26.支援役ロベル 3聖女の期待を背負う
「どうやら、ここが塔の最上階みたいだな」
俺、サミー、アンリ、トウナの4人は、大陸で1番高い塔『レインボー・タワー』を探索していた。打倒魔王の必須アイテムが、この塔に眠っているらしい。
「魔王へのキラーアイテム『レインボー・オーブ』かぁ。ホントにこの塔にあるのかなぁ?」
「まちがいありません。過去に魔王を倒した勇者様が、ここに封印したという話です」
「道中では見つからなかった。おそらく最上階にあるはず」
「おっ! みんな、あっちだ!」
中央の柱が輝いている。近づいてみると、結界が張られた柱の中に、虹色の宝玉が埋め込まれていた。
「あったぞ! これが『レインボー・オーブ』にちがいない!」
「うわーきれーい! ホンモノの虹みたいにキラキラー!」
「かつての勇者様はコレを天にかざすことで、魔王の戦闘力低下に成功したそうです」
「まちがいなく、打倒魔王の必須アイテム」
「だな。だけど結界で守られてる。このままじゃ取り出せないか」
なら、支援スキルの出番だな。
「結界解除スキル『バリア・ブレイク』発動! 対象は目の前の『結界』!」
パリィィィィン!
「よーし解除! これでオッケーだな!」
「ほーーーーんと、お兄様ってすごいよね! 伝説のアイテムを守る結界、カーンタンに破っちゃうんだもん!」
「この結界は、魔王を倒した過去の勇者様が張ったはずです。それをあっさり解除してしまうあなた様。さすがです!」
「主様の能力はレジェンド超え」
「たぶん年月が流れて、結界が弱まってたんだよ。きっと」
ともかく、目的のアイテムが入手できてよかった。
……そうだ。こんな場所でアレだけど。
「ひと区切りついたところで、打倒魔王に必要なものを整理しておくか?」
「はーい! お兄様のおかげでレベルはマーックス! 最強防御アイテムのプラチナメタル・ブレスレットまでもらっちゃいましたー!」
「神聖魔法もスキルポイントを使って、『一括取得』でバッチリです! あなた様のおかげですね!」
「『レインボー・オーブ』も手に入れた。主様の封印解除のおかげ」
うーむむぅ。
「そんなにおかげおかげ言われると、何かむずがゆくなってくるんだけど」
「いーのいーのお兄様! 事実なんだし!」
「ですね! あなた様の支援のおかげ! によって、残る重要事項はあとは2つでしょうか?」
「ええ。主様のおかげ、であと2つ。まず1つ目は、空への移動手段」
「アンリさん、トウナさん! 魔王城って、過去は地上にあったんですよね?」
「その通りです、サミー様。ですが今回、よみがえった魔王の城は天空に存在しています」
「あそこに見える」
トウナが塔の窓から天を指差した。闇のオーラに包まれた城が、小さく確認できる。
「大陸で1番高い塔の、はるか上、ってわけだな」
「前回と場所がちがうんじゃ、昔のデータは使えないもんね」
「ええ。しかも、相手は空のかなたです。どうやって、あそこまでたどり着けばいいのか……」
「これは難題」
「ふーむ……」
さて。どうしたもんだろうな。
「必要なもの2つ目は、魔王を倒せる伝説級の武器だよね!」
「かつての勇者様は、聖剣『ビリーヴ・ブレード』という武器を使っていたそうです」
……あれか。勇者グレイが持ってる剣だな。
「残念だけど、今の聖剣では無理」
トウナが首を振る。
「長い年月の間に、力が失われたみたい。主様もよく知ってるはず」
「……だな。刃がダガーぐらいにしか伸びないもんな」
「力説したい。あれであいつが戦えてたのは、ぜんぶ主様の支援のおかげ」
「そんなことないとは思うけど――」
「ぜーんぶ主様のおかげ!」
「ははは……ありがとうトウナ」
勇者グレイ、か。
そういえば。
俺が勇者パーティーを離れたあと。彼らの話題は何ひとつ耳に入ってこない。俺がパーティーにいた頃は、毎日のようにウワサが流れてたものだが。やはり、トウナの抜けた穴が大きいということか。
「……ま、今更気にしても仕方ないよな」
過去は過去だ。きっとどこかで、うまくやってるに違い。たぶん。
「でもでもお兄様! 強い武器なら聖剣のほかにも、探せば見つかるんじゃないかな?」
「そうですね。文献を調べれば、手がかりが見つかるかもしれません」
