20.最期 【勇者side⑦】



 ピピピピッ! ピピピピッ!




 サリィの首輪からは、無機質な音が鳴り続けている。



「う……あ……ああ……!」



 顔面蒼白のサリィに向かい。



「フィナーレまではあと5分、といったところかな」



 ジョウカーが宣言した。



「残りの5分を、有意義に使うことだ。別れを交わす時間は必要だろう? この世にも、仲間にもね」



 肩をすくめつつ、ジョウカーは玉座に座った。


 その瞬間。



「貴様ああああああぁぁ!」



 サリィは、オレにつかみかかってきた。



「貴様……ダイト! なぜ貴様は私を選んだ! どうしてツカサではなく、私を選んだんだ!」



 サリィは、顔を真っ赤にして怒り狂っている。


 赤くなったり、青くなったり。


 忙しいヤツだ。



「いや、どうしてって言われてもよ」



 オレは頬をぽりぽり掻きながら。


 サリィに事実を告げる。



「ぶっちゃけこの中で、お前が一番いらないから」



「な……!?」



 凍り付くサリィに、オレはわかりやすく説明する。



「まず、オレは論外だろ? 勇者だし」



 これは当然だ。



「次に、シャル姉は必要。回復要因だしな」



「さっすがダイトくん! わかってるぅ!」



 シャル姉がはしゃぐ。



「それから、ツカサの広範囲攻撃魔法も必要。いざというときは、転移魔法も使える」



「ありがとうございます! ダイトさん!」



 ツカサが目を輝かせている。



「で、だ。サリィには何ができる? 剣を振り回すぐらいしか能がないだろ?」



 うんうんと、オレはうなずく。



「な? やっぱりいらないのはサリィだ」



「き、貴様……貴様は……!」



 サリィは、こぶしを握りしめた。



「貴様は、この私を! 剣聖サリィを! 能なしだというのか!?」



「実際、そうだと思ってましたけどぉ?」



 ツカサがあざけるように、サリィに言う。



「ツカサぁ……!」



「おっと! アタシに文句を言うのは、筋違いだと思いますよ?」



 こぶしを震わせるサリィに向け、ツカサがニヤッと笑う。



「アタシはただ。リーダー・ダイトさんの決定に従っただけですから♪」



「ちなみにシャルちゃんはぁ。サリィちゃんに2票入ったから乗っかっただーけ!」



 ニコニコしながら、シャル姉が続ける。



「シャルちゃんさえ死なずに情報をもらえるなら、誰でもよかったしねー」



 シャル姉は、完全に他人事の口調だった。



「ダイト……! なぜだ……!」



 サリィは肩を震わせる。



「私とお前は、小さい頃からの幼なじみだ! そうだろう!?」



「だな」



 オレは軽くうなずいた。



「なぜ、幼なじみを裏切る!?」



「いや、だから――」



「どうしてツカサを選ばなかった!? こんなヤツ、旅の途中で出会っただけじゃないか!」 



「それは――」



「どうして幼なじみを切り捨てるんだ!?」



「さっきも言った――」



「答えてみろダイトオオォォ!」



「はぁ……」



 ため息が出た。



「メンドくせぇな。何で同じことを、2回も言わないといけねえんだ?」



 仕方ねえ。


 もう1回言ってやるか。




「ぶっちゃけこの中で、お前がいちばんいらないから」




「う……ああ……あぁ……!」



 サリィのこぶしが、固く握られたかと思うと。



「うああああああああああっ!」



 いきなりオレに、殴りかかってきたが。



「うざってぇ……」



 サリィのパンチが飛ぶよりも早く。


 オレはサリィに、足払いをかける。




 バシッ!




「ぐああっ!?」




 ドテーン!




 サリィはすっ転び、ブザマに尻もちをつく。


 そんなサリィを見下ろしながら、オレは言う。



「お前ね。いつから、格闘家にクラスチェンジしたの? そんな中途半端なことやってるから、こうやって捨てられるんじゃねえの?」



「うぅ……う……ぅ……」



 涙を浮かべるサリィに、オレはあきれる。



「っていうかさ。都合が悪くなりそうなときだけ、幼なじみを持ち出してくるんじゃねーよ」



「ぐっ!?」



「どうせこれまでも、オレを都合よく利用してただけなんだろ? オレが勇者だから、幼なじみの立場を利用してすり寄ってきた。違うか?」



「ち、違う! 私は、そんなことは……!」



 口では、否定してるが。


 サリィの目は、白黒している。


 図星か。



 ……そういや。



「言い訳のときも、しょっちゅう聞いたぜ。私は悪くない、お前が言ったから従っただけだ、とかよ……! 間接的に、悪いのはオレだって言ってやがったんだよな……!」



 自分で言っててアレだが。


 だんだん腹が立ってきた。



 うん、やっぱコイツいらないわ。




 ピピピピピピピピッ!




 首輪の音が、どんどん早まっていく。



「い、いやだ! 私は死にたくない! だ、誰か! 誰かああああぁぁ!」



 泣きながら、助けを求めるサリィに。



「往生際が悪いなぁ」



 シャル姉が近づくと。


 サリィの腰に下げた、レイピアを奪い取り。




 ドシュッ!




 サリィの太ももに突き刺した。



「うあっ!? ぐ、ぐああああああぁぁっ!?」



 絶叫しながら、のたうち回るサリィに。


 シャル姉は、めんどくさそうな視線を向ける。



「さっさと死んでよ。サリィちゃんが誰からも求められてないのは、よーくわかったでしょ?」



「い、痛い! 痛い痛い痛いいいいいぃぃ! あぐうううぅぅぅううう!」



 床をゴロゴロ転がるサリィに向かい。



「パープル・ポイズン!」




 ボフゥン!




 ツカサの毒魔法が飛んだ。



「うがっ! あぐあっ……!」



 サリィの顔が、みるみる土気色に変わっていく。



「サリィさん、いつか言ってましたよね?」



 ツカサがニヤリと笑った。



「解呪師のマモルを殺せなかったのは、アタシの呪文選択ミスだって。実際に食らってみて、ご気分はいかがですかぁ?」



「ぐふぉ……ぶぎぃ……!」



 ヒクヒクとけいれんするサリィに、ツカサは残虐な視線を浴びせる。



「サリィさんは、アタシを生贄にしようと考えてたみたいですけど? 残念でしたね、人望がなくて♪ アハハハハ!」




 ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ!




 首輪の音が、高速で鳴り出した。


 やれやれ、やっとジ・エンドか。



「じゃあな、サリィ」



 最期にオレは。


 リーダーらしく、勇者らしく。



 はなむけの言葉を、サリィにかけてやる。




「せいぜい地獄から、オレの活躍を見ててくれや!」




「たすけ……て……たす……け……て……死に……たく……な――」




 バズン!




 炸裂音が響いた。


 首輪が弾け飛び。



 サリィの頭も。


 木っ端みじんに吹き飛んだ。




 ゴトッ……。




 サリィの首なし死体は、力を失い横たわる。


 それを見て、オレの心に浮かんだのは。



「これでジョウカーの野郎から、現状打開策が聞けるぜえ……!」



 希望の、2文字だった。




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