第40話 塔へ

 地下室の中にある目ぼしいものを異空間へと入れ、城の外へ出ようとしている間宮たち。桟橋へと出ると、涼しい風が正面から吹きつけ、砦の門の間から一帯に広がる草原が見える。長く城の中に留まったせいで、ここが自然の真ん中であることを二人は忘れていた。


「改めてこの城って場違いだよな」

「同感ね」


 門の外へ出て、塔のある方向を確認する。


「かなり近づいて来たな」

「この後はどうするの?」

「できれば魔水を探したいけど、塔へ向かう道中で見つからなかったら諦めるかな。あったらいいけど、無くても魔力は魔石で何とかなりそうだし」


 今回の成果の中には魔石がある。これを使うことで魔石の中から魔力を引き出し、消費した分を補充することができる。魔力不足の状況で魔水を使う必要が無くなったのだ。


「怪我したらどうするのよ」

「ナイアが治してくれるだろ」

「そりゃそうだけど......そうね!アタシがいれば大丈夫ね!」


 きょとんとするが、すぐに自慢げな顔をするナイア。それを見て改めて微笑ましい気持ちになる間宮だった。







 草原を横断しながら二人は話す。


「そう言えば、空間転移ってどうやったの?あのメトデフってやつも言ってたけど、結構ヤバいことやってるからね?」


 ナイアはメトデフとの戦闘のことについて間宮に聞いた。最終局面において、間宮は空間転移を利用してメトデフの背後を突き、さらにメトデフの空間転移を妨げたことによってトドメを刺したのだ。


「何ていうか、ほぼ屁理屈とか妄想のレベルにはなるんだが」


 と前置きして間宮は続ける。


「メトデフの空間転移を参考にしたんだ。アイツの場合、多分やってることとしては、『空間内の現在地と目的地の座標を入れ替える』ってことだと思うんだよ。実際、俺はその歪みを感知できてたし」

「そんなの分かるの?」

「まぁほぼ勘だ。でだ、だったら似たようなことができるかなって思って、自分の現在地の座標と転移先の座標を入れ替えるっていう発想をしたんだ。そしたら上手くいったって感じかな」


 ナイアは首を傾げながら間宮の話を聞いている。


「よく上手くいったわね」

「上手くいかなきゃ死んでたからな。てか半身焼かれたし」


 間宮はあの時の感覚を思い出して身震いする。メトデフの背後に転移する直前、確かに放たれた魔法は間宮に直撃した。そこで間宮は近衛兵によって機能不全になっていた右腕を犠牲にして、短剣を何とか持つことができる左腕を守ったのだ。


「焼死はやばいってのはどこかで聞いたことがあるが、もう二度と御免だ」

「アタシは焼かれることなんてないけどね」

「え?」


 きょとんとしたナイアに疑惑の目を向ける間宮。


「どういうこと?」

「ほら、アタシって精霊じゃない?アタシレベルになると、この体全体を魔力で創り出すってのもできるわけよ。だから、アンタみたいに燃えるってことはないわね」

「お前、すごいんだな」

「当然よ」


 いつもの胸を張る自慢ポーズと共にひけらかすナイア。確かに常に間宮の近くに居たため、メトデフによる魔法の爆風に巻き込まれてもおかしくない。それでも黒焦げにならなかったのにはこのような理屈があった。


「じゃあお前、俺よりも魔力あるのか?」

「当り前じゃない!アタシを何だと思ってんのよ」

「なんか使える魔法とかって無いのか?」

「......使えると思ってたんだけどねー、回復魔法しか使えないのよね」


 自分の手を不思議そうに見つめ、溜息をつくナイア。


「その辺りも覚えてないのか?」

「さっぱりよ。それもこの奈落で分かるかしらね」


 ナイアは両手で頬をペチンと叩くと、表情を一気に明るくした。


「さて、変な話はおしまい!さっさと行くわよ!」


 ナイアは一足早く森の中に入っていく。


「はいはい分かったから待てって」


 それを追うように間宮も森の中へと消えていった。








 間宮が指を振る。それと同時に空間に亀裂が走り、魔物の首を切断する。森の中に入ってから数時間、休憩を取りながら進んでいた間宮とナイアは、魔物の対応を片手間に済ませていた。


「この辺りの魔物は楽勝ね」

「変なのが出てこない限りはな」


 死体はそのままにして先に進む二人。魔物の干し肉は十分作っており、間宮の異空間に貯蔵されている。消費期限はあるものの、暫くは心配しなくても良さそうな量である。


「魔力量もかなり余裕が出てきた。身体強化の強度を上げるか?」


 間宮は常に練習がてらに身体強化をしているが、流す魔力を増やしてみた。すると身体にエネルギーがさらに漲り、それを開放したいという欲が湧いてきた。


「走ってみるか......っとお!」

「ちょっと待ちなさいよ!」


 地面を蹴ると爆竹を鳴らしたような音が響いた。間宮自身が打ち出されたように走ると、視界の景色が常にブレており、前方の状況が全く分からなかった。森の中でそんな状況になれば、木に衝突するのも必然だろう。鈍い音と共に間宮の頭蓋と木の幹がぶつかり合い、木はその衝撃で折れてしまった。


「頭......くらくらする......」

「はぁ......」


 間宮のしょうもなさに、改めて呆れるナイアだった。

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