25.【勇者side その⑤】勇者グレイ 泣く



ボク、勇者グレイは。女剣士シルヴィと共に突入した『モンスターの巣』で。




「ブギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」



「うぎゃああああああああああああああああああああ!」




大ピンチの真っ最中だった。




「ブギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」




ザシュッ!




ワー・ウルフの爪が、ボクの腕を直撃!



「ぐあああああああああああああああああああ!?」



激痛で聖剣を落としてしまった! 光のダガーが地面に転がる! まずい!




「ブギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」




「うぅわああああひいいいいいいいいいいい!?」



「危ない!」



シルヴィがボクをかばいながら、ワー・ウルフに斬りかかる。




ズバアアアッ!




「ブギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」




シルヴィの一撃で、ワー・ウルフが地面に倒れた。



「大丈夫か、グレイ殿?」



「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ、と、当然だ」



ボクはポーションを使い、体力を回復させるが。



「はぁはぁ、はぁはぁ、はぁはぁ、へぇはぁ、ぜぇはぁ、ひぃはぁ……」



呼吸がなかなか整わない。



「ふぅ、はぁ、くうぅ……」



「ぜぇ、ぜぇ、ひぃ……」



メイファとキャロラインもボロボロだった。そんな中。



「ここまで倒したモンスターの数は、私が33。メイファ殿が2。キャロライン殿が2。グレイ殿が1、だな」



シルヴィだけは、息ひとつ切らしていなかった。



「……ふむ。グレイ殿、ひとつ教えていただきたい」



「はぁ、はぁ。な、何だ。言ってみたまえ。ふぅ、ふぅ」



「どうしてあなた方は、昔よりもメチャクチャ弱くなっているのだ?」




ピシッ!




「な、何を言い出すんだキミは! そ、そんなわけがないだろう!」



「そう言われても、結果がすべてだ。ここのモンスターは、以前に我が『ツーター村』を襲ったヤツらよりも、比べ物にならないぐらいに弱い」



「ぬぐっ!?」



「はっきり言うが。この程度の相手ならば、私ひとりでも十分だ」



「ぐぎっ!?」



「かつて強敵に圧勝したあなた方が、どうしてこんなザコに苦戦するのか? 理由がさっぱりわからなくてな」



「そっ、それは……! そう! 今日も『世界の支援』が力を貸さないからだ!」



そうだ! あの無能ロベルを追放してから、なぜか『世界の支援』を受けられなくなった! いったいどうしてなんだ!? トウナはロベルの力とかフザけたことを言ってたが、そんなわけがあるか! 何か別の理由があるはずなんだ!



「そ、そうなのよ! アタシたち勇者パーティーには『世界の支援』があるの! 戦いになると不思議な力で、戦闘力が自動的に強化されるのよ!」



「ですけど最近は! なぜか『世界の支援』が発動しないのですわ! アレさえあれば、バッタバタとモンスターを倒せるはずですのよ! ホホ! ホホホホホ!」 



「『世界の支援』……?」



シルヴィが首をかしげると。



「何だそれは? ロベル・モリス殿の支援スキルとは違うのか?」




ピシピシッ!




「なっ、なな、ななななな!? いきなり何を言い出すんだキミは!?」



「ロロロロロベル!? あいつは全然関係ないわよ! 関係ないはずなのよぉ!」



「そそそそそうですわ! ロベルの力なんて! 力なんてぇぇ!」



「我が村の戦いでロベル殿は、ものすごーーーーーいスピードでパーティー全員に支援スキルをかけまくって、メンバーを超絶強化していたように見えたが」




ピシピシピシッ!




「な、なな、なななな、なっ……なっ……」



こ、この女! この女も! この女までもが、トウナと同じことを言うのか!? 



「や、やっぱり……『世界の支援』って、ぜんぶアイツが……」



「認めたくはありません……けど……けど……」



「メ、メイファ! キャロライン! 何をヘコんでるんだ!? ロベルの力じゃない! ロベルの力なんかじゃない! ロベルの力なんかであるはずがないんだああああああああああ!」



く、くそ! このシルヴィとかいう女!



「キ、キ、キミの目はどれだけフシ穴なんだ! ロベルは無能だ! 役立たずだ! クズだ! ムシけらだ! そんなロベルにパーティーの超絶強化なんてできるわけがない! だいたい――」



「そうか! ようやくわかったぞ!」



シルヴィがうなずいた。



「な、何がわかったというんだ?」



「『勇者』とは! キミではなく! ロベル・モリス殿のことだったんだな!」




ピシピシピシピシッ!




「ばっ……ばばっ……ばばばばバカを言うなあああああああ! ロロロロロベルが勇者だと!? そんなわけがあるかあああああああああ!」



何をほざいてるんだこの女は!? 気でも触れたのか!?



