第三章 二人で

第54話 天空の島々

 十一階層に着いた間宮とナイア。塔の内部にある螺旋階段を下り切り、その先にある鉄の扉を押し開く。その先の光景は、まるで想像もつかないものだった。


「な!?」

「すっごいわね~」


 眼前に広がるのは、正に空を飛ぶ島々であった。扉から一歩を踏み出すと、生い茂る芝生の擦れる音、勢いよく流れていく風の音が耳に届いてくる。地表は僅かに雲に覆われており、雲海のような様相を呈していた。

 遠くを見れば、大樹が根を張った巨大な島が空に浮いている。それも一つではない。正面に最も大きな島が存在し、その周囲にはそれより小さいが十分に巨大な島が幾つも浮遊している。島々の下は奈落のようになっており、底がどうなっているのかを窺うことはできない。島同士は巨大な根や蔓のようなもので作られた橋で繋がれていて、それを渡れば島を行き来できるようであった。


「アタシもこういうのがあるってのは知ってたけど、いざ見ると壮観だわ」

「流石奈落だ、何でもありだな」


 外に出て見上げると、塔だったものは大樹に変わっていた。間宮らは大樹の根本に取りつけられている扉から出て来ていたのだ。


「こういうのも階層によって変わるのか」

「結構そこら辺は変わるわね。ま、だからといって何かあるわけじゃないわ」


 間宮らが今いる島も巨大であり、草原になっているため見晴らしはいいものの、島の端まで歩くためには時間が必要であった。


「目標は......とりあえずあの一番大きい島でいいかな」

「そうしましょ!」


 二人は取り敢えず移動を始めた。








「ここの魔物はこういう感じか......」


 移動しようとしたのもつかの間、間宮たちは魔物に襲われていた。周囲は低木が所々に生えているものの、殆どは起伏の少ない草原であるため、魔物にはすぐに見つかってしまった。

 間宮らを襲っているのは、まるでプテラノドンのような造形をしていた。尖った頭部に鋭い爪、細い体を何とか羽ばたいて持ち上げている。赤黒い体表は鱗に覆われており、竜の一種であることを思わせた。

 そのような飛竜が三体、間宮の頭上を旋回しながら、時折急降下して間宮を突き刺そうとしてきていた。


「自分の力が通用するかどうかだな、まずはこれから行こう」


 そういって間宮は異空間を開き、魔剣を取り出す。メトデフの城の地下室で発見したそれは十階層の魔物には非常に効いたが、果たして十一階層の魔物にはどうであろうか。

 飛竜の一体が身体の向きを急転回させ、間宮を真下に捕らえて急降下してくる。普通であれば目にも止まらない速さであるが、戦闘慣れと魔力による身体強化で間宮はその姿をしっかりと捉えられていた。

 飛竜が鋭く尖った嘴を間宮に向けるが、それに合わせて間宮は横ステップで直撃を躱しつつ、飛竜の落下経路に魔剣を切り上げる。魔力を纏った刃は飛竜の皮膚を割き、骨肉を断ち、まるで魚の開きのようにしてしまった。


「......十分そうね」

「明らかにオーバーパワーだな。メトデフって何だったんだ?」


 ここまで軽々と通用するような代物であることに若干恐怖しつつ、魔剣は一度間宮の異空間へと仕舞った。代わりに集中し、掌を向ける。


「次はこれだ。『断絶』」


 間宮が認識した空間の一部が瞬時にずれる。そのずれは飛竜にも容赦なく影響し、一体の首をいとも簡単に切り落とした。力が抜けた飛竜の身体は自由落下をはじめ、間宮の足元に重い音を立てて潰れた。


「よし、こっちも十分か。最後に、『氷獄』」


 魔力を練り上げて魔法陣を編み上げる。周囲の空気が凍り付きながら、無数の氷の鎖が地面から出現した。最後の一体となった飛竜は追手の鎖から逃れようと、旋回技術を駆使して鎖の雨を搔い潜る。


「くそ、狙うの結構難しいな」


 今まで飛竜のような小回りの利く魔物とは戦ったことが無かったため、氷の鎖の操作に手間取る間宮。飛竜はその内に体勢を整え、その後ろに氷の鎖を連れながら間宮の方へと急旋回する。


「ちょっとアンタ!」

「分かってる、もうちょっとか......?」


 間宮は過剰な魔力を魔法に注ぎ込む。鎖の勢いが増すとともに、発せられる冷気が強くなった。その冷気は追跡している飛竜にも影響を及ぼし、飛行速度が僅かに低下する。僅かではあるが、この場では決定的な差である。


「これで届く!」


 遂に飛竜に鎖の一本が巻き付いた。それを皮切りに何十本もの鎖が飛竜を捕らえ、地面へと引きずりおろす。そして未だ残っている鎖が束となって氷の鏃を形成し、堕ちた飛竜目掛けて落下した。


「ん?」


 その瞬間、間宮は違和感を覚えながらも、しかし氷の鏃は完全に飛竜を貫き、死に至らしめていた。飛び散るはずであった血も、既に強まっている冷気で氷漬けになっている。十一階層初めての魔物との戦闘は、一方的な蹂躙に終わった。


「どうかした?」

「いや、とどめの時に若干の抵抗を感じた。多分、普通の”氷獄”じゃ倒しきれていなかったな」

「ふーん」


 とは言いつつも倒せたのでいいのでは?と呑気にしているナイア。しかし、


「力は充分通用する。こっからは技術だな」


と、この階層での課題を新たにした間宮だった。

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