05.後悔 【勇者side②】
「ふざっ……ふざけんじゃねえぞおおおおぉぉ!」
オレは聖剣で、ジョウカーに斬りかかろうとしたが。
「まあ待ちたまえ」
ジョウカーは、余裕の口調でオレを制してきた。
「一度、剣を降ろした方が身のためだ。まだ、ワタシの説明は途中だからね」
「途中だと!?」
「首輪の爆破条件は、時間経過以外にもある。とでも言えば、話が早いかな?」
「ぐっ!?」
ジョウカーの言葉に、オレは聖剣を降ろした。
手は……震えている。
「賢明な判断だね。では、首輪の爆破条件を教えよう」
満足げな声色で、ジョウカーは語り出した。
「条件は3つ。1つ目はさっきも言った、72時間の経過だ」
ジョウカーは淡々と、説明を続ける。
「2つ目は『魔王』の死亡。『魔王』が死んだとき、キミたちの命もなくなる。平たく言えば、道連れというわけだね」
「なっ……!?」
オレは絶句した。
魔王の死イコール、オレの……死!?
「3つ目の条件は、いちばんシンプルだよ」
ジョウカーは、楽しそうな口調で告げる。
「ワタシの気分。ただ、それだけさ」
「…………」
オレは、ぼう然とした。
このまま何もしなければ、オレは死ぬ。
ジョウカーを殺しても、オレは死ぬ。
ジョウカーの気分次第で、オレは殺される。
「が……ぎ……ぐ……」
オレの歯は、ガチガチと音を立てていた。
「あ……あぁ……」
「うぅ……」
「く……」
サリィも、シャル姉も、ツカサも。
うめきながら、その場に立ち尽くしていた。
(……どうすればいい? どうすれば、オレは助かる?)
「心配しなくてもいい」
オレの心を読んだかのように、ジョウカーが言う。
「キミたちが助かる道は、ちゃんと用意してあるよ。スクリーンを見たまえ」
ジョウカーはオレたちの目の前に、スクリーンを投影した。
そこには赤茶色の髪の、ひとりの女が映っている。
……ん?
「この女……最近会った誰かに、雰囲気が似てるような……?」
……まあ、そんなことはどうでもいい。
年は、16歳ぐらいか?
バツグンのルックスだが。
女の黒い瞳と表情は、あせりに満ちていた。
首にはオレたちと同じ、首輪がつけられている。
「彼女はハンター・ハルカ」
ジョウカーが告げる。
「君たちの少し前に、ここへやって来たお客さんだ。なかなか手こずらせてくれたが、1対1で負ける道理はないからね」
愉快そうに、ジョウカーが語る。
「彼女とは、ひとつの約束を交わしてある。70時間を生き延びれば『魔王の呪い』、つまり首輪を解呪するとね」
言いながらジョウカーは、オレに向けて手を差し出す。
「ワタシの配下を追手に出すつもりだったが、その役目をキミたちにまかせたい。どうかな?」
「……要するに」
オレは頭を整理しながら、ジョウカーに聞く。
「オレたちが70時間以内にハンター・ハルカを殺せば、首輪を外すってことか?」
「その通り。『ハンター』を『勇者パーティーご一行様』がハントする、というわけだ。楽しいゲームになりそうだろう?」
「ざけんな!」
オレは叫んだ。
「誰がテメエの言いなりになってたまるかよ!」
「別に、強制はしていない。ゲームを降りるなら、降りてかまわないよ。ただし」
ジョウカーは、鼻を鳴らした。
「その場合、キミたちの末路は決まったようなものだがね」
ぐ……ぐぐっ!
「ちくしょう! この首輪さえ、解呪できれば……って……」
解呪……?
……そうだ。
そうだよ!
「そうだそうだそうだ! ハハハハハ! ハハハハハハハハ!」
オレは大声で笑った。
「詰めが甘いな、ジョウカー! オレの知り合いにいるんだよ! 『解呪師』のマモルってヤツがな!」
オレの言葉を受け。
「そうか! アイツがいた!」
「あの人ならきっと、『魔王の呪い』も解けるよね! 昔の勇者たちの封印も、解いちゃうぐらいだし!」
サリィとシャル姉の表情が明るくなった。
そんなオレたちとは裏腹に。
「……えっ?」
ツカサだけは、ポカンと口を開けた。
「ふむ。確かに、そのような人物がいるとは想定外だった」
ジョウカーは腕を組んだ。
「参考までに、聞かせてもらえるかな? その人物が今、どこで何をしているのかを、ね」
「ああ、教えてやるさ!」
ジョウカーの問いかけに、オレは得意げに答える。
「そいつは『封印の塔』にいるぜ! オレたちのだまし討ちで、今頃は死体になって……って」
……あれ?
そういえば、オレたちは。
マモルにいったい、何をしたっけ?
「えっと……」
武器の封印を解かせて。
だまし討ちにして。
今頃は……。
あの世?
「え……」
「あっ……」
サリィもシャル姉も、気づいたらしい。
顔から血の気が引いていた。
「くっ……」
ツカサは顔を覆い、肩を震わせている。
「そん……な……?」
マモルを殺したせいで、『魔王の呪い』を解呪できない?
マモルを殺してなければ、『魔王の呪い』は解呪できた?
マモルが死ななければ、オレは生き延びられた?
マモルが死んだせいで、オレは……死ぬ?
「バカ、な……?」
オレの心に、後悔がふくらむ。
その後悔を振り払うように。
「マモルううううぅぅ! てめえマモルよおおおおぉぉ!」
オレは怒鳴っていた。
「てめえは! てめえはいったい、何を考えてんだやがんだよ!? オレがヤバい状況なのに、ヌクヌク死んでんじゃねえぞ! このクソ役立たず野郎がああぁぁ!」
叫び散らかすオレに向かい。
「あきれた男だね、勇者ダイト」
ジョウカーの冷ややかな声が飛んだ。
「自分で殺したあげく、自分の都合が悪くなれば文句を言う? ワタシには理解できない。ワタシなどよりもキミの方が、よっぽど『魔王』に近いのではないかな?」
「だ、黙れ! 黙れ黙れ! 黙りやがれええええぇぇ!」
クソが!
ぬか喜びさせやがって!
チクショウ、チクショウ!
「ダイト! こうなったら、ヤツのゲームに乗るしかない!」
「シャルちゃんも賛成! 死んじゃった使えない解呪師なんか、どうでもいいよ!」
サリィとシャル姉が叫ぶ。
ツカサも顔を覆ったまま、無言で何度もうなずいた。
「それしかないってことかよ! クソったれが!」
オレも気持ちを切り替え、ジョウカーに指を突きつけた。
「必ずハンター・ハルカを仕留めてやるさ! 『魔王の呪い』を解く約束、忘れんじゃねえぞ!」
「もちろん。楽しませてもらえると嬉しいよ」
余裕しゃくしゃくのジョウカーを、オレはにらみつけた。
こんなところで、終わってたまるか!
「オレは勇者だ……! 選ばれし勇者、ダイトなんだ……!」
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