが死んでくれたおかげだね!」
シャル姉は、ぴょんぴょん跳ねて喜んでいる。
ツカサは、特に反応がない。
さっそく使いどころを考えてる、ってとこだろう。
「そうそう。サービスで、もうひとつ情報を渡しておこう」
ジョウカーが続ける。
「ハンター・ハルカの首輪だが。半径2メーター以内に、別の首輪――つまりキミたちの侵入を許した場合。5分後に爆発するようになっている」
「マジでか!?」
「逃げる側は、追う側よりも有利だからね。多少のハンデはつけてある、というわけだよ」
「ってことは、だ!」
オレはひらめいた作戦を、口にする。
「魔石でハンター・ハルカを呼び出したあと、ダッシュで突っ込めば! カンタンに首輪の爆破条件を満たせるじゃねえか!」
よし!
勝ち筋は見えたな!
「さて? そんなにうまくいくかな?」
オレの勝利宣告に、ジョウカーは首をかしげている。
「ハンター・ハルカは、相当なつわ者だ。瞬時に反応され、迎撃を受けると思うがね」
「はっ! オレを誰だと思ってんだよ?」
オレはジョウカーに、ビシッと指を突き付けてやる。
「ゆ・う・しゃ、だぜ! 勇者ダイトの手にかかりゃ! ハンターのひとりやふたり、ちょちょいのちょいよ!」
オレは自信たっぷりに宣言すると。
「おっしゃ! そんじゃ、とっとと渡してくれや! その魔石をよ!」
ジョウカーに向かい、手を差し出した。
……のだが。
「それはできない」
「……は?」
予想外の返答に。
オレは、目をパチクリさせてしまった。
「聞こえなかったかな? それはできない、と言ったんだ」
ジョウカーは、ニヤニヤした声色で繰り返す。
ふ……ふざっ……ふざけっ……!
「ふざけんじゃねえぞコラああああああぁぁ!」
ブチ切れるオレを、ジョウカーはせせら笑う。
「ワタシは通信で、こう告げたはずだ。スペシャル・ゲームの対価で、生き残った者に現状を打開する策を授ける、と」
「だっ……だから――」
「策は授けた。アイテムを渡す、とは言っていない」
「んなっ!?」
なん……だ……と?
「キミたちの解釈違いだ。相手の話はきちんと聞けと、教わらなかったかな?」
「あ……あ……がっ……」
オレは間抜けにも、口をパクパクさせてしまった。
「う……そ……?」
シャル姉も、ぼう然としている。
「く……くっ……!」
ツカサもうつむき、肩を震わせている。
「ただし。ワタシはこうも言った」
ジョウカーが続ける。
「一方的なゲームほど、つまらないものはない、とね。ここで魔石を渡さなければ、結果の見えたゲームに付き合わされるハメになる。そこで」
ジョウカーは、指を一本立てた。
「ひとつ、頼みがある。聞いてくれれば、今度こそ魔石を渡すと約束――」
「どうすりゃいいんだよ!」
食い気味に叫ぶ、オレに向かい。
ジョウカーは答えた。
「土下座だ」
……は?
「魔石の交換条件は、キミたちの土下座だ。カンタンだろう?」
バ……バ……バ……!
「バカ野郎がああああああぁぁ! んなことできるかああああああぁぁ!」
オレは絶叫した。
「オレを誰だと思ってやがんだよ!? 勇者だぞ!? 選ばれし者だぞ!? どこの世界に、魔王に土下座するバカ勇者がいるってんだよおおぉぉ!」
「シャ、シャルちゃんだってヤダ! なんでシャルちゃんが、土下座なんかしないといけないのよぉ!?」
激しく拒否する、オレとシャル姉に。
「……ここは提案に乗りましょう」
ツカサがささやく。
「け、けどよ! オレは勇者で――」
「土下座ひとつで必要なアイテムが手に入るなら、安いものじゃないですか?」
「むぐっ……!」
それは……ツカサの言う通りだ。
ここで意地を張っても、しかたがない。
だが……!
「ぬぐ……ぐぐ……!」
オレの中で、命の重みとプライドとが激しくぶつかり合い。
「ぐ……ぎ……ぎぎ……ぎ……!」
結局、捨てたのは。
「クソったれがああああああぁぁ! 土下座すりゃいいんだろうがよおおおおぉぉ!」
プライドだった。
「やってやるからとっとと魔石をよこしやがれクソがああああああぁぁ!」
オレは絶叫すると。
膝をつき、額を床にこすりつけた。
隣では。
「殺す……殺す殺す……殺す殺す殺す殺す……絶対に殺す……」
シャル姉の、呪いのようなうめき声が響いている。
「ふむ」
頭上から、ジョウカーの声が聞こえたかと思うと。
グリッ!
「んごおっ!?」
いきなり、頭を踏みつけられた。
「いやいや。思った以上に気分がいいね」
ジョウカーの愉快そうな声が、オレの耳に届く。
「人間はなぜ、このような行為を相手に強要するのか? 理解できなかった謎が解けたよ。何事も、体験が大切だね」
ジョウカーは、オレの頭をグリグリしながら。
「感謝するよ、勇者ダイト」
ご満悦の様子だった。
「クソ……!」
オレの目から、悔し涙が垂れ流れる。
「クソクソクソクソクソおおおおおおおおぉぉ!」
ちくしょう! ちくしょうちくしょうちくしょう!
(……許さねえ! 絶対に許さねえ!)
このクソ魔王も。
ハンター・ハルカも。
オレを見捨てた、解呪師のマモルも。
(全員残らず、ブッ殺してやる……!)
暗い決意に、心を染めながら。
オレはひたすら、屈辱の時間を耐え続けるのだった……。
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