31.【勇者side その⑦】勇者グレイ ただの男になる



「あがああああぁぁぁぁ……メイファァ……いきなり何をするんだ……ぐおおおおお……」



「それはこっちのセリフよ!」



悶絶するボクに、メイファがすごむ。



「人がせっかく見に来てやったのに! よくもこのアタシを売ろうとしたわね!」



「ま……待て……待ちたまえメイファァ……。違うぅ……違うんだぁぁ……さっきのは作戦だったんだぁぁ……」



「はいはいウソウソ! 覚悟しなさいよ? これからたーーーっぷりとフクロ叩きにしてやるわ!」



「は、話を聞いてくれぇぇぇぇ……。さっきのは敵を油断させておいて――」



「だまれですわ!」




キィィィィィィィィィィィン!




「ほぎゃおおおおおおお!?」



キャロラインの金的蹴りが、ボクの股間にめりこんだ。



「ああぁぁ……おおぉぉぉ……があぁぁぁぁ……のぉぉぉぉぉ……」



「このワタクシを捨て駒にしようとは、いい度胸してますわねぇ。メイファさんにボロ雑巾にされたあとで、たぁっぷり拷問して差し上げますわよ……ホホホホ」



「は、話を聞いてくれぇぇぇぇ……話せばわかるぅぅぅぅ……」



「問答無用よ!」



「ですわ!」



「頼むぅぅぅぅ……頼むからぁぁぁぁ……ボクの話をぉぉぉぉ……」



ボクが腹と股間を押さえ、言い訳を考えていると。




パアアアアアアアアアアアアアアアアア!




突然、聖剣『ビリーヴ・ブレード』が光り出した。



まるで、何かに目覚めたかのように。何かに導かれたかのように。



聖剣はしばらく光を放ち続けると。




パシュン!




いきなり、その場から姿を消した。




「なっ!?」



あたりを見回すが、聖剣はどこにもない。



「お、おい!? どこに行ったんだ!?」



ボクはあせった。



「じ、冗談はやめたまえ! 出てこい! 出てくるんだ! おい! おい!?」



まさか!?




聖剣に逃げられた!?




「そ、そんなバカな!? 聖剣は勇者のものだろう!? どうしてボクから逃げるんだよ!? も、戻ってこい! 戻ってくるんだ! 戻ってきてくれ! 戻ってきてくれよおおおおおおおおおおおお!」



「アーーーーーーーーッハッハッハッハ!」



「オーーーーーーーーッホッホッホッホ!」



メイファとキャロラインが笑い出す。



「うわーーーーーー! ざっまああああああああ! 聖剣に見捨てられてるしー! このメイファ様を売ろうとするから、バチが当たったんだわー!」



「ざっまああああああですわ! これでもう、アナタは勇者ではありません! ただの男ですわ! ただの人ですわ! ただのムシケラですわ! ただのゴミですわーー!」



「やーーいやーーい! あっかんべーーーー! アーーーーーーッハハハハハハ!」



「ゴミクズ男には似合いの末路ですわー! ホーーーーーーッホホホホホホ!」



「ぐっ……ぬぐっ……ぬぐぐぐぐぐっ……!」




ブチィィィィィン!




「だまれだまれだまれええええええええ! ふざけるなああああああああ! ボクは勇者だ! ボクは選ばれし者だ! ボクこそが勇者なんだあああああああああ! 聖剣なんか関係ないんだあああああああああ!」



そ、そうだ! ボクにはまだ、あの技がある! 



勇者グレイの究極最強最終必殺奥義を! このフザけたクソ女どもに! 一発ブチかましてやる!



「ううううううおおおおおおおおおお! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」



ボクは両手に、怒りのエネルギーを集中させていく!



「ちょっ!? グレイ!? アンタ何する気よ!?」



「メイファァァァアアアア! キャロラインンンンンンンン! 見せてやるぞ見せてやるぞおおおおおおおおおお! この勇者グレイの究極最強最終必殺奥義ぃぃぃ! 『ゼット・エンド・クラッシュ』をなぁああああああああ!」



「ゼ、ゼット・エンド・クラッシュですって!? 何ですのその技は!?」



「あらゆるものをブッ壊す超絶攻撃だぁぁぁぁぁ! 使ったあとは反動で、しばらく激痛に襲われるハメになるがなぁぁぁぁぁ!」



「なっ!? そんなスゴイ技、なんで今まで使わなかったのよ!? さっきの魔族に使えばよかったでしょうがぁぁぁぁぁ!?」



「痛いのはイヤだからなぁぁぁぁぁ!」



「サイテーですわぁぁぁぁぁぁ!?」



「いくぞおおおおおおおおおおおおお! ボクより強いヤツはいなくなれえええええええええ! ボクを嫌いなヤツはみんないなくなれええええええええええええええええ! ボクは勇者だあああああああああああああああああああああああああ!」



ボクは怒りのエネルギーを解き放つ!



「ゼット・エンド・クラァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッシュ!」




ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!




しかし。



「うわわわわっ!?」



「ひゃああああっ!?」



メイファとキャロラインに、ギリギリで回避され。



怒りのエネルギーのかたまりは。



ちょうどふたりの後ろにあった。



『ワンズ王国』管理の鉱山に向かう。



「あ」



「あ」



「あ」




ちゅどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!




鉱山は爆散した。



「……逃げるわよ、キャロライン」



「逃げましょう、メイファさん」



メイファとキャロラインが、スタコラ逃げ出す一方で。




「ぴぎゃああああああああああああ!?」




ボクはゼット・エンド・クラッシュの反動に襲われ、激痛で暴れ回っていた。



「いでででででんぎょわああああああああ!? どひぇええええええええぐびょおおおおおおおお!? ふんぎゃああああああああああああ!? ぎょわぎょええええええええええええええええええええええ!?」




「おい! あそこに誰かいるぞ!」



「あいつが爆破犯にちがいない!」



「しかしどういうことだ!? アホみたいなヘンな踊りを踊ってるぞ!?」



「油断するな! ワナかもしれん!」



「ああ! 悪魔召喚の儀式かもしれないぞ!」



「スキを見て取り押さえるんだ!」




近づいてくる『ワンズ王国』兵に向かって。



「いいがら助けろおおおおぉぉぉぉ! はやくボクを助けろおおおおぉぉぉぉ! ボグは勇者グレイだああああぁぁぁぁ! のぎょわああああぁぁぁぁ!? ぶぎょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」



ボクは全力で、助けを求めるのだった。



「ふんぎゃああああああああああああああ! ぎょべええええええええ! あぎゃあぎゃぶぎゃおおおおおおおおおおおおおおお! いだいいだいいだいよぉぉぉぉ! だずげでえええええええええええええええ!」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る