19.生贄 【勇者side⑥】



 魔王ジョウカーから提示された、スペシャル・ゲーム。


 その返答期限が、近づく中で。



 オレたち、勇者パーティーは。



「ここか。闇ギルドで聞いた、解呪師の店ってのは」



 ホープタウン兵士たちの、包囲網をかいくぐり。


 闇ギルドに多額の金を払い、情報を仕入れ。


 街で一番と言われる、解呪師のもとを訪れた。



「報酬はいくらでも払う! とっとと首輪を解呪してくれや!」



「ホ、ホントですか!?」



 解呪師の男は喜んで引き受け、何やら呪文を唱え始めたが。



「むむ……むむむ……むむむむむむむ……!」



 うなり続けるだけで、何も起こらない。



 2分が過ぎ


 5分が過ぎ。


 10分が過ぎたあとで。



「ひぃひぃ……ひぃぃ……」



 荒い息をつきながら、解呪師は床にヘタり込みやがった。



「ダメです……! こんな強力な呪い、俺にはとても解けません!」



 ……まあ、ぶっちゃけ予想通りだった。



「それなら。あんた、コイツを解呪できそうなヤツを知ってるか?」



 ダメもとで聞いてみると。



「……おそらく、あの人物ならば」



 お!?


 まさかの手がかりか!?



「知ってんのか!? なら、早く教えろ! とっとと教えろ! 今すぐ教えろ!」



 オレは解呪師の首を引っつかむと、ガックンガックン揺さぶった。



「お、教えます教えます教えます! その解呪師の名は!」



「解呪師の名は!?」



「マモル・フジタニさんです!」



「え」



 なん……だと!?



「噂ですけど、圧倒的な解呪の力を持っているそうですよ! その力は大陸一! いや、ブッチギリで世界一とも言われています! お願いすればきっと――」



「だからそれは無理なんだよクソがああああああぁぁ!」




 バギイイイイィィ!




 オレは、近くにあったテーブルを蹴り飛ばし。


 解呪師を放り出すと、荒々しく店を出て行った。



「クソクソクソ! こいつもマモルかよ! どいつもこいつも、マモルマモルマモル! そんなにあの解呪師はスゲエのかよ!?」



 オレは絶叫しながら、ガシガシと地面を蹴りつけた。



「気に入らねえ気に入らねえ気に入らねええええぇぇ!」



 暴れるオレの懐から、懐中時計がこぼれ落ちた。


 時間を確認すると。



「あと5分……か」



 ジョウカーの告げた、スペシャル・ゲーム。 


 返答期限までは、残りあとわずかだ。



(さて……と)



 この2時間。


 解呪の方法を探すフリをしながら。


 頭の中ではずっと、誰を切り捨てるべきかを考えていた。



(そして……結論は出た)



 幼なじみの、剣聖サリィ。


 姉の、聖女シャルロッテ。


 旅の途中で出会った、賢者ツカサ。



(オレが切り捨てるのは……)



「……ダイト」



「うおっ!?」



 いきなりサリィに声をかけられ、オレは飛び上がった。



「な、何だよ! おどかすんじゃねえ!」



「すまない。そんなつもりはなかったんだが……」



 サリィは一度、言葉を切ると。


 意味ありげにツカサの方を眺めながら、続ける。



「ダイト。私は、魔王のスペシャル・ゲームに乗るべきだと思う」



「そ、そうか?」



「ああ。首輪解呪のメドは立たない。ハンター・ハルカを見つけるメドも立たない。このままだと私たちは、近いうちに全員爆死する」



「まあ……そうだな」



 オレはあいまいにうなずいた。



「なら、結論はひとつだ」



 サリィは、オレの目をじっと見つめる。



「魔王のゲームに乗れば、状況が一変する可能性はある。私は、そっちに賭けたい」



「この中の誰かを生贄に捧げても、か?」



 オレが聞くと。


 サリィはふたたび、視線をツカサに戻し。



「ああ、そうだ」



 肯定した。



「私は、ダイトの幼なじみだ。幼なじみの決定には、従うよ」



 その言葉で。



「……わかった。お前がそう言うなら」



 オレの心に少しだけ。


 ほんっっっっっっっっの少しだけ残っていた、ためらいは。


 キレイサッパリ、消え去った。



「おい、シャル姉! ツカサ!」



 オレはふたりに声を掛ける。



「オレは、ジョウカーのスペシャル・ゲームに乗ることにした! お前らはどうするよ?」



「もちろん、シャルちゃんは乗るよー! いつまでウジウジしてるのかなーって、ずっと気になってたんだー!」



 ……この女。


 相変わらず、言葉にトゲがありやがるな。



「アタシは、ダイトさんの決定に従います」



 ツカサも、しおらしい声で賛同した。



「おっしゃ! 決まりだな!」



 オレは声を張り上げる。



「聞こえてるか、ジョウカー! テメエのスペシャル・ゲームとやらに、オレたちは乗るぜ!」



 その瞬間、視界がぐにゃりとゆがみ。


 気がつくと。


 そこは、魔王城の玉座の間だった。




「やあ」




 目の前には、魔王ジョウカーが立っている。



「顔を合わせるのは、昨日ぶりだね」



 昨日と同じ、白いローブに仮面姿。


 仮面の額部分には、闇色のクリスタルがギラギラ光を放っている。



「……ったく。まさか、ここに呼び出されるとは思ってなかったぜ」



 オレのあきれ声に。



「なに、せっかくのスペシャル・ゲームだからね」



 ジョウカーは楽しそうにに答える。



「スクリーン越しに見るのでは、少々味気ない。生で鑑賞した方が、臨場感も格段に増すというものさ」



「本当に悪趣味なヤローだな、テメエは」



「それはお互いさま、ではないかな?」



「るせえ! テメエみてえなクソ魔王といっしょにするんじゃねえよ!」



「ふん。まあ、世間話はこのぐらいにしておこうか」



 ジョウカーは言葉を切った。


 しばしの沈黙のあと。



「では。そろそろ、本題に入るとしよう」



 ジョウカーが口を開く。


 オレたちの間に、緊張が走る。



「答えを聞こうか。誰の首輪を、ワタシに爆破させてくれるのかな?」



 サリィがオレを見る。


 オレはうなずき。


 切り捨てるヤツの名を、口に出す。




「サリィだ」




「なっ!?」



 サリィの目が、大きく見開かれる。


 間を空けずに。



「サリィさんで」



「サリィちゃん!」



 ツカサとシャル姉が続いた。



「ふむ、これで3票だね」



 ジョウカーは、満足げな様子だった。



「投票結果は、予想通りだったよ。番狂わせがあるかと思ったが、実に順当な結末だった」



「な、な……なっ……!」



 サリィは信じられない、という表情で絶句している。


 そんなサリィの首元で。




 ピピピピッ!




 無機質な音が鳴り響き。


 首輪が赤く、点滅を開始した。


 その首輪の色とは、対照的に。



「ひ……!」



 サリィの顔は、どんどん青くなっていく。


 そんなサリィに向けて。



「さよならだ、サリィ! 生贄になってくれて、ありがとよ!」



 オレはさわやかに、言葉をかけた。




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