第45話 報酬

「......報酬って何だ?」


 そんなものは知らないと、間宮がナイアに聞く。


「そう言えば教えてなかったわね。階層主を倒すと、報酬として色んなアイテムが貰えるのよ」

「何だよそれ、ゲームか?」


 まるでゲームのような報酬システムに戸惑う間宮。今まで命を懸けて戦っていたのが、それに比べてギャップが大きかった。

 少しすると、間宮らが入ってきた扉とは真反対の壁に、同じような扉が出現した。戦闘で疲れた体を何とか動かしてその扉を開けると、そこには直径10メートル程度の踊り場と、下層へと続いていると思われる螺旋階段が備え付けられていた。部屋の中央には大きな長方形の箱が床に置かれている。


「これが報酬か?何が入ってるんだろうな」

「確か、その人に必要な物とか、今後必要になる物が入ってるっていう話よ」

「なるほど」


 間宮は地面に膝を付き、箱に手を掛ける。


「こういうのってやっぱちょっと楽しくなるよな」

「そりゃそうよ!いい物が入ってると良いわね」


 軽く付いている金具を取り外し、長方形の箱の上蓋を上げた。そしてその中の物を見て、間宮とナイアは顔を見合わせて苦笑いをする。


「ハハッ......確かに必要なものだな」

「確かにアンタに必要ね、何ならよ。良かったじゃない」


 中に入っていた物は4点あった。まずは灰色のロングTシャツである。絹のようだが一般的なものではない。無地で肌に密着する、シンプルな物である。

 次に黒のロングパンツである。黒よりも黒く見える色であり、間宮が触るとかなり丈夫な素材で出来ていることが分かった。

 黒のブーツは足に密着するようにベルトが巻かれており、その表面には見慣れない模様になっていた。爬虫類の体表のような、魚の鱗のようなものである。

 最後に入っていたのが紺色のローブである。魔法使いが着るような長い丈で、裾や布の縁には金色の糸で控えめな装飾が施されている。


「アンタの服、もう真っ黒焦げなんだから、そろそろ替えた方がいいわよね」


 そう、間宮の服は度重なる戦闘によってすでにボロボロであった。間宮が身体強化をする際、服にも多少の魔力が流れるため何とか原型を保っているが、もはや布切れと言ってもいいほどになっていた。


「メトデフ戦で思いっきり焼かれたからな。丁度欲しかったところだ」


 間宮は今着ている服を異空間に放り込み、新しく得た服を着ていく。Tシャツとパンツ、ブーツを着てみると、不思議なことに気付いた。


「サイズピッタリだな。ブーツだったから動きづらいかもと思ったけどそうでもないし。結構いいかも」

「へぇ、ちゃんとサイズも合ってるのね」

「個人情報筒抜けだな。そしてコイツか......」


 残ったのは紺色のローブ。


「魔法使いになれってことか?」


 間宮は短剣による近接戦も行う。そのため丈が非常に長いローブは動きづらいと感じていた。とは言っても間宮の主な武器は空間干渉能力であるため、それをメインに据えて行動すれば、それほどの支障でもない。


「短剣はこれから護身レベルに留めるかな」


 ローブを羽織る。これもサイズは丁度良い。触り心地も絹のように快適で、現実の基準であれば間違いなく一級品だと感じる間宮。尤も、間宮がそれを実感できるほど豪華な暮らしをしているわけではないので、ただの感想に過ぎない。

 異空間から短剣を取り出し、軽く振るってみる。袖の部分が少々邪魔に感じるが、それも慣れでどうにかなりそうな程度であった。


「いい感じだ」

「ようやくマトモな格好になったわね。今までみたいな服だけなんて、正直第十階層では自殺みたいなものよ」

「......そうだな」








 間宮がここまで生きてこれたのは、運によるものが非常に大きいことを間宮自身がよく理解している。まずナイアが間宮を見つけ、治療し、湖から引き上げていなければ、その時点で間宮は死んでいた可能性すらあるのだ。

 さらには立て続けの戦闘。何度も間宮は死にかけたが、それでもナイアによって何度も助けられることになった。瀕死状態からであっても、ナイアは時間をかけて治して見せた。


「そう考えたら俺ってマジで運がいいな。これからの運を全て使ったと言われても納得するぞ」


 笑いながら間宮が言う。


「何度もお前に助けられて、何だかんだでここまで来たけど、ここより下だと通用するのか?」


 ほとんど間宮の独り言であるが、それにナイアは人差し指を立てた。


「アンタねぇ......確かにアタシっていう最っ高の幸運はあるかもしれないけど、それでもアンタ自身の行動の結果でもあるのよ?」


 ナイアが色々と思い出すように目を閉じながら話し出す。


「アンタはいろんな敵を相手にして、ちゃんと考えて動いてた。戦闘中も冷静に、そして大胆でもあった。魔法とか超能力だって、アンタが色々考えてたんだし」


 間宮は静かに聴いている。


「それを全部運で片付けるのは、自信無さすぎっていうか、もったいないわよね」

「......うーん、いやでも」

もヘチマもないわよ!」


 ナイアは何時に無い気迫を感じさせる顔をしている。間宮のネガティブな考えを取り払い、次の階層へと前向きに向かわせようとするを感じさせた。


「そんなに心配なんだったら、これからの行動で示せばいいのよ。ちゃんと考えて、ちゃんと動いてみる。アンタなりにやってけば、自信ってのは付いてくるのよ!」


 間宮には、それがナイアが背伸びをして言っているのではない。本気で言ってくれているということが、否が応にも理解させられた。

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