11.策略 【勇者side④】
夜。
ホープタウンの街中を。
「クソッタレがああぁぁ! どうしてこんなことになっちまったんだよおおぉぉ!」
オレたち勇者パーティーは。
フードやら何やらで変装し。
城の兵士たちをまきながら、こそこそとさまよっていた。
「ダイト、どうするんだ! このままでは、この国に兵力は出してもらえない! ハンター・ハルカを探し出すのは、不可能になるぞ!」
サリィがわめくと。
「だいたいさー、ダイトくんがいけないんだよ?」
シャル姉がオレに、白い眼を向けてきた。
「あのガキんちょお姫様に、ダイトくんが指なんか突きつけるから! 城の人たちが怒っちゃったんじゃない!」
「オレだけのせいじゃねえだろ! サリィにシャル姉も、乗っかったじゃねえか!」
「わ、私は違う! ああいうことをするのは、よくないと思っていた! ただ、ダイトは勇者で幼なじみだ! だから、意見を支持してやろうと思ったんだ!」
「ま、まあまあ! 落ち着いてくださいよ!」
ツカサが割って入る。
「それよりも、不思議だと思いませんか? あの解呪師が生きていたこと」
「ああ……まったくだ。オレにも、サッパリわけがわからない」
ツカサの問いに、オレは首をひねった。
「確かにオレたちは、『封印の塔』でマモルを殺した。そうだよな?」
「間違いない。私のレイピアは、ヤツの太ももを貫通した。あの傷と出血で、動き回れるとは思えない」
「それにシャルちゃん、マヒの呪文をかけてたよ? 傷とか関係なしに、動けなかったんじゃない?」
「アタシの毒魔法も、確かに入りました。人間には、自然解除できないはずです」
となると。
責任がありそうなのは……。
「ツカサの呪文選択ミスじゃないか?」
サリィがツカサをにらんだ。
「毒じゃなくて別の魔法で、一撃で殺せば終わりだった」
「……そういうこと言います?」
ツカサがサリィをにらみ返す。
「それなら、サリィさんにも責任がありますよね? 太ももなんか狙わないで、心臓を刺せばよかったんです」
「私はただ、みんなの楽しみを残しておこうと思っただけなんだが?」
「へーえ……」
サリィとツカサが、バチバチと火花を散らす一方で。
「そもそもだけどさー」
シャル姉がオレに、冷たい視線を向ける。
「用済みになったら殺そうとか、ダイトくんが言い出したのがいけないんじゃないの?」
「んだと!? オレのせいだってのかよ」
「生かしておけば、首輪だって解呪してもらえたじゃん! そしたら今みたいに、ハンター・ハルカなんて探さなくてもよかったじゃん!」
「おいシャル姉! ふざけんじゃねえぞ!」
オレはブチ切れた。
「今さら何言ってんだ! これまでだって何十回も、協力者は消してきただろうが! シャル姉だってサリィだってツカサだって、喜んで用済みの連中をブチ殺してたじゃねえかよ!」
「今までは今まででしょ! 今回だけは生かしておけば、こんなことにはならなかったじゃん! リーダーの判断ミスだよ!」
「てめっ、この野郎! いいじゃねえかよ! 結果的にマモルは生きてたんだから……って」
ん?
お?
あ!
「くくくくくく……! ハハハハハハハハ!」
オレは高らかに笑った。
シャル姉も。
火花を散らしていたサリィとツカサも。
きょとんとした顔で、オレを見ている。
「そうだ! そうだよ! マモルは生きてるんだ! それならハンター・ハルカなんて、探す必要はねえ!」
「あ……そうか!」
サリィの顔にも、希望の光が灯った。
「オレたちがハンター・ハルカを探す理由は、首輪の呪いを解くためだ! つまり! 首輪の呪いを解く方法が別にあるなら、ハンター・ハルカはどうでもいい!」
「なるほどぉ!」
シャル姉の声が弾んだ。
「今オレたちが探すべき相手は、マモルだ! ヤツを見つけ出して、テキトーにだまして首輪を解呪させる!」
んでもって!
「その後で口封じのために、あらためてブチ殺す! これぞカンペキな策略だ!」
「ほうほうほう……」
ツカサが口の端に、不気味な笑みを浮かべた。
「それから魔王城に乗り込み、今度こそ魔王ジョウカーをブチ殺す! 英雄になったオレは、権力を手に入れてウハウハ!」
トドメに!
「手にした権力を使い、オレに恥をかかせた『ホープ・キャッスル』の連中を排除する! これにて完全勝利、っていうわけだ!」
「素晴らしい……素晴らしいアイデアだぞ! ダイト!」
サリィは感動したように、瞳を輝かせながら。
「何といっても私たちは、天下の『勇者パーティー』だからな!」
うんうんと、何度も何度もうなずく。
「いくら命を狙われたとはいえ、我らが頼みさえすれば! 愚かな解呪師マモルは過去を水に流し! 首輪を解呪するに違いない!」
「そのあとで、もう一回だまし討ちにしちゃおうってわけだね! ダイトくん、悪い子だ~! 乗っちゃう乗っちゃう~!」
シャル姉も、機嫌はすっかり直ったらしい。
ひとりで勝手にはしゃぎ回っている。
「なかなかおもしろいモノが見られそうですね。たまったストレスが、イイ感じに解消できそうです……ふふふふっ♪」
ツカサは含み笑いをしながら、残虐な表情を浮かべていた。
どうやら異論はないらしい。
「よーっし! 方針は決まったな! さっそくマモルを探そうぜ!」
「アテはあるのか? 時間をかけすぎると、追手の兵士に見つかってしまう危険があるぞ?」
サリィに向かい、オレはうなずく。
「この時間なら、そのへんの宿屋に泊まってんじゃねえの? 片っ端から探せば、どっかで見つけられるだろ!」
「え~~~~~~。メンドくさいなぁ。向こうからシャルちゃんの前に、出てきてくれればいいのにねぇ」
シャル姉がブーたれる。
思わず。
(メンドくせえのはテメエもだよ!)
と、心の中でツッコミを入れてしまった。
「まあまあシャルロッテさん、いいじゃないですか! 少しぐらい焦らされた方が、ラストシーンの快楽は大きくなりますよ♪」
ツカサが暗く笑った。
「いいこと言うじゃねえか、ツカサ! よっしゃ! そろそろ行こうぜ!」
オレは先頭に立って歩き出した。
「クククク……」
頭の中には、いくつもの妄想が浮かんでは消えていく。
マモルに、首輪を解呪させる場面。
マモルをだまし討ちで、ブチ殺す場面。
魔王ジョウカーを、ブッ倒す場面。
最後にオレが、英雄として人々の賞賛を浴びる場面。
「クククククククク……!」
オレは笑いながら、歩みを進める。
「勇者ダイトの英雄物語。第2幕のスタートは、ここからだぜ……!」
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