第37話 地下室

 意識が深海から浮上してくる。ふわふわとした感覚がありつつも、地に足がつく堅実さを間宮は得ていった。やがて現実に引き戻され、目を開くと、半壊した巨大なシャンデリアが吊るされている巨大な天井が目に入った。


「ここは......」


 間宮は硬くなった身体を何とか動かし、立ち上がって辺りを見回した。そこにはメトデフと戦った跡が残されている。壁の一部は丸々と穴が空き、そこら中が煤だらけで真っ黒になっている。


「怪我は治ってるな。流石アイツだな」


 間宮は自分の身体を見る。黒焦げになったはずの右半身は完全に元に戻っており、欠損も過不足なく治っている。感覚もはっきりとし、殆どメトデフと戦う前に戻ったような状態だ。ここまでくると、ナイアに治せないことなんて無いのではと思えてきてしまう程である。


「そう言えばアイツ、どこいった?」


 いつもであれば間宮の周りを飛び回っているナイアだが、今は気配を感じない。若干の筋肉痛を感じながら、間宮は大広間の扉を開け、廊下に出た。

 ここに来た時は兵士の声が聞こえていたが、今となっては何も聞こえない。ただ間宮の靴が石床に当たる音がリズムよく鳴るだけである。赤紫の炎に照らされて廊下を歩いていると、前から何かが近づいてくる気配がした。間宮が目を細めてよく見ると、青色の髪に小さな羽、水色のワンピース、そして何より小さな体躯。ナイアが間宮の方へ飛んできていた。ナイアも間宮に気付くと手を振り、その速度を上げる。


「目を覚ましたのね!」

「ああ、お陰でぐっすり寝れたよ」

「良かった、体調はどう?」

「全然大丈夫だな、流石ナイアだ」


 ふふん、と胸を張るナイア。そういえばこんな様子のナイアは最近見ていなかったな、とナイアに出会った直後のことを少し思い出す間宮。あの頃は本当に大丈夫かと思っていたが、今となっては欠かせない相棒となっている。


「そういえばどこに行ってたんだ?」

「アンタの治療が終わった後、ちょっとこのお城を探索してたのよね。近くには魔物もいないみたいだし、お宝なんかもあったりしたらおもしろそうじゃない?」

「そういうのもあるのか」

「分かんないけど、アタシの勘はあるって言ってるわ!」


 とはいえ間宮とて秘蔵の宝などに興味がないわけではない。RPGゲームなどをやっているときに、ダンジョンからお宝を探すというのは醍醐味の一つだろう。それがボス級となれば猶更だ。間宮は少し乗り気になってきた。


「じゃあ探してみるか」

「しゃー!れっつごー!」








  それから間宮とナイアは城の内部を探索した。城の中には普段使いの部屋や大広間、食堂などが存在し、中々に生活感が残っていた。しかし書斎や図書館、宝物庫といった目当ての部屋は見つからない。


「重要なものって位置づけなんだろうな。隠し部屋とかか?」

「お宝ないわね~」


 もはや敵もいないため、半分観光気分でいる二人。先の激闘を経て、完全にリラックスモードに入っていた。


「アンタの能力で見つけらんないの?」

「いや無理......いけるか?」


 ナイアに言われて気づく間宮。空間に干渉する能力であれば、隠し部屋を見つけることもできるのではないかと思いつく。


「やってみるか。できるかもしれない」


 そう言って間宮は周囲の空間へ認識を広げていく。空間内の状態を認識することで、空間内の建造物の構造は認識することができた。当然、間宮の目が届いていない所にも能力は届いている。


「ん?何だこれ」

「なになに?」


 少しずつ範囲を広げていくと、間宮らが入ってきた城門より下にも、城の構造が続いていることが分かった。城の一階のある部分から、細い階段が地下へと伸びており、それが一室と繋がっているのが間宮には見える。


「地下室があるぞ、当たりかもしれない」

「お!いいわね、行きましょ」








 間宮の能力によって見つけた、地下への階段の入口に到着した。しかしそこには壁しかなく、階段などどこにも見当たらなかった。


「無いわね......」

「多分ここら辺なんだよな、壁を壊してみるか」


 間宮は壁に手を当てると、改めて構造を把握する。確かに壁の奥には階段があるが、何やら複雑な仕掛けによって隠されているようであった。

 しかし、その仕掛けを丁寧に解く必要もない。


「壊すか、『断絶』」


 壁を長方形に切りとって抜き出すと、細い螺旋状の階段が現れた。幅は人が一人通れる程度で、壁には今までよりもさらに小さい松明が、赤い炎を灯して通路を照らしている。


「よし、行くか」

「楽しみね」


 狭い通路であることもあり、靴の音が通路内によく反響する。敵がいないことは分かっているものの、それでも心理的には少し不安になる場所であった。

 一分ほど階段を降り続け、遂に扉の前にたどり着いた。木製の扉はかなり古ぼけており、年季を感じさせる。特にセキュリティのようなものも無いようであるため、間宮はそのままドアノブに手を掛けた。


「こりゃすげえな」

「わぁ......!」


 そこには沢山の箱に詰められた光物と、本棚に置かれた大量の本があった。

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