30.【勇者side その⑥】勇者グレイ 魔族四天王のひとりにカンタンに倒される



ボク、勇者グレイは。『モンスターの巣』を飛び出したあとで! 走って! 走って! 走って! 『ワンズ王国』管理の鉱山が目に入ったタイミングで!



「俺の名は魔族四天王がひとり、『冥府のアンティ』! 聖剣の所持者よ! 実力を見せてもらおうか!」



いきなり出現した、とんでもないヤツと対面していた。



「ま、ま、ままま魔族四天王だと!? なななななんで!? なんでこんなヤツが出てくるんだよおおおお!?」



だ、だがしかし! これはチャンスかもしれない!



「パッと見る限り、ただの格闘家風の男だ! あんまり強くないに違いない!」 



そうだ! これはチャンスなんだ! 神がボクに与えたチャンスなんだ!



「ここで魔族四天王を倒せば! あのシルヴィも! それにトウナだって! ボクの力を認めるはずだ! このボクは! 役立たずロベルの! 数万倍! いや、数億倍! 強いんだからな!」



これまでの汚名、この一戦ですべて返上してやる!



「相手になるぞ四天王! この勇者グレイの力、その身に刻むがいいさ!」



ボクは聖剣『ビリーヴ・ブレード』を抜いた。




「うぅおおおおおおおおお! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」



ボクの気合に応じ、光の刃がダガーの長さに伸びる!



「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」



気合を込め! ひたすらに気合を込め!



「ボクは強いんだ! ボクは強いんだあ! ボクは強いんだアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア! ボクはこの世界で最強なんだアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」



ただひたすらに気合を込め!



「行くぞおおおおお四天王おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」



ため込んだ気合を解き放ち!



「ボクのために死ねええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ! うおりゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」



全力の全力の全力の全力で、ボクは魔族に斬りかかった! 



が。




バギイイイイイイイイイイイイイイ!




「うぎゃあああああああああああああああああ!?」



魔族のカウンターパンチが直撃。ボクはブっ飛ばされた。



「あぐ……あがががあががああああ……がああああああ……ああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」



「話にならん。弱すぎる」



「ぐっ……ぢぐじょう……ぢぐじょう……どうしてなんだよぉぉぉ……ぢぐじょうぢぐじょうぢぐじょううううううううううう!」



わめくボクに、魔族が近づく。



「失望したぞ。死ぬがいい」



「なっ!?」 



まさか、殺す気か!? この勇者グレイを、殺す気なのか!?



「ま、待て! 待ってくれ! 待ってくれ待ってくれ待ってくれぇぇ! ボ、ボクはまだ死にたくないんだ! ボクは勇者だ! ボクは勇者なんだぞぉ! 誰か助けてくれ! 助けてええええええええ!?」



「命乞いか。情けないヤツだ」



「助けてくれ助けてくれ助けてくれえええええええ! ボクはイヤだ! ボクは死にたくない! ボクは死にたくないいいいいいいいいいい! 死にたくないんだああああああああああ! 誰か来てくれえええええええええええええええええ! うあうあ! うあああああああああああああああああああ!」



またもボクが泣き出しそうになった、そのとき!



「やっと見つけたわよグレイ! って!? 何なのコイツ!?」



「ま、魔族ですわ!? いったいどういう状況ですの!?」



メイファとキャロラインだ! 助かった! ボクはまだ、神に見捨てられてはいない!



「どどどど、どうすんのよ!? こんなヤツに勝てっこないわよ!?」



「ととと、とにかく逃げますわよ! ワタクシが目くらましの魔法を――」



「うぉぉぉぉぉらあああああああああ!」




バギイイ!




「あぐぁっ!?」



キャロラインが崩れ落ちた。ボクのパンチを腹に受けて。



「う、ぐ、ああああぁぁぁ……!? あ、あ……ごぼっ……!?」



「グ、グレイ!? アンタ、何を考えて――」



「次はキミだメイファァァァァァアアアアアアアああああああああ!」



ボクはメイファに後ろから組みついた。



「あっ!? きゃ、きゃあああああああ!?」



そのままメイファを押さえつけ、羽交い締めにする。



「な、何のつもりよ!? やめて! 離して! 離してなさいってば!」



暴れるメイファを押さえ込みながら、ボクは魔族に叫ぶ。



「この女たちはアンタにくれてやる! アンタの好きにしていい! 何をしてもいい! だから! このボクだけは許してくれ! 頼む! 頼む!」



「グ、グレイ!? ふざっ!? ふざけるのはやめなさい! 離して! 離せ! 離せ離せ離せええええええええええええええぇぇ!」



「こっ……この男……サイテー……ですわっ……あぐぅ……ぐほっ……」



「何とでも言え! ボクは世界の宝だ! ボクを殺すな! ボクは! ボクは! ボクはああああああああああああああああああああ!」



「……ふん、くだらん」



魔族が鼻で笑った。



「こんなクズ、殺す価値もない。どうせ、世界はすぐに魔王様のものとなる。せいぜいおびえながら、生き恥をさらすがいい」



そう言うと、魔族は転移魔法を唱え。



「魔王様の敵は、別にいるようだな……」




バシュッ!




ボクらの前から消えた。



「あ……あ……あ……? 助かった……のか――」



「こんのクサレ勇者があああああああああああああ!」




バギイイイイイイイイイ!




「ぐおおおおおおおお!?」



メイファのヒジ打ちが、ボクのみぞおちにめり込んだ。



「タダじゃすまさないわ……」



メイファの瞳は怒りに燃えている。



「あぐ、うぐうううぅぅぅぅ……」



腹を押さえつつ。ボクは恐怖にふるえた。


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