第39話 新しい力
魔法書を机の上に置き、壁に飾られている短剣に目を移す間宮。二十センチ程度の刃は部屋の明りを反射して橙色に光り、十字に作られた黒い柄には金線で五芒星が描かれている。至ってシンプルなデザインだが、それから発せられる気配は穏やかではなかった。
間宮が手を伸ばして柄を握る。金属質な重みが間宮の掌に伝わってきた。
「何も起こらないな」
「剣を握っただけで何か起こったら使えないわよ」
それもそうだ、と間宮はいつものように手に取った短剣を構えてみる。普段使用している角から製作した短剣よりも重さが安定しており、流石振るわれるために作られたものだと頷いた。
「やっぱちゃんとしたものの方がいいな」
「むしろ今までよくあんなのでやってきたわよね」
定期的な手入れは行っているとはいえ、今使っている短剣は刃にボロが出始めていた。様々なものを切り裂き、稀に魔法とかち合うこともあったそれは、そろそろ寿命を迎えようとしていた。
「魔力を流してみるか」
いつもやっているように、短剣に魔力を流し込んでみる間宮。すると角の短剣とは比較にならないほどの魔力を間宮から吸い上げ、その刀身をほのかに輝かせた。
「やばい、魔力めっちゃ持ってかれる」
「大丈夫なの?」
「自分の魔力の一割だな」
『氷獄』を使う時と同じような感覚を間宮は味わっていた。大きすぎるわけではないが、そう気軽にできるものではない魔力の消費量である。
「切れ味の方はどうだろう」
間宮は机の角に短剣の刀身を押し当ててみる。するとまるで豆腐のように、全く抵抗を感じずに切断することができた。切断面は研磨されたのかと思える程にキレイであり、以前の角の短剣とは別格である。
「すげぇな。魔力を持っていくだけあるわ」
リソースは必要だが、それ相応の力を発揮してくれる良い武器だ、という認識に落ちついた。
「中々良い収穫があったな」
「そうね。あれ、アンタ持ち運びどうするの?アンタのバッグってもう満杯でしょ」
間宮のショルダーバッグは以前の戦闘で黒焦げになってしまったが、一応使用はできるため、これまでも間宮は色々な物を入れていた。しかしそれも限界である。
「バッグはもう入らないな。だから前に言ったことをやってみる」
「前って......あの能力を使ってどうこうするってやつ?」
「そうそう」
そうして間宮は集中する。目を閉じて、心臓の奥深くを意識した。能力の根源に触れて、自分の想像力で変形させていく。
(俺の能力は”空間への干渉”。だから今までは空間に対して切ったり、割ったりしてきたんだ。だがそれは三次元への干渉のみだ)
間宮は現代で生きてきた際の情報を整理して考える。
(よくある異空間への収納能力っていうのは、四次元を利用したものが多い。この四次元をどう解釈するかだ。重要なのは正しさじゃない。俺が納得できるかどうかだ)
少しずつ、力が形を変えていく。
(今いる俺たちの世界を三次元として、四次元はさらに空間的な軸を一つ増やしたものっていうのを軽く聞いたことがある。他にも、二次元の物は百八十度回転させると一回転になり、三次元の物は三百六十度回転させると一回転になるってのも見たことがある。あれ考えた人天才だな)
自由な力が明確な形を帯びていく。
(なら、四次元の物は七百二十度回転させる必要がある。三次元の裏側が四次元と考えてもいい、良いのか?いや、俺が分かれば良いんだ)
間宮の正面に異空間への穴が開く。
(現実世界の裏側に箱を作り、俺がいつでもそこにアクセスできれば良いんだ)
遂に穴の中に別の空間が現れた。宇宙とも虚空とも言えない、何も無いが何かがある箱が生まれる。間宮が目を開くと、そこだけ光が奪われているような錯覚に陥った。
「な、なにこれ......触っていいヤツ?」
ナイアが少し怯えながらも穴の近くを探っている。手を伸ばしては引っ込め、伸ばしては引っ込めている。
「ちょっと下がっててくれ、先に俺が色々試してみる」
間宮はナイアを下がらせて、前の部屋に置いてきた魔石を持ってきた。それを穴の中に落とすと、魔石は何も音を立てずに異空間の中に漂った。間宮が今度は穴の中に腕を入れ、魔石を取り出そうとすると、その思い通りしっかりと魔石を掴んで現実世界に取り戻すことができた。
「よし、良い感じだ」
「こんなの、魔法でも中々できないわよ」
「魔法でこれができるのか」
「できなくは無いってだけよ。こんなの、魔法で再現するとしたら相当難しいわ」
上手くいき、少し肩の力が抜ける間宮。維持するためにも能力は使うが、それほど負担があるわけでもなかった。間宮は魔石の他にも短剣、魔法書、部屋の中にあった本やコインなど、片っ端から入れてみたが、能力的な負担は変わらなかった。
「異空間を維持するってことだけに負荷がかかってるのか?だとしたらかなり便利にできたな」
間宮は出来上がった新能力に頷きながら、自分のショルダーバッグを異空間に放り投げた。
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