6.支援役ロベル 『太陽の聖女』の支援を誓う

「あたしにはわかったよ! あなた、ロベルお兄ちゃんでしょ!」



顔いっぱいに、はじけるような笑顔を浮かべる『太陽の聖女』。



「え、えーーーっと。どちらさま、でしたっけか?」



俺は頭をフル回転させる。



「えーっと、えーっと……」



「んもう! どーしてわかんないかな?」



「い、いや、思い出せそうな気は、しなくもないんだが……」



「サミーよ! 昔、お兄ちゃんのおうちのお隣に住んでた、サミーでーす!」



「え……あ! もしかして、幼なじみのサミーちゃん?」



「ピンポーン! せいかーい!」



「そうか! そうだったのか! やっと思い出せたよ!」



なるほど。だから顔を見たとき、懐かしい感じがしたんだな。



「ちっちゃい頃、たくさん遊んだよね! あたし、お兄ちゃんにはいつも面倒を見てもらってたし! 忘れられない思い出も、いーっぱいあるんだから!」



「すまん。俺、あんまり覚えてないかも」



「えー、ひどいよー!」



「ま、待て! 全部忘れたわけじゃないんだぞ! そ、そうだ! 『お兄ちゃんはあたしのあこがれの人!』とか、『大きくなったら、お兄ちゃんのお嫁さんになる―!』とか、いつも言ってたよな! 冗談でもうれしかったよ!」



「今でも本気なんだけど」



……ん? 



「サミー、何か言ったか? よく聞こえなかったけど」



「何でもないですー」



サミーはぷくっ、とほっぺたをふくらませる。かわいらしいしぐさに小さい頃のサミーがダブり、クスっと笑ってしまった。



「それにしても、まさかあのサミーが『太陽の聖女』とはなぁ」



「へへー! まぁ、大変なこともあるけどね! 口調とかそれっぽくするの、まだちょっと慣れないし」



「いやいや! こんなに立派になって、幼なじみとしても鼻が高いよ!」



「えへへ! あたし、がんばっちゃった!」



「がんばった? 『太陽の聖女』って、がんばりだけでなれるもんなのか?」



「でもあたし、ちゃーんとなれたよ! 『太陽のペンダント』に、力を認めてもらえたんだから!」



「マジでか!? 適合者に無限の魔力を与えてくれるっていう、あの伝説のペンダントにか!」



「そ!」



うーむ。サミーのがんばり、恐るべし。



「だ、だって。あたし、お兄ちゃんに……」



「え?」



「お兄ちゃんに釣り合う女の子になりたかったから、がんばっちゃった」



……ん? 



「すまない。また、よく聞こえなかったんだが」



「もう! まったく、相変わらず鈍感なんだから……ぶつぶつ」



「って、ちょっと待て! のんきに話をしてる場合じゃないだろ!」



俺は我に返った。そうだ、久しぶりの再会を喜んでいる場合じゃない。さっきまで、サミーは命を狙われていたんだ!



