5.【勇者side その①】勇者グレイ 大陸の伝説で妄想をふくらませる

「ハーーーーーーッハッハッハ!」



ボク、勇者グレイは。ロベルが冒険者ギルドから出て行ったあとで。



「ハハハハハハハハ! ハーハハハハハハ!」



勝利の高笑いを上げていた。



「役立たずのロベルは追放した! 無能な男、ロベルは去った! これでボクら勇者パーティーは! 打倒魔王に向け! 大きく前進したわけだ! 役立たずがいなくなった今! このボクと! 『世界の支援』があれば! 全戦全勝まちがいなし! 向かうところ敵なしとは! まさにこういうことだ!」



「おめでとう、グレイ!」



武道家のメイファが、ボクに笑いかける。



「ここからが、グレイとアタシたちの新しいスタートね! ほっっっとうにすがすがしい気分だわ! これからは無能で役立たずで弱っちいロベルの顔、見なくていいんだし!」



「メイファの言うとおりだな! このボクも、いつになく晴れやかな気分だよ!」



「アタシ、グレイのために張り切っちゃうから! きっと『世界の支援』の力も、ロベル抜きならこれまで以上にパワーアップしてくれるはずよ!」



「ハッハッハ! 頼りにしてるぞメイファ!」



「あらグレイさん? ワタクシをお忘れになっていませんこと?」



今度は魔導師のキャロラインだ。



「おいおいキャロライン。ボクがキミを忘れるなんて、あると思うのかい?」



「感激ですわ! ワタクシもグレイさんのため、いくらでもこの身を投げ出すつもりですわ! おジャマ虫のロベルも消えましたし、これからは心おきなく戦闘に集中できますもの! 『世界の支援』の力、存分に振るわせていただきますわ!」



「ハハハハハ! 期待してるぞキャロライン!」



メイファとキャロラインは左右から、ボクの体に腕をからめてくる。相変わらず、ボクにベタぼれみたいだ。ま、ボクのイケメンフェイスの前では当然だな。



おっと。もうひとり、気に掛けてやらないといけない相手がいたか。



「トウナ、キミも頼むぞ! 『月の聖女』であるキミは、打倒魔王に必要な戦力だからな!」



「…………」



「おい、トウナ?」



「手紙、読んでくれたかな……」



トウナは心ここにあらずと言った様子で、ロベルに渡した手紙を気にしている。



「おい、聞いてるのかトウナ! このボクが! 勇者グレイがキミに声をかけてるんだぞ!」



「……何か言った?」



……イラッ、とした。



「だから! キミはボクにとって重要な戦力だから――」



「考えごとしてるの。用がないなら話しかけないで」



「ぐっ……!」



こ、この女っ……!



「グレイ、放っておきなさいよ。『月の聖女サマ』には『月の聖女サマ』にふさわしい、ふかーーーーーい考えごとがあるみたいだし? それよりアタシと、もっとお話ししましょうよ!」



「メイファさん、抜け駆けはズルイですわよ? ワタクシだってトウナさんとは違います。グレイさんとなら、いくらでもお話していたいですわ! ワタクシいつでも、グレイさんの味方ですもの!」



「ありがとうメイファ! キャロライン! キミたちとパーティーを組めることを、ボクは誇りに思うよ!」



などと、ふたりにイイ顔をしながらも。ボクのイライラは止まらなかった。




『月の聖女』トウナ。イマイチ読めない女だ。



確かに美人だ。身につけている『月のペンダント』の淡い輝きとの相乗効果で、どこか神秘的な雰囲気も感じる。



だが。性格は暗いし、何を考えているのかわからないところがある。口数が少なすぎて、コミュニケーションもロクに取れやしない。



何よりも! このボクに! まったく興味を示さないのが一番イライラする!




「……だが」




ボクにはこの女が、勇者パーティーにとって重要人物なのはわかっていた。



かつて勇者に倒された魔王は、ふたたびボクたちの時代によみがえった。その魔王を倒すには、どうしてもこの女の力が必要なのだ。




「メイファ、キャロライン! この大陸の伝説、もちろん覚えてるだろうね?」



「当然じゃない! 『再び魔王が世界を危機にさらすとき、ひとりの男が立ち上がる』」



「『ひとりの男は聖女を伴い、魔王を滅ぼし世界を救う』でしたわね?」



「それじゃあ質問だ! この伝説にある『ひとりの男』とは、いったい誰のことだい?」



「そんなの決まってるじゃない! グレイよ!」



「ええ! グレイさん以外に考えられませんわ!」



「そう! この聖剣『ビリーヴ・ブレード』の所持者・勇者グレイこそが、世界を救う男なのだ!」




かつての勇者でもある、ボクのひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいじいさんが、魔王を倒したときに使った伝説の聖剣『ビリーヴ・ブレード』。光の刃は持ち主の力で、10メートルにも伸びると言われている。



そのわりにはボクが使っても、剣先が『ダガー』ぐらいにしか伸びないんだが……。



まあ、真の力はそのうち目覚める、ということだろうな。




「そして! 勇者と共にあるべき聖女、トウナはここにいる! 何もかもが伝説の通りじゃないか!」



「…………」



ボクの高らかな宣言にも、トウナは反応ナシ。この女はいつもこうだ。



そういえば。ボクらがロベルの悪口大会をしているときにすら、全然乗ってこなかった。悪口なんて、うっぷん晴らしには最高だろう? 



それをこの女は! にらみつけてくるどころか、スキを見て話題をすり替えようとしてきやがる! まったく、どこまでもツマらない女だ!



「ちょっと。『月の聖女サマ』、ノリが悪すぎない?」



「あんまりお高くとまっていると、そのうち痛い目見ますわよ?」



メイファとキャロラインも、内心はトウナが気に入らないんだろう。ちょくちょく態度に出るのがわかる。



だが伝説を信じるなら、この女をロベルみたいに追放するわけにはいかない。メイファやキャロラインなどは、いてもいなくてもどうってことはない。



しかし『聖女』であるトウナだけは、そうそう替えが効かないのだ。




「ところでグレイ。次の冒険先、もう決まってるの?」



メイファの問いに、ボクは笑う。



「フッ、もちろん決まっているさ!」



「どちらですの? ワタクシはグレイさんとなら、どこへでもまいりますわよ?」



「ハッハッハ! 頼もしいな! まずは準備運動がてら、さっき攻略した『絶望の迷宮』にもう1回挑む! 役立たずを追放して生まれ変わった勇者パーティーの、準備運動というところかな!」



「賛成。これでいろいろはっきりする」



「お?」



珍しく、トウナの反応がやけに早い。



「トウナ、ずいぶん積極的な――」



「時間がもったいない。早く」



「あ、ああ、そうだな」



……この態度。やっぱりイライラする。



フッ、まあいいさ。魔王を倒して世界の英雄になれば、女なんて選び放題だ! あと少しだけ我慢すればいい、それだけの話じゃないか!



「よし行くぞ! いざ『絶望の迷宮』へ! 『世界の支援』は勇者パーティーと共にある! 恐れるものなど何もない!」



ボクは高らかに、勇者らしく宣言した。



「楽しみだわ! ロベル抜きならチームワークもバッチリ! カンタンに攻略できそうね! 張り切っていくわよー!」



「まいりましょう! 新生勇者パーティーの、門出を祝う冒険に!」



やる気十分のメイファとキャロライン。それに対してトウナは。



「…………」



なぜか冷ややかな視線を、ボクに向けてくるのだった。

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