4.支援役ロベル 『太陽の聖女』を救出する

「なんだ? とにかく助けないと!」



俺は女の子に向かって駆け出した。




「クククククククク……」



「キキキキキキキキ……」




2人の男は女の子をいたぶるように、じわりじわりと距離を詰めていく。



「助けてえええええ!」



「させるか! ジャンプ力アップスキル、『ホッピング』使用!」



支援スキルを使った俺は、その場で大ジャンプ! 女の子と男たちの間に、割って入るように着地した。



「ナンダお前ハ! 邪魔ヲスルナ!」



「引ッ込ンデロ! ケガスルゼ!」



「悪いな。そういうわけにはいかない」



俺はショートソードを抜いた。申し訳ないけど、全然強そうには見えない。



「力の差は圧倒的だ。支援スキルを使うまでもない……けど」



こいつら、目に光がないな。



「お願いです! 彼らを殺さないでください! 洗脳されてるだけなんです!」



女の子が叫ぶ。



「わかった! 俺にまかせてくれ!」



よし。ここは慎重にいこう。



「今の俺の力だと、手加減だけじゃ危ないかもな。それなら!」



こういう場面こそ、支援スキルの出番だな。



「スキル『パワー・ダウン』で攻撃力低下! 対象は俺!」



俺は俺自身へ、攻撃力低下のスキルを発動した。体の力が抜けていくのを感じる。



「これで攻撃力は下がったけど。1回だけじゃ不十分だろうな」



何といっても、レベルがレベルだ。レベル144の攻撃力を、スキル1回で下げきるのは無理だろう。ならば。




「『超高速詠唱』で、スキル使用スピードアップ!」



からの。



「『パワー・ダウン』で攻撃力低下! 対象は俺!」



更に。



「『パワー・ダウン』で攻撃力低下! 対象は俺!」



更に。



「『パワー・ダウン』で攻撃力低下! 対象は俺!」



更に!



「『パワー・ダウン』で攻撃力低下! 対象は俺!」



更に!



「『パワー・ダウン』で攻撃力低下! 対象は俺!」



念のためもう1回!



「『パワー・ダウン』で攻撃力低下! 対象は俺!」




この間、わずか1秒。



「よし、こんなもんか。ここまでパワーダウンすれば、さすがに大丈夫だろう」



「ウオラアアアアアアアア!」



「ブッコロシテヤルウウウウウウウウウウ!」



ふたりの男が同時に殴りかかってくる。が。




スカッ! スカッ!




パンチは俺にかすりもしない。



「チョコマカスンジャネエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!」



「ウザッテエエエエエエエエエンダヨオオオオオオオオ!」



わめきちらす男たちのパンチをかわしつつ。



「ほい、ほいっと」



俺はふたりの首筋に手刀を入れる。




ポコン! ポコン!




「ウガッ……」



「ウグッ……」



男たちが崩れ落ちる。気を失ったようだ。



「ふぅ、何とかなったか。力がありすぎると、加減がひと苦労だな」



それにしても。



「まさかこんな形で、重ね掛けを使うとは思わなかったなぁ」



能力アップスキルの『超高速詠唱』重ね掛けは、勇者パーティーにいた頃、いつもやってたことだ。



それこそ数えきれないぐらいに。何度も何度も何度も何度も。



「『世界の支援』とやらでパワーアップできる勇者パーティーには、なーんの意味もなかったみたいだけどな……ははは」



とにかく、女の子を助けられてよかった。



「キミ、大丈夫かい? ケガはない?」



「は、はい! 助けていただきありがとうございます! 本当にありがとうございます! あなたが来てくれなければ、私はきっと殺されていたでしょう! 感謝の言葉もありません! 命の恩人です! このお礼は、あとで必ずいたしますから!」



「いやいやいやいや。別にそんな、たいしたことじゃないよ」



などと言いながら、俺は。



「あれ?」



この女の子に、どこか懐かしい雰囲気を感じた。昔、どこかで会ったような?



「どうかしましたか?」



「い、いや。別になんでもないんだ。気にしないでくれ」



「はぁ……」



女の子は不思議そうに首をかしげている。



年は俺よりふたつ下ぐらいだろうか。輝くような金髪に、最高級サファイアのような碧眼。ひとことで言うなら、メッチャクチャかわいらしい。



100人中100人が頭を撫でたくなるような、愛らしいルックス。その美少女度合いは、勇者パーティー所属の『月の聖女』トウナと同レベルだ。もちろん、雰囲気やタイプはまったく違うけど。



「あ、ごめんなさい! 助けていただいたのに、自己紹介してませんでした!」



女の子がペコリと頭を下げる。



「私の名前はサミー。この大陸の人々から、『太陽の聖女』と呼ばれているものです」



「え? キミが『太陽の聖女』なの? あの『大陸3大聖女』のひとり?」



「はい、その通りです」



「おどろいたな。まさか、こんなところで出会えるとは思わなかったよ」




『大陸3大聖女』。この大陸に存在する、強大な力を持った3人の聖女の通り名だ。



1人目は『光の聖女』アンリ。エルフ族のプリンセスらしいけど、あまりくわしくは知らない。もう何十年も、人前に姿を見せてないという話だ。



2人目は『月の聖女』トウナ。忘れようにも忘れられない、勇者パーティーで活躍中の元・仲間だ。別れるときにもらった手紙は、いつか読まないといけないんだろうけど。どうにも気が重く、ついつい後回しにしてしまう。



最後に『太陽の聖女』サミー。ここ『ワンズ王国』の『大聖堂』で、毎日平和のための祈りをささげている、と聞いていた。




「そうだったのかぁ。キミってスゴイ人だったんだなぁ」



「あ、あの! 私、聖女には見えませんか?」



「い、いやいやいや、そんなことはないぞ! 『太陽の聖女』が思ってたよりもずっとかわいかったんで、ちょっとびっくりしただけだ」



「あっ……」



『太陽の聖女』の顔が、ほんのりと赤く染まる。



「そんなこと言われたの、私のあこがれの人以来です……。その人はすっごくカッコよくて、やさしくて、頭もよくて、私を妹みたいにかわいがってくれて、そんなあの人が私のあこがれのお兄ちゃんで、それでそれで」



な、何だか妙な雰囲気になってきたぞ。俺、ヘンなことは言ってないはず、だよな? 



「で、でだ。その『太陽の聖女』が、どうしてこんなことになってるんだ? 襲ってきた連中、洗脳されてたみたいだけど」



「それは……あっ!?」



いきなり『太陽の聖女』の瞳が、大きく開かれた。



「ん、どうした? 俺の顔に何かついてるか――」



「あっあっ! あーーーーーーーっ! もしかして!」



『太陽の聖女』がいきなり、にゅっ、と俺に顔を近づけてきた。くちびるとくちびるがくっつきそうな距離で、顔をのぞき込んでくる。



「おわっ、びっくりした!? きゅ、急に何をするんだ――」



「お兄ちゃんだ!」



「へ?」



……お兄ちゃん? 俺、妹なんていないぞ?



「私……じゃなかった! あたしにはわかったよ! あなた、ロベルお兄ちゃんでしょ!」



『太陽の聖女』が顔いっぱいに、はじけるような笑顔を浮かべる。



「え、えーーーっと。どちらさま、でしたっけか?」

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