「サミー、現状を教えてくれ。さっきの連中はいったいなんだ?」



「『大聖堂』の信者さんたち。実はね」



サミーから笑顔が消えた。現実に引き戻してしまったみたいだけど、状況が状況だ。こればかりは仕方がない。



「王国の『大聖堂』が、魔族の幹部に乗っ取られたの」



「なんだって? 『太陽の聖女』……いや、サミーが毎日祈りをささげてるっていう、あの『大聖堂』か?」



サミーはコクリとうなずいた。



「いきなり現れたアイツが、『大聖堂』の人たちに魔法をかけたの。あたし以外、全員が洗脳されちゃった」



「卑怯な手を使うヤツだな。幹部のクセに、やり方がセコいぞ」



「あたしも戦おうとしたけど、洗脳されたみんなを人質にされて抵抗できなかったの。それで、今はこのありさま」



サミーが身につけたペンダントを俺に見せる。見た目はトウナの『月のペンダント』にそっくりだが。



「宝石部分に光がない。真っ黒になってるな」



「あたしの魔力も『太陽のペンダント』の魔力も、全部奪われちゃったんだ。せっかくがんばって認められたのにね……あはは」



サミーは肩を落とし、力なく笑う。



「王国や冒険者ギルドに助けは求めたのか?」



ぶんぶんと、サミーが首を振る。



「追手から逃げるので精いっぱいだったから。それにあたしが動いたってバレたら、洗脳されたみんなが殺される可能性もあると思う。でも」



「もたもたしてると、敵に魔力を持ち逃げされる可能性もある、ってわけか」



「すぐには逃げられないはずなんだ。最後の魔力を振り絞って、結界を張ってきたから」



「すごいじゃないか!」



「でも時間がたてば、破られちゃうと思う」



「いつまで持ちそうなんだ?」



「あと2時間……」



「む、そんなにギリギリか」



「魔力がないあたしじゃ、敵を倒すこともできない。みんなの洗脳を解いてあげることもできない。できるのは、洗脳されたみんなに追いかけ回されて、情けなく助けを求めることだけ……」



サミーの瞳から、涙がポロポロこぼれ落ちた。



「あたしもう、どうしていいかわかんない!」



両手で顔をおおい、泣き出すサミー。




「うぅぅぅぅ……うぁああああああああああん! うああああああああああああああああああああああああああああん!」




「……サミー」



俺はいても立ってもいられず。サミーの頭を手を置いた。



「あっ……?」



「サミー。よく、ひとりで頑張ったな」



言いながら、サミーの頭をやさしく撫でてやる。



「えらいぞ。本当にサミーは強くなったよ」



「あ……」



「す、すまない! イヤだったか?」



「ぜんぜん。あったかくて、気持ちよくって、なんだかすごく落ち着く」



「そ、そうか。ならいいんだ。なんか昔、こういうことをしてた気がしてな」



「覚えてる。あたしが泣いてるとき、いつも頭を撫でて慰めてくれたよね」



サミーはほっぺたを赤く染め、うっとりとしている。



「少しは落ち着いたか?」



「……うん。ありがとう、お兄ちゃん」



「あとは、俺にまかせてくれ」



「えっ?」



心は決まっていた。



幼なじみの女の子がピンチなんだ! 『支援役』が支援しないでどうする!




「『支援役』ロベル・モリスは、ここに宣言する!」



俺はこぶしを握ると、天に向かって突き上げる。



「『太陽の聖女』サミーの完全勝利を、全力で支援する、と!」




「……お兄ちゃん」



「って。ちょっとカッコつけすぎたかな、ははは」



「ううん、カッコイイ! 王様の演説みたいだったよ!」



「それはちょっと、ほめすぎじゃないかなー」



「でも、お兄ちゃん。気持ちはうれしいけど、ひとりじゃ無理だよ」



「なーに、俺だってサミーに負けてられないからな。昔と違うってところ、これから証明してやるさ」




俺はサミーから距離を取ると、スキル『エンカウント操作』を使用する。もちろん『出現率:インスタント』に設定。




『種類・数・瞬殺するか? を選んでください』




「種類はグレート・デーモン、数は1体、瞬殺するか? はノーで」



すると。




「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」




巨大な悪魔タイプのモンスターが出現した。こいつもSランク・モンスターという話ではあるが。



俺にはわかった。



「力の差は圧倒的だ。支援スキルを使うまでもない」



ショートソードを引き抜き、切りつける。




ズバアアアアアアアアアアアアアアアアッ!




「ギャオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアァァァァッ!?」




たったそれだけで。グレート・デーモンは悲鳴を上げ、消滅した。




『10,000の経験値を手に入れました』



『10,000のスキルポイントを手に入れました』




「ま、ざっとこんなもんさ。『大聖堂』の魔族退治、俺にまかせてくれ!」



「Sランク・モンスターを一撃……すごい……!」



サミーの顔に、太陽のような笑顔が戻ってくる。



「すごいすごいすごーーーーーーーーーい! お兄ちゃんすごい! やっぱりお兄ちゃんは、あたしの白馬の王子さまだったんだーーー!」



はしゃぎまわるサミー。何だか、俺の方が恥ずかしくなってきた。



「な、なあサミー。その『お兄ちゃん』っていうのは、そろそろやめないか?」



「えーー」



「ほ、ほら! 俺とサミーは、別に血がつながってるわけじゃないし! 俺もいい年だし、お兄ちゃんって呼ばれるのが何だか恥ずかしくってさ」



「うーーーん、しょうがないかぁ。あたしももう、子供じゃないもんね」



「そうそう! 普通に名前で呼んでくれていいから――」



「それじゃあ『お兄様』! これならいいでしょ! ね、お兄様?」



「……もう好きにして」




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