22.雷光
「いにしえの勇者たちよ! 僕に力を! オーラ・ナックル!」
バギイイィィィィ!
「ウギャアアアアアアァァ!?」
闘気をまとった僕のパンチが、魔族――夢魔のガンザの顔面を直撃した。
すかさず僕は、片手でヤツの頭を引っつかみ。
バギ! バギィ! バギイイィィィィ!
さらに3発入れた。
「オブウウウウゥゥ!? アギッ!? アギャアアアアアアァァ!」
情けない声で、魔族は叫び散らかした。
僕が手を放すと、魔族はブザマにへたり込む。
そこへ。
「死者を侮辱した罪……その命でつぐないなさい!」
走り込んできたのは、ナヅキだ。
ナヅキの手元が輝くと、具現化した鎌が握られる。
「ミスティー・ダンス!」
ナヅキは舞うような滑らかな動きで、魔族へ鎌の連撃を繰り出す。
ズバッ! ズバッ! ズバッ! ズバッ!
「アギイイィィ! グホッ!? アガァ!? アギャアアアアアアァァ!?」
魔族は吹っ飛び、地面をゴロゴロ転がった。
そんな魔族に向かい、僕は宣言する。
「次で終わりだ」
僕の『いにしえの勇者パーティー』の力。
その消失条件を、謎の声はこう言っていた。
『ただし。あなた、もしくはあなたのパーティーメンバーが人間を殺めた場合。手にした力は失われます』
つまり、魔族は関係ない。
コイツには遠慮なく、トドメを刺せる。
「ま、待て! 頼む! 頼む! 頼むから待ってくれええええぇぇ!」
魔族がわめきだした。
「ワ、ワタシは! ワタシは悪くない!」
「ふざけるな」
「ち、違う! 違うんだ! 違うんだ違うんだああああぁぁ!」
「違う? 何がだ」
「そ、そもそもだ! そもそも、この村を滅ぼしたお方を! ワタシはよーく知っている!」
「……なに?」
僕が足を止めた、次の瞬間。
「魔王様だ! この村を滅ぼしたのは、ワタシが仕える魔王様なんだ!」
「な……っ……!?」
何を言われたのか、すぐには理解できなかった。
「な……ん……だって……!?」
判明した事実に、頭がついていかない。
「まさ……か……?」
混乱する思考を、どうにか落ち着かせ。
僕は、告げられた事実を脳に届かせる。
「そんな……ことが……?」
10年前に、僕のすべてを奪った犯人は。
復讐の相手は。
「ま……おう……?」
でも。
「どうして……? どうして僕の村を、魔王は滅ぼす必要があったんだ……?」
ぼう然と、僕はつぶやく。
「り、理由は知らん! 魔王様のお考えは、ワタシにはわからん!」
魔族はよほど命が惜しいのか、ペラペラしゃべり続けている。
「ワ、ワタシはただ! この地に遺された心のカケラで、遊んでいたにすぎんのだ! そこのメイドや女剣士も! ワタシの邪魔をしようとしたから――」
「そんな理由が通るか!」
「ヒィッ!?」
僕の一喝に、魔族は悲鳴を上げる。
「たとえ、村を滅ぼしたのが魔王だとしても。僕はアンタを許さない」
「ヒィィ……アヒィィィィ……」
「アイを。ユウリを。ファーザ叔父さんを。もてあそんだ罪は重い!」
僕はゆっくりと、魔族に歩み寄る。
「覚悟しなさい、外道」
隣には、ナヅキが並び立つ。
瞳は、いつになく厳しい光が宿っていた。
「あ……あわわ……あわわわ……」
魔族は、腰でも抜けたのか。
尻もちの態勢で、あとずさるだけだ。
ザッ、ザッ、ザッ。
僕とナヅキは、無言で。
一歩、また一歩と。
魔族に歩み寄っていく。
「ヒィィィィ……ヒイイィィィィ……」
完全に戦意喪失している、魔族に向け。
僕は、闘気の宿るこぶしを構えた。
そのとき。
ドガアアアアアアアアン!
僕の背後で、雷鳴がとどろいた。
「……そうか。そうだったな」
その音で、僕は理解した。
今、何をすべきかを。
「……そうだったわね」
ナヅキも、察したみたいだ。
「ナヅキ」
「了解」
僕とナヅキは、視線を合わせると。
パッと、左右に飛び退いた。
今、僕たちがやるべきなのは。
『彼女』に、道を開けることだ。
「は……?」
あっけに取られている魔族に、僕は告げる。
「トドメはゆずるよ。アンタのトドメにふさわしいのは、僕たちじゃない」
「どういう……ヒッ!? ヒイイイイイイイイイィ!?」
悲鳴をあげた魔族の目が、大きく見開かれた。
僕も視線を、魔族の目の先に向ける。
そこにいたのは。
「ふううううううううぅぅ……!」
ユウリだった。
その碧眼は、怒りの炎に燃えている。
天にかかげた剣からは、バチバチと雷光がほとばしっていた。
「た、助けてくれ! ワタシが悪かった! 助けてくれ助けてくれ助けてくれええええええええええええ!」
はいつくばって逃げようとする、魔族に向かい。
「はああああああっ!」
気合とともに、ユウリは一気に駆けた!
「サンダァァァァア・ストラァァァァッシュ!」
ユウリの剣が閃き、魔族を切り裂く!
ズバアアアアアアアアァァッ!
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァ!?」
ユウリの必殺剣は、一撃で魔族を両断した。
「なぜだああああぁぁ!? なぜワタシがこんな小娘ごときにいいいいぃぃ!?」
魔族の断末魔の悲鳴が響く。
「イ、イヤだああああぁぁ! ワタシはまだ消えたくないいいぃぃ! 魔王様ああああ! お助けをおおおお! 念波は届いているはずだああ……!」
魔族は、魔王に助けを願いながら。
「魔王……さま……まお……う…………カ……さ……さま……」
チリとなって、消えた。
「お父さん……」
ユウリは空を見上げ、剣を天にかざした。
瞳には、涙が浮かんでいる。
「見ててくれた? あたし、強くなったよ……!」
「ビックリするぐらいに、ね」
僕は、しみじみと言った。
ユウリの不屈の精神に、尊敬の気持ちを込めながら。
「きっと今頃ファーザ叔父さんは、天国で鼻高々だよ。自慢の娘だって、さ」
「マモル……」
「それにさ。僕にとっても、ユウリは誇りだよ」
僕は、ユウリに笑いかけた。
「だって。こんなに強くてカッコイイ女の子が、僕の幼なじみなんだから」
「そこはかわいいとか、美人っていいなさいよ……。昔から、女の子の気持ちには鈍感なんだから……!」
ユウリは僕に向かい、泣き笑いのような表情を浮かべると。
「マモル! マモルううううぅぅ!」
一気に駆け寄り、抱きついてきた。
「会いたかったよお! 会いたかったよおおおおぉぉ!」
「僕もだよ、ユウリ」
泣きじゃくるユウリの頭を撫でながら、僕は空を見上げた。
空には、満天の星空が広がっている。
その中の星のひとつが、ひときわ大きく輝いていた。
まるで僕たちを、見守ってくれているかのように。
いつまでも、いつまでも……。
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