13.圧倒

「ふ……ふざけんな! ふざけてんじゃねえぞマモルううぅぅ!」



 ダイトは怒り狂った。



「オレたちがお前を殺そうとした? それがどうしたよ!? お前は今、生きてるじゃねえか! お前が生きてるんだから、オレたちはお前を殺してない! それで丸く収まってるだろうがよ!」



「……そんなわけないだろ」



 僕はあきれた。


 ダメだ。


 コイツの思考は、ボクには理解できない。



「なぜだ!? 私たち勇者パーティーを救えば、多大な功績になる! お前の得にしかならないはずだろう!?」



 サリィのわめきと。



「そうだよ! 大聖女さまを救った英雄でーす! って感じで、ごほうびがたーくさんもらえるはずだよ! ねっねっねっ!」



 シャルロッテの訴えにも。



「……そういう問題じゃないだろ」



 僕はあきれた。


 前言撤回。


 コイツらの思考は、ボクには理解できない。



「ほかをあたってくれ。それじゃ」



 騒ぐ連中の横を、すり抜けようとすると。



「……仕方ねえな」



 ダイトが暗い声を発した。


 かと思うと。



「そういうことなら、イヤでも解呪したくなるようにさせてやるよ」



 ダイトが聖剣を抜き。



「痛めつけてでも、な」



 サリィも魔剣を抜いた。


 さらに。



「聞きわけのないおバカさんには、おしおきが必要みたいだねぇ」



「愚かな人ですね♪」



 シャルロッテが聖杖を、ツカサが魔杖を構える。



 動揺はない。


 そう来るだろうと、予想はできた。



「ムダなことはやめた方がいい。アンタらじゃ、今の僕の相手にはならない」



 連中に忠告すると。



「はぁ?」



 ダイトが、ヘラリと笑った。



「おいマモル。テメエ、なめてんのか? 頭がイッちまってんのかよ?」



 それはアンタの方だろと、心の中でつぶやく。



「力の差をわかってんのかよ!? ただでさえ4対1だぜ? しかもオレたちは『勇者パーティー』で、伝説の武器持ちだ! テメエに勝てる要素なんか、何ひとつねえよ!」



「一応、もう1回だけ言っておく」



 ダイトの話をスルーして、僕は繰り返す。



「ムダなことはやめた方がいい。ケガをしたくなければな。力の差は、圧倒的だから」



「テメエ……テメエよおぉぉ……!」



 ダイトは僕をにらみつけると。



「なら、とっととオレにケガさせてみろやああああぁぁ!」



 ブチ切れながら、聖剣を手に突っ込んでくる。


 同時に。



「解呪師ごときが! 剣聖サリィをナメるなああぁぁ!」



 サリィがダイトに併走、魔剣を振り抜く。


 連中の動きに合わせ、僕も動いた。




 バキィ! ドガッ!




「うごおおおおおおおおぉぉ!?」



「ぐああああああぁぁ!?」



 ダイトとサリィが吹っ飛んだ。


 僕のストレートがダイトの顔面に炸裂し、キックがサリィを弾き飛ばしたのだ。


 聖剣と魔剣は、僕にカスリもしていない。



「ぎゃああああぁぁ!? い、イデええええぇぇ! イデエよおおおおおおぉぉ!?」



 ダイトは顔面を押さえ、ゴロゴロ転げ回っている。



「うぅ……な、何だ……!? 何が起きた……!? ぐうっ……」



 サリィは混乱した様子で、身を起こそうともがいていた。



「ウソ!?」



「なっ……!?」



 シャルロッテと、ツカサの顔も引きつっている。


 そんなふたりに向かい。



「テメエら! 何を突っ立ってやがんだよ! とっとと魔法で仕留めちまえ!」



 ダイトの声が飛ぶ。



「わ、わかってるよ! シャルちゃんに命令するなって言ってるでしょ!」



「コイツ、どこでこんな力を……?」



 シャルロッテとツカサが呪文を唱え出した。


 ならば、コレだ。



「いにしえの勇者たちよ! 僕に力を! サイレント・フィールド!」




 ピキィン!




 鋭い音が響いた。


 やや遅れて。



「ダーク・ホーリーシュート!」



「レッド・クリムゾン!」



 シャルロッテとツカサが叫ぶが。




 シーン……。




 何も起こらない。



「あ、あれっ? あれれ? あれれれれ?」



「えっ!?」



 慌てるふたりに、僕は告げる。



「周囲に魔封じの結界を張った。この結界の中で、魔法は使えない。僕が敵とみなす相手限定で、な」



「ウ、ウソでしょ!? 何で!? どうやって!?」



 シャルロッテは慌てふためき。



「そんな馬鹿な!? アタシの魔法を、ただの人間ごときが封じる!?」



 ツカサは、驚愕の表情を浮かべた。


 そんな中で。



「クソッタレがぁ……!」



 ダイトは聖剣を杖替わりにしながら、身を起こした。


 そんなダイトに、僕は告げる。



「わかっただろ? 力で従わせようとしてもムダだ。これ以上続けるなら、こんなものじゃすまさない」



 僕は忠告したが。



「ふざけんな……ふざけんな……ふざけんな……!」



 ダイトは、鬼の形相で僕をにらんでくる。


 『封印の塔』で見せていた余裕は、まったく感じられない。


 まるで、追い詰められた獣みたいだ。



「ふざけんな……ふざけんああああああぁぁ!」



 ダイトは吠え、僕に向かって突っ込んでくる。



「うああああぁぁ!」



 逆サイドからは、サリィが駆ける。


 シャルロッテとツカサも、こりずに呪文を唱えようとしていた。



「忠告は無視、か」



 なら、仕方がないな。



「いにしえの勇者たちよ! 僕に力を! ロック・スプレッド!」



 僕の宣言で。


 連中の頭上に、こぶし大の岩が降り注いだ。



「うおっ――」




 ゴンッ! ガンッ! ゴンッ! ガンッ!




「ぎょべっ!?」



「ぐあっ!?」



「うきゅっ!?」



「あうっ!?」



 岩は、連中の後頭部を直撃した。


 そのまま連中は、バッタリと倒れて動かなくなる。



「……こんなもんか。『力』を守るために、殺すわけにはいかないしな」



 『力』に覚醒したときの謎の声を、僕は忘れていない。




『ただし。あなた、もしくはあなたのパーティーメンバーが人間を殺めた場合。手にした力は失われます』




「ある意味、やっかいな制限だな。まあこんなゲスと戦う機会は、めったにないと思うけど――」



「おい! こっちだ!」



「ん?」



 遠くから、兵士の集団が近づいてきた。


 僕が素早く、物陰に身を隠すと。



「見つけたぞ!」



「例の勇者……いや! 犯罪者どもに間違いない!」



「とっとと城に連行するぞ!」



 兵士たちは、手早く連中を捕らえると。


 そのままずるずると、引っ張っていく。



「うーむ……?」



 よくわからないけど……。



「僕の件以外にも、やらかしてて。それがバレたってこと……なんだろうな」



 まあ、ともかく。



 一度不覚を取った連中を、返り討ちにできた。


 『勇者パーティー』と呼ばれるヤツらも、今の僕の敵ではない。


 今回の結果は、僕に多少の満足感をもたらした。



 でも。



「こんなことで、満足してる場合じゃない」



 そう。


 だって。



「僕の目的は。10年前、僕のすべてを奪った犯人に復讐すること、なんだから」




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