第44話 決着
間宮に対して二頭狼が接近する直前、間宮は自分の能力行使に全神経を集中していた。
(あの狼にはカウンターしかないけど、動きを目で捉えるのはほぼ不可能。なら、)
間宮は自分を中心として、空間内部の状態を詳細に把握できる領域を広げる。地面の状態、空気の流れなど、様々な情報が間宮に流れ込んできた。今までも何度かやってきたことのあるこの技は、間宮が認識する空間にいる敵の状態も把握することができた。
(だが今は、あの狼が俺に接近してきた瞬間、そのタイミングさえ分かれば良い)
自分を中心として広げて支配した空間を、今度は逆に小さくしていく。間宮に近づいてくるもの以外の情報を極力無くすことで、反応速度を上げるためだ。最終的に、間宮を中心として直径2メートルの球状空間のみ、間宮は最終的に認識した。
(後は身体強化を全て解き、『氷獄』を使うことでわざと隙を作り、俺を襲うように仕向ける)
身体強化の解除は間宮による撒き餌だった。無数の氷の鎖に追われる中、二頭狼はその中心部に無防備な間宮を見つけることになる。既に一度突進を反撃されている二頭狼は、見せかけの好機に乗るだろう。
そして間宮の目論見通り、二頭狼は誘いに乗ってくる。確実に間宮を仕留めるため、頭を食い千切るように口を開けて突っ込んでいった。
(まだだ......)
この時点において、間宮は目を閉じている。故に得られる情報は、能力による間宮を中心とした空間把握によるもののみであった。一切の暗闇が続く中、それでも間宮はその瞬間を逃すまいと、全神経を集中していた。
(耐えろ......)
暗闇は確実に間宮の精神をすり減らしていく。それでも間宮は目を開くことなく、自分の能力に賭けて出た。
そして、その瞬間が訪れる。
二頭狼の牙によって間宮の頭が食い千切られる、と思われた。しかし血飛沫を散らしたのは、間宮ではなく二頭狼の方であった。
「『断絶』!」
力の差によって胴体の切断ができないかもしれないことを考慮し、真っ先に足の切断を狙う間宮。そして目論見通りに二頭狼の四肢を切断することに成功する。二頭狼は完全に機動力を失い、地面に転がされた。
「え?え?何が起こったの?」
先程まで一方的にやられていた間宮が急に反撃できたことに、目を白黒させるナイア。ナイアが間宮を見ると、その額には大量の汗が浮かんでいた。
「説明は後だ。再生される前に殺す」
ゲルオンが自己治療能力を持っていることから、二頭狼もその類の能力を持っているのではないかと警戒する間宮は、万全を期すためにとどめを刺す。地面に転がっている二頭狼に、間宮は触れた。
「『断絶』」
無数に出現した空間の裂け目が、これ以上なく二頭狼を裁断する。二頭狼はそれに抵抗できることなく、完全に塵となった。
間宮は緊張を切らしていない。しかし僅かな隙と見たもう一体の敵は、間宮の背後から急接近した。だが、
「『断界』」
あらゆるものを通さない最強の盾が接触を防ぐ。不可視の壁に衝突したゲルオンが仰け反った瞬間、そのような隙を今の間宮は見逃さない。
「『破界』」
今までよりもスムーズに発動されたそれは、ゲルオンの頭上に出現した。黒点は周囲の空間を砕きながら、あらゆるものを吸収していく。その中にはもちろん、ゲルオンという生物を構成する物質も含まれる。空中に吸い込まれていく過程で、ゲルオンは宙に浮いてしまった。機動力を失ったゲルオンは、もはや間宮にとっては俎板の鯉である。
「『断絶』!」
ゲルオンを分断する世界の亀裂は確かに命中し、三体の人間が合わさったような風貌であったはずの肉体は、もはやそれ以上ではなかったかと思わせるほどに切り刻まれた。皮すら残さない、後には血の池のみが残ることになった。
「......終わったか」
「もう何がなんだか分かんないんだけど」
緊張が解けるとともに仰向けに寝転がる間宮と、怪訝そうな顔でその様子を見るナイアであった。
ひと段落した後、一連の流れを間宮から聞いたナイアは、さも慣れたかのように返答するのみだった。
「アンタまた相当無理したわね」
「これ以外勝ち方が分からなかったんだからしょうがないだろ」
もはや恒例と言ってもいいナイアの呆れ顔に、乾いた笑いが出る間宮。
「体は大丈夫?」
「ああ、お前が戦闘中も治してくれてたお陰だ」
改めて確認すると、最終的には間宮の身体には傷が殆ど残っていなかった。あの戦闘時間中にナイアが全て治したということになる。
「なあ、お前も無理してないか?」
「え?何で?」
「何でってなぁ......今回に関しては、確か俺の腕はかなり抉れたはずだぞ。それをあんな短時間で治すなんて、今までにも増して凄いことしてないか?」
間宮の疑問に、ナイアは若干困ったような顔をしながら答える。
「......だって階層主の戦闘は、階層主か挑戦者のどちらかが死ぬまで終わらないのよ。そんでアンタがピンチになるんじゃない。アタシも無茶するわよ」
ナイアは時折見せる、正に精霊のような雰囲気を漂わせる。ただの調子者ではなく、ちゃんと間宮を導いてきた者だという振舞いに、間宮も少し居心地が悪くなる。
「その、なんだ。心配かけたな」
「もう慣れたわよ。さ!ここまでにしましょ!報酬は何かしら!」
「......報酬?」
突如現れた疑問が間宮を襲った。
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