12.拒否

 明けて翌日。


 僕は、ホープタウンの街中で。



「『カフェ・神月』、リニューアルオープンしましたー! 明日、営業しまーす! よろしくお願いしまーす!」



 カフェの宣伝活動に励んでいた。



 ふたりの死神は、朝早くから出かけて行った。


 僕の故郷の事件を、調べるために。


 カフェを休みにしてまで。



「ナヅキもカンナギも、僕のために動いてくれている」



 それに。



「昨日は結局、カフェに泊めてもらっちゃったし」



 だから。



「僕もふたりのために、できることはしないとな!」



 僕は街を駆け回りながら、出会う人たちにチラシを渡す。


 掲示板を見つけては、チラシを張り出す。



 そんな中で。



「おい、知ってるか? 『フューチャ村』の跡地で、妙な霧が発生してるらしいぞ」



 聞き覚えのある地名が、僕の耳に届いた。



(フューチャ村……僕の故郷か!?)



 声の方を見ると、冒険者たちが何やら話し込んでいた。


 僕は冒険者たちの話に、耳を傾けてみる。



「ああ、知ってるぜ。何でもかれこれ、1週間ぐらいは続いてるんだろ?」



「原因も不明らしい。不気味な話だねぇ」



「スゴ腕の冒険者ふたりが調査に出たらしいんだが、行方不明になっちまったってよ」




「『雷光の魔法剣士ユウリ』と、『専属メイド戦士のアイ』だろ?」




(……なに!?)



 僕は息をのんだ。


 ユウリに、アイだって?


 僕の幼なじみたちと、同じ名前じゃないか!



 心に、小さい頃の思い出がよぎった。




『アイね! おっきくなったらメイドさんになる! ただのメイドさんじゃないよ! 戦えるメイドさんになって、マモルさんやみんなを守るの!』



『それじゃあユウリは、魔法剣士になるわ! 剣にカミナリをドカーン! って落として、ズバッ! て敵をやっつけるの! かっこいーでしょ!』




「……いや」



 僕は首を振った。



「ただの偶然だ。ふたりは10年前に死んだ」



 そう。



「ふたりとも。もう、この世にはいないんだから」



 僕が思い出に浸っている間に、冒険者たちはいなくなっていた。



「気を取り直して……っと」



 僕はふたたび、街中を駆け回る。


 チラシを配り。


 チラシを掲示板に貼り。



 人通りのない、裏路地に差しかかったところで。



「よぉ!」



 いきなり背後から、声をかけられた。



「この声は……」



 聞き覚えがあった。


 忘れるわけがない。



「まさか、昨日の今日で再会するとはな……」



 つぶやきながら、僕は振り向く。


 そこにいたのは。



「いやー! やっと見つけた見つけた! また会えて嬉しいぜぇ!」



 勇者ダイト。



「まったく……どこの宿に泊まってたんだ? 我々は昨夜から、ずっとお前を探してたんだぞ?」



 剣聖サリィ。



「もう! 手間を取らせないでほしいなぁ! 睡眠不足はお肌の敵なんだよー? ぷんぷーん」



 聖女シャルロッテ。



「最終的には見つかったから、めでたしめでたしですけどね♪」



 賢者ツカサ。



 『封印の塔』で僕を殺そうとした、勇者パーティーの4人だった。



「参考までに、聞いてもいいですか?」



 いきなりツカサが、僕に質問をぶつけてきた。



「どうしてあなたは生きてるんです? あの状況での生存確率は、ゼロだと思ってましたけど――」



「説明してやる理由はない」



 僕は一蹴した。



 心は、不思議なほどに落ち着いていた。



 昨日のことで、悔しさを感じないわけじゃない。


 憎しみがないわけじゃない。



(でも、それ以上に)



 相手にする時間がもったいない。


 これ以上、コイツらに関わりたくない。



 そんな気持ちの方が、はるかに強かった。



「大切な仕事中だ。アンタらと話をしてるヒマはない」



 そう言い捨て、僕は立ち去ろうとするが。



「ま、待て待て! ちょっと待て! ちょっと待てってば!」



 ダイトに、行く手をさえぎられた。



「そっちにはなくても、こっちにはあるんだ! ほら、見てくれ! コイツをよ!」



 ダイトが、自分の首を指さした。


 そこには、不気味に輝く首輪がハマっている。 



「実は、さ。『魔王ジョウカー』のヤツに、呪いをかけられちまったんだよ」



 ダイトはしおらしい表情で、僕に訴えてくる。



「これを解呪しないと、オレは死ぬことになる! オレは勇者だ! この世界の希望、勇者ダイトなんだ! 魔王も倒さずに、死ねるわけがねえ!」



 ダイトは一方的に、ベラベラまくし立てた。



「だから、マモル! あんたの素晴らしい『解呪』の力で、この首輪の呪いを解いてくれ!」



「……そういうことなら。魔王を倒せば、その呪いとやらも解けるんじゃないか?」



 僕が突き放すと、ダイトは首を振った。



「それがムリなんだよ! 魔王が死ぬと、この首輪も道連れで爆発しちまう! あの陰湿魔王のヤローが、オレにそう言いやがったんだ! オレは勇者だ! 魔王が死んでも、オレが死んじまっちゃあ意味がねえ! そう思うだろ?」



「いや……別に」



 思わず、僕は本心を出してしまった。


 でも、ダイトには聞こえていなかったらしい。



「そんなわけで、頼んだぜマモル! 過去は過去、今は今だ! 勇者の頼み、もちろん聞いてくれるよな?」



 続けざまに。



「ふたたび、我ら勇者パーティーの力になれるんだぞ? こんなに光栄なことはないだろう?」



「この大聖女・シャルちゃんの命を救えるんだよ? 世界中の人たちに褒められること、まちがいなーし! よかったね~!」



「いろいろありましたけど、昔のことは水に流しましょう! よろしくお願いします、マモルさん♪」



 サリィが、シャルロッテが、ツカサが。


 僕に声をかけてくる。


 解呪してもらえるのが当然、とでも言うような口調で。



 ……本当に、何なんだコイツらは。


 あきれて物も言えないとは、こういうことか。



「断る」



 僕は拒否した。



「んなっ!?」



「え……?」



「はぁぁ!?」



「う……」



 四者四様の反応だった。


 ダイトは目を見開き、サリィはあ然とし。


 シャルロッテは眉間にしわを寄せ、ツカサは手で口元を押さえた。



「な……な……な……な……!?」



 ダイトは声を震わせ。



「何でだよテメエ!? どうしてだよ!? どうして断るんだよおおぉぉ!?」



 顔を真っ赤にしたかと思うと。



「おおおおオレは勇者だぞ!? オレが死んだら、世界はどうなると思ってんだよ!? 魔王ブチ殺せねぇぞ!? 殺せねぇと滅んじまうぞ!? 滅んじまうんだよオレの世界がよぉ! わかってんのか!? どうしてお前は断るんだよ!? 理由を聞かせろ理由をおおおおぉぉ!」



 意味不明な叫びをまき散らかした。


 何を言ってるのか、サッパリ理解できなかったけど。


 言葉尻を捕まえ、答えを返す。



「いや、理由もなにも」



 僕はダイトをにらみつけ、言った。



「アンタら僕を殺そうとしたよね?」




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