15.選定 【勇者side⑤】

「クソが! クソがクソがクソがクソがクソがああああぁぁ!」



 オレたち勇者パーティーは、今。


 ホープタウンの兵士たちから、逃亡の真っ最中だった。



「何でこうなっちまうんだよ! オレは勇者だっつってんだろうがよおおぉぉ!」



 あのクソ生意気な解呪師、マモルに気絶させられ。


 気づいたら、兵士にズルズル引っ張られてる最中だった。


 どうにかこうにか、逃げ出しはしたものの。



「どうするんだ、ダイト! 伝説の武器は全部、兵士に取られてしまったぞ!」



「このままじゃ、魔王を倒せないじゃないのよぉ! せっかく苦労して手に入れたのにぃ!」



 サリィとシャル姉のなげきが響く。



 聖剣も、魔剣も。


 聖杖も、魔杖も。



 兵士たちに捕まった際に、奪われてしまっていたのだ。



「それもこれも、全部あのマモルのせいだ!」



 オレは頭をかきむしった。



「勇者をボコボコにして、何が満足なんだよ!? 実はヤツこそが、本物の魔王なんじゃねえのか!? 知り合いが真の魔王だったとか、シャレにもなんねえだろうが!」



 わめき散らかすオレに。



「そ、それよりもです! どうしてあの解呪師は、急にあんなに強くなったんだと思います?」



 汗を流しながら、ツカサが聞いてくる。



「知らねーよ! オレたちと組んでたときは、実力を隠してたんじゃねえの!?」



「そんなことより、もっと別に気にすることがあるだろう!」 



 サリィはいら立たしげな様子だ。



「ダイト! 解呪師には逃げられ、『ホープタウン』の連中は完全に敵に回った! 状況はどんどん悪くなってるぞ!」



「シャルちゃんたちで、ハンター・ハルカを見つけるしか手が残ってないじゃないのよぉ! そんなのムリだよぉ! もうやだよぉ! どうしてくれるのよぉ!」



「ぎぎぎぎぎぎ……ぎぎぎぎ……!」



 オレはうなった。


 アイデアは、何ひとつ浮かんでこない。



 魔王ジョウカーのゲーム開始から、もうすぐ30時間が過ぎようとしている。


 今からたった4人で、しかもノーヒントで。


 ハンター・ハルカを見つけ出せるのか?



「どうします? ひとまずこの街から、アタシの転移魔法で逃げますか?」



「ふざけんな! これ以上、勇者が逃げてたまるかってんだよおぉ!」



 ツカサに向かい、オレは吠えた。



 魔王ジョウカーから逃げた。


 ホープ・キャッスルから逃げた。


 マモルにボコボコにされて捕らえられ、兵士たちから逃げた。



 これ以上逃げるのは、オレのプライドが許さなかった。



「ちくしょう! ちくしょうちくしょうちくしょう!」



 ドガドガと地面を踏みつけながら、オレは途方に暮れる。


 と、そのとき。




『ふむ。なかなか、愉快な状況になっているようだね』




 いきなり首輪から、耳障りな声が響いた。



「この声は、まさか!?」



「魔王ジョウカー!?」



 サリィとシャル姉が叫ぶ。



『そう、ワタシだよ。キミたちの首輪は特別性でね。どんなに離れた場所でも、こうしてカンタンに言葉を交わせる。なかなかのものだろう?』



 得意げに語る、ジョウカーを。



「テメエ、何の用だ!」



 オレは怒鳴りつけた。



「オレたちを笑いにでも来たってのかよ!」



『そんなつもりはないよ。そろそろ、スペシャル・ゲームが必要な頃かと思ってね』



「……スペシャル・ゲーム?」



 耳なれない言葉だった。



「何だ、そりゃあ……?」



 オレが聞き返すと。



『興味があるようだね? では、説明しよう』



 ジョウカーは、楽しげな口調で言う。



『これから2時間後。ワタシはキミたちに、ひとつの多数決を取る』



「多数決だと? 何のだ?」




『誰の首輪をワタシに爆破させてくれるのか、だよ』




「……っ!?」



 オレは言葉を失った。



「な……ん……」



「です……ってぇ?」



 サリィとシャル姉も、ぼう然としてる。



「く……!」



 ツカサはくちびるを噛むと、手で口元を覆った。



『もちろんこれは、キミたちにメリットのある取引だ』



 ジョウカーが続ける。 



『キミたちに、多数決の回答をもらえた場合。ワタシはただちに、対象の首輪を起爆する』



「……っ!」



『その見世物の対価として、生き残った者たちに現状を打開する策を授ける。というわけだ』



「……何のために、そんなマネをする必要がある?」



 オレの質問に。



『単純な話だよ。ワタシが楽しむためさ』



 ジョウカーが余裕たっぷりに答えた。



『キミたちには大いに笑わせてもらっているが、本筋のゲームの勝敗は見えたようなものだ。このままでは、ハンター・ハルカの勝利はゆるがない』



「ちっ……!」



 オレは舌打ちした。


 悔しいが、確かにその通りだった。



『一方的なゲームほど、つまらないものはないからね。そこでゲーム・マスターのワタシが、自ら介入して状況を動かそうというわけだよ』



「もしスペシャル・ゲームを拒否した場合は……どうなる?」



 サリィが聞いた。



『その場合、この取引は無効とさせてもらう。現状は変わらず、キミたちに極めて不利な状況が続くだろうね。ああ、そうそう』



 ジョウカーが思い出したように言う。



『キミたちは4人パーティーだったね? ならば、意見が2対2の場合も無効とさせてもらうよ。ひとりに3票が入った場合のみ、取引成立とみなそう。おっと』



 ジョウカーは、ククッと笑った。



『4票入る可能性も、あるにはあるね。自殺願望を持つものがいれば、の話だが』



「…………」



 オレは、黙ってしまった。



 サリィも、シャル姉も、ツカサも。


 誰も、何も言わない。


 探る様な視線を、互いにぶつけ合うだけだ。



 気まずい沈黙が、場を支配する。



『では、ワタシはこれで失礼させていただくよ。時間は2時間ある。ゆっくり考えたまえ』



 そう言い残し。


 それっきり、ジョウカーの声は聞こえなくなった。



「ダイト……どうするんだ」



「シャルちゃんは、自分が死ななければ何でもいいけど……」



「アタシは、ダイトさんに従います。リーダーは、ダイトさんですから」



 サリィが、シャル姉が、ツカサが。


 オレに視線を向けてくる。



「ちょっと、いろいろ考えていいか? 犠牲を出さない方法が、思いつくかもしれねえからよ」



 などと、口では言いながら。


 オレが頭の中で、考えはじめたことは。



(誰を切り捨てるのが正解だ?)



 近接攻撃のエキスパート、幼なじみの剣聖サリィ。


 回復や防御魔法が得意な、姉の聖女シャルロッテ。


 攻撃魔法のプロフェッショナル、旅の賢者ツカサ。



(じっくり検討する必要があるな……)



 オレは頭をフル回転させ。


 犠牲者の選定を進めるのだった……。




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