第38話 到達点

 一般的な学校の教室程度の大きさの部屋の中には、様々な光物が詰め込まれた箱が数箱、本が大量に保管されている本棚が壁一面、本を読む用の木造のデスクが一つ、そして隣の部屋に続くと思われる扉が一つあった。デスクの上には積まれている本があり、以前も使われていた形跡が残っている。


「きれいじゃない!これは何かしら!」


 ナイアは高めのテンションで宝箱に飛んでいく。それを間宮は温かい目で見つつも、内心は普通に楽しんでいた。

 間宮はまずデスクに向かった。近づいてみるとペンやランプなど、小道具もよく手入れされており、丁寧に扱われていることが分かった。


「この本、何語だ?」


 しかし積まれている本の内、一番上にある本を手に取って開くと、そこには全く知らない言語で書かれたページが広がった。およそ地球上では使用されていない、少なくとも間宮は一度もこのような文字を見たことが無かった。


「見たこと無いわね」

「ナイアも知らないんじゃどうしようもないな」


 本を閉じ、積まれた一番上へと戻す。そして次は宝箱の方へと目を移した。


「ナイア、良さそうな物はあったか?」

「コインに宝石、あと魔石があるわね」

「魔石?」


 聞き馴染みのない単語で頭の中にクエスチョンマークが浮かぶ間宮。


「ありゃ?説明してなかったかしら」

「聞いてないかも」

「魔石っていうのは、簡単に言えば魔力の入った石のことね。魔晶にちょっと似てるところもあるんだけど、こっちの方が色々とレアよ」


 そう言ってナイアは魔石の一つを抱えて飛ぶ。ナイアが持つそれは野球ボール程度の大きさで、深い赤色、正に大きなルビーのようなものだった。間宮が魔石に触れると、確かに内部に魔力があることが分かった。


「魔力が密集してできたものなんだけど、魔晶なんかよりももっと濃い魔力じゃないとできないのよね。他にも、超強い魔物の体内にあったりするみたいよ」

「何に使えるんだ?」

「魔石の中に詰め込まれている魔力を引き出すことができるって感じかしら。ま、イメージは魔力タンクね」


 間宮は取り上げた魔石を一先ずデスクに置いておく。コインを見ると、柄は全くの見覚えのないものとなっている。持っていても貨幣としての利用は無理であることが想像できる。


「さて、本棚はどうだろう」


 間宮は本棚に目をやる。若干の埃を被りつつも、丁寧に保管されているそれらだが、デスクに置いてあるものと同じように知らない言語で書かれており、間宮には読解することができない。


「うーん、収穫無しかも」

「こっちも無いわね」


 手分けをして何とか読める本を探そうとしたが、ナイアの方も遂に見つけることはできなかった。間宮にとって役立ちそうなものは、宝箱の中に入っている数個の魔石だろう。


「ただこの魔石、結構な量の魔力が入ってるな」

「この大きさはかなり珍しいわよ、だいたいは指の爪程度の大きさなんだから」


 間宮は指の爪を見る。直径1センチ程度の物が通常サイズであるならば、目の前にある握り拳一つはある魔石は相当良いものなのだろうと分かった。魔力の補充手段は幾らあっても足りない。


「この部屋はこんなものか、さて」

「ドア、開けるわよ?」


 問題はもう一つの扉である。この部屋に間宮らが入った時と同じような木製の扉。外見は何も無いが、その扉の背後からは言い知れぬ気配が漂っている。ドアノブに触れているナイアも少し冷汗をかいていた。


「せーのっ、はい!」


 扉が開くと同時に、間宮らがいた部屋に何かが流れ込んでくる。デスクの上にある魔石が光を帯びた。間宮の肌も鳥肌が立ち続けている。この中に何か超越的なものが隠されていると、二人が確信するのには十分だった。


「......入るぞ」


 間宮がゆっくりと足を踏み入れる。明らかに空気が変わり、息を吸うことに抵抗を感じるようになった。部屋は六畳程度の一室で、簡単な机とその上に置かれた箱、そして机の上の壁には一本の短剣が飾られていた。

 二人は机の前まで歩を進め、謎の箱を目の前にする。飾り気のない、しかし重厚な作りの箱は、あるだけでも圧迫感を放っていた。間宮はその箱に手を掛けた。


「......よし、開けるぞ」

「うん」


 ナイアが息を飲んで見守る。蓋を取り落とさないよう慎重に持ち上げると、箱の中に入っていたのは一冊の本だった。しかしその本は膨大な魔力を放っており、この部屋の異常さもこれが原因であるとすぐに分かった。


「魔法書ね」

「......取り込んでみるか」


 その圧迫感に気圧されながら、間宮は慎重に魔法書に魔力を流し込んでいく。しかし、


「うああ゛っ」


 声にならない呻き声を上げ、間宮は魔法書から手を放してしまう。魔法書は支持を失い、岩のような音を立てて床に落下した。


「ちょっと大丈夫!?」

「......だめだ。俺には早すぎる」


 頭を押さえながら間宮が呟く。


「情報量が『氷獄』の比較にならない。頭痛が酷すぎてあれ以上やってたら脳が焼かれてたな。未だに頭の中からチリチリ焼ける音が聞こえてきそうだ」

「とんでもないヤツじゃない」


 間宮は取り落とした魔法書を持ち上げる。今ならその重さの理由も分かった。


「これを取得出来るってことが、一つのゴールになるかな」

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