第51話 初陣
天地率いる異常探索班は、SAMFの一階に存在する通路に並んでいた。四方はコンクリート製の無機質な白い壁で覆われており、SFに出てくる研究所の一部のような様子であった。
百メートル程ある長さの廊下に班員が規則正しく整列し、正面にある金庫のようなロックが施されている扉を見つめている。そしてその先頭には班長の天地と、天地に任命された副班長の
天地が一歩、隊の前に踏み出して、胸を張って話し始めた。
「全員、聞いてくれ!これから俺たちは大穴の中に突入する!何も分からない、正真正銘の未知の領域だが、それを理由に俺たちが臆することは許されない!」
全員が静かに天地の話を聞いている。流石に訓練されてきた者達である。
「俺たちの役目は、無事に帰って少しでも情報を持ち帰ることだ!何か少しでも危険を感じた時は、躊躇いなく連絡することを徹底せよ!いいな!」
隊員らは静かに首肯する。その様子を見た天地は満足そうに、しかし緊張感を持って扉の方を向いた。天地が天井から吊るされている監視カメラに手を挙げると、何かが起動したような音と共に、扉のロックが少しずつ回転していった。
ガチャリ、と何かが嵌った音が響いた直後、ロックが外れて扉が開かれる。その先には荒れ果てた地面と、奈落へと続いているような大穴が存在した。SAMFは大穴がある部分を中心として、ドーナツのように円形状に建築されているため、大穴がある場所は吹き抜けになっている。当然壁面は特殊加工がされているため、大抵の衝撃では破壊することはできない。
「行くぞ!」
天地の号令と共に二列に並んだ班員は、大穴の壁面に設置されている螺旋階段を降り始めたのだった。
瞬間、浮遊感。
階段を慎重に下りてから直後、謎の感覚に襲われた天地。気が付けば螺旋階段は終わりを迎えており、石畳の踊り場が眼下にあった。
「剛力、班員の確認を」
「了解」
敵が既にいるかもしれない状況で大きな声を出す訳にはいかない。天地は剛力に班員の生存確認を行うよう指示した。
「班長、全員居ます」
「分かった」
天地は後方にハンドサインを出しながら降りると、携帯ライトを点けてその場を明るくした。隅々まで照らしたが、そこには何も居なかった。
「班長、安全確認終了です。今のところ異常はありません」
「よし、それじゃこれをどうするかだな」
天地の目の前にあるのは金属製の巨大な扉である。身長が百八十はある天地の二倍程度の大きさのそれは、そこにあるだけで威圧感を与えるものだった。
だが、その程度で止まる天地ではない。彼は使命を持ってここにいるのだ。
「総員警戒!只今より目の前の謎の扉を開ける。不測の事態に準備せよ!」
班員は慣れた動きで横の隊列を組み、扉を半円状に囲むようにして人の壁を作る。所持しているアサルトライフルを向け、敵が飛び込む余地を与えまいと全員が注意を傾けていた。
そんな中、天地は扉に手を掛ける。ひんやりと冷たい感触があるが、それだけだ。腕と足に力を込めて、両開きの扉を押した。
(ここは......どこだ?)
開けた視界に現れたのは、一見普通の洞窟であった。人が十人横に余裕をもって並んだとしても空きがある、横幅はかなり広い通路が一直線に伸びている。随分と開発された坑道の入口のようである。
しかしよく観察すると、おかしな点は幾つもあった。光源が無いはずなのに天地らは通路を見ることができたし、天井を見上げようとしてもそれは遥か彼方であった。洞窟というよりも、光すら届かない渓谷の底と言った方が正しいかもしれない。
「隊列を組み直せ、前に進むぞ」
天地が指示を出した後、探索班は慎重に歩みを進めた。途中で少々細まっている横道が存在していたが、それらは無視して先へと進んだ。まずはここがどのような場所なのか、その手掛かりが欲しかった。因みに副班長の剛力は、今まで来た道をメモ帳に記録している。
「っ!」
天地は何かの気配を感じた。片手を挙げて後方に異常を知らせるとともに、前方にライフルを構える。気配は探索班の方へと向かってきている。精神を落ち着けながら、照準から前方を観察した。
そして、影からそれは姿を現す。小柄な深緑色の身体に荒削りの棍棒、その顔は悪魔のように歪んでいる。この化物を天地は知っていた。
(報告書に載っていた奴か!)
千隼が以前経験した化物の氾濫についての報告書は当然作成されており、そこには化物の写真が添付されていた。天地もその報告書に目を通していたため、驚きはしたものの狼狽える程ではない。すぐに迎撃態勢を取った。
「撃て!」
銃口が一斉に火を吹いた。現代技術によって作られた弾丸は化物の皮膚を穿ち、多数の風穴を開けることができた。血だまりの中に沈む死体。数十秒待ち、一切動かないことを確認したうえで、ようやく天地は照準を外した。
「剛力、班をまとめといてくれ」
「了解」
そう言って天地は死体に近づくと、試験管のような容器を懐から取り出し、流れ出た血液をその中に保存した。そして次にナイフを取り出すと、死体の指と耳を切り離し、真空袋に入れた。
(結構キツいな......これ)
いくら天地といえ、このような訓練は受けたことが無い。研究に回すためではあるが、生き物の死体を弄るというのには少し堪えるものがあった。
回収した後に班に戻ると、既に出発できる状況になっている班員らが居た。
「ありがとうな」
「いえ。そちらは私が持っておきましょうか?」
「じゃあ持ってもらおうかな」
「お預かりします」
剛力に言われて先程回収した血液と死体の一部を渡す天地。天地はこの剛力のサポート力に度々助けられている。天地の心の中では感謝の念が絶えていない。
「行くぞ」
初陣を切り抜けた探索班は、さらに奈落の深部へと進んでいった。
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