「なるほどなるほど! 『月の聖女』トウナ殿がいない理由もよーくわかったぞ! 今は『勇者』ロベル殿と共に、世界を救う旅の真っ最中というわけだな!」



「は、話を聞け! ボクの話を聞け!」



「このパーティーに昔はあって! 今はないもの! それはまさしく! 『勇者』ロベル殿とトウナ殿の存在ではないか! すべて納得がいったぞ!」



「いいからボクの話を聞けええええええええええええええ!」



「『勇者』ロベル殿とトウナ殿がいない今! このパーティーの戦闘力は! 昔の1パーセント以下! というわけだな!」




パキーーーーーーン!




「おま、おっ……おっ、おまっ……お前っっっ……!」



「はっはっは! いやいやグレイくん! カン違いしてすまなかった!」



「グ、グレイくん!?」



いきなりシルヴィの態度がなれなれしくなった。



「グレイくんも私と同じだったんだな! 『勇者』へのあこがれを胸に抱き! しばし『勇者』ロベル殿と旅を共にしていた! そうだろう?」



「んなわけがあるかああああああああぁぁ!?」



「なに、照れることはない! 『勇者』にあこがれを抱くのは、人間として当然だからな!」



「断じてちがああああああああう! ボクが勇者だ! 勇者はボクだ! ボクが勇者なんだああああああああ! ボクが愚民どものあこがれの的なんだあああああああああああああああああああ!」



ボクは絶叫するが、シルヴィは聞いちゃいなかった。



「それにしても、その『聖剣モドキ』は見事なものだ! 完っ全にホンモノとカン違いしてしまったよ!」



「ホンモノだああああああああ! どっからどう見てもホンモノの聖剣『ビリーヴ・ブレード』だろうがああああああああ!?」



「ダガーを加工したというわけだな! 今度私にも、1本作ってもらえるとありがたい!」



「だからちがあああああああああう! ホンモノだって言ってるだろうがあああああああああああああああああああああ! ホンモノなんだああああああああああ!」



「『勇者』であるロベル殿に追いつくのは、キミではムリかもしれん! というかムリだ! 絶対ムリだ! 100パーセントムリだ! しかし! 追いつくのは無理でも! 目標として一歩一歩進めば必ずや――」



「いい加減にしろこのクソボケアマああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」



ブチ切れたボクは聖剣を抜き、シルヴィに斬りかかったが。




スカッ!




シルヴィにサイドステップでかわされ。



「ぬをああああああああっ!?」




ドテーン!




顔から地面にダイブしてしまった。



「あぐっ、うぐぅっ、うぐぐぐぐっ……」



「ふむ! これだけボロボロで、やる気が残っているのは感心だ! その熱い心を失わなければ! 必ずやキミは! それなりには! 強くなれるだろう! がんばりたまえ、グレイくん! 私でよければいつでも相手になろう!」



「うぎ……うぎぎぎぎぎぎぎぎぃ……」



「安心していいぞ? ここのモンスターは、私が責任を持って退治しておくからな! 今のキミの力では少し、いや! あまりにも! あまりにもあまりにも! 重荷だろうしな!」



「ううっ……うぐうっ……ちくしょう……ちぐじょう……! うううううううううううううううううぅぅぅぅぅぅぅっぅぅ……」



なぜか目の前がぼやける。なぜか涙がこぼれ落ちていく。



「ちょ、ちょっとグレイ! こんなとこで泣かないでよ! アタシまで恥ずかしくなるでしょうが! ほーらよーしよし! べろべろばー! いいこでちゅねー! こちょこちょこちょこちょこちょー!」



「ぶぎゃああああぁぁぁぁ!? やべろやべろやべろおおおおぉぉぉぉ!? ごどもあづがいずるなメイヴァアアアアアアアアア!」



「うわーーーー。イイ年した男が人前で泣くとか? なーんかドン引きですわー」



「ボグはないでないいいいいいいぃぃぃぃ! ボグはないでないぞギャロラインンンンンンンン!」



「涙は人を強くする! いくらでも泣けばいい! そして! また明日から立ち上がればいい!」



「うううううううううううるさいうるざいうるざーーーーーーーーーーーーーい! だまれだまれだまれジルヴィイイイイイイイイイ!」



ボクは全力ダッシュで逃げ出した。もうシルヴィとは、1秒たりとも一緒にいたくなかった。



「あっ! ちょっとグレイ! どこ行くのよ!?」



「今逃げたら! 報酬がもらえませんわよ!?」



「うああああああああああああああああああああああああああああ! うあああああああああああああああああああああああああああ! うおあああああああああああああああああああああああああああ!」



「まったくもう! キャロライン! しょうがないから追っかけるわよ!」



「えーーーーー」



「悔しさは明日への種になる! ガンバるんだぞーーーーーーーー! グレイくーーーーーーーーん!」



背中にシルヴィのおせっかいが響く。涙も鼻水も止まらない。



「ボクは勇者なんだあああああ! 選ばれしものなんだああああああああああ! ロベルがなんだっていうんだよおおおおおおおおお! うあうあ! うあああああああああああああああああああ! ボクは強いんだああああ! ボクは強いんだあああああああああああああ!」



ひたすらわめき散らかしながら。ボクは『モンスターの巣』を飛び出すのだった。


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