「次の目的は武器探し。これで決まり」
「ちょっと待ったみんな!」
俺は指摘する。
「必要なものは、ほかにもあるぞ!」
「えっ? ほかにも?」
サミーがキョトンとする。
「お兄様? あたしたち、何か見落としてる?」
「ああ。完っ全に見落としてる。と言うか、どうしてこれを見落とすのか。俺にはサッパリわからない」
「えーーーー? 何だろ?」
サミーは首をかしげる。
「アンリさん、トウナさん、わかりますか?」
「いえ……わたしにはわかりません。空への移動手段と伝説の武器。足りないものは、これですべてと思っておりましたが……」
「私にもわからない。主様、答えを教えてほしい」
うーーーーむ。どうしてわからないんだ? 俺には不思議でならない。
「みんな、大陸の伝説は忘れてないよな?」
「もちろん! 『再び魔王が世界を危機にさらすとき、ひとりの男が立ち上がる』!」
「『ひとりの男は聖女』……コホン! 失礼しました。『3人の聖女を伴い』」
「『魔王を滅ぼし世界を救う』」
「ほら! 伝説を口に出してみると、足りないものがよーくわかっただろ?」
「ちっとも」
「ぜんぜんわかりません」
「さっぱり」
……ウソだろ? どうしてだ?
「『ひとりの男』だよ! 『ひ・と・り・の・男』!」
俺が答えを言うと。
「……は?」
「……え?」
「……ん?」
なぜか3人は、ポカーンとしている。
「いや、だから。魔王を滅ぼし世界を救う『ひとりの男』を、見つけないといけないだろ? みんなはどこにいると思う?」
「その男ってお兄様でしょ?」
……へっ?
「ええ! あなた様でまちがいありません! 現状のパーティーは、100パーセント伝説の通りです!」
「どう考えても主様」
……予想外の展開だ。
「ちょい待ち! まさかみんなは、俺がこの伝説の『ひとりの男』だと思ってたのか?」
「うん」
「はい」
「ええ」
即答だった。
「いやいやいやいや、そんなわけないから。俺みたいな慎重な用心深い『支援役』に、そんなスゴいことできないから。もっとこう、勇気があるというか、思い切りがいいというか。そういうのが、俺の英雄のイメージなんだよ」
「じゃあやっぱりお兄様じゃん」
「ええ。あなた様ですよね」
「主様で確定」
えーーーーっとぉ。
「だからどうしてさ? みんなも知ってるだろ? 俺、しょっちゅう『ここは慎重に行こう』とか言ってるし。目立つのも嫌いだし。人前に出るのも苦手だし」
「ホントにそうかなー? あたしはお兄様のこと、勇気があって思い切りがいいと思うけどなー!」
「サミー?」
「だってだって! あたしが魔力を奪われて困ってるとき、お兄様は迷わず助けてくれたもん! いくら力を持ってても、フツーの人が魔族の幹部相手に、そんなにすぐに思い切れるかな?」
……いや。でもそれは。
「幼なじみの女の子がピンチなんだから、当然じゃないか」
「クスッ。あなた様? わたしのときも同じでしたよね?」
「アンリ?」
「たった1回声を交わしただけなのに、危険をかえりみずに助けに来てくださいました。20年もとらわれの身だったわたしを、ですよ?」
……いや、でもそれは。
「とらわれのお姫様がピンチなんだから、当然じゃないか」
「私のときもそう」
「トウナ?」
「私がドジを踏んだ……ゴホン。私がしびれ薬で動けなくなったときも、一瞬で助けにきてくれた。あの時の主様、私の状況がわかってなかったはず」
……いや、でもそれは。
「大切な仲間がピンチみたいだったから、当然じゃないか」
……な、何か、妙な流れになってきたな。
「うふふふ!」
「クスクスッ!」
「にこにこ」
みんなニヤニヤしている。
「と、とにかく! 俺はあくまでも『支援役』だから! そのつもりで頼むよ!」
「は~~~~~い!」
「わかりました~!」
「りょうか~い」
……まあいいや。この話はいったん置いておこう。
「そ、それはそれとして、だ。実は『支援役』的には、まだみんなにやれることがあるんだよ」
「えっ? お兄様、それホント?」
「ああ! 戦いが激化する前に、みんなのステータスアップを支援しておきたくてな!」
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