第34話 灼熱

 暴力的な熱を発し始めた三つの太陽。大広間の空間を存分に活かした顕現は、何とか建物自体を崩壊させずに済んでいる。しかしそれが一度放たれてしまえば、城など更地になってしまうのではないかと思える程のエネルギーを秘めていた。


「『破界』!」


 不味いと真っ先に思った間宮。城の外で以前やった対処法を実行する。右手を握ると同時に黒い球が現れ、空間の一点に穴を空けた。それは周囲に罅を伝播させながら物質を壊し、吸収する。展開された三つの太陽の内、一つを消去することができた。


「......」


 魔法使いは間宮を観察するように微動だにしない。依然太陽を二つ展開し、維持し続けている。維持するだけのためにどれだけの魔力を消費するのか、魔力の制御を巧くこなす必要があるのか、間宮には想像できなかった。


(『破界』の展開は同時に一つが限界だ......頭痛が酷いな)


 魔力は残ってはいるものの、能力の多用により脳への負担が大きくなっていた。空間内に存在する物体の把握など、通常であればそれだけで尋常でない負担である。むしろこれだけ保てた事が、間宮の能力の異常さを物語る。


「もう一回、『断か』......がぁっ!」


 しかし限界はある。度重なる能力の使用により、間宮の脳は悲鳴を上げていた。力が乱れ、空間に穴を空ける事が出来ない。間宮は頭を万力で押しつぶされるような痛みを感じていた。


「ちょっと!?」


 太陽に熱された床に膝をつく。ナイアによって全身が治療され続けているというものの、負担が急に軽くなるということはない。膝が熱で焼かれ、直後にナイアによって治されるという、奇妙な感覚を間宮は味わっていた。


「邵ョ蟆」


 魔法使いが呟く。すると直径20メートルはあった火球が、テニスボール程度の大きさにまで縮み、その色を燃え盛る赤から白へと変わった。小さくなろうとも秘めるエネルギーは同じ。むしろ白炎球が射出されたとき、ピンポイントにダメージを与えらえるように改造されたのだ。


「豁サ縺ュ」


 遂に放たれた。白炎球の一つが魔法使いの手を離れ、何かに弾かれたかのように動き出す。周囲の空気を焼きながら間宮に向かって一直線に進み、このままでは直撃は確実である。


「やるしかない」


 間宮は取り落とした短剣を左手で拾い、自分の中に残っている魔力を総動員して左腕を強化する。腰だめでいつでも短剣を振り切れるよう、身構えた。ナイアが間宮を治療し続けている今、能力を使えるようになるまでもう少し耐えることができれば、活路が見いだせるかもしれない。

 そして白炎球は間宮の眼前にまで接近した。顔が焼かれるような痛みに襲われるが、それでも間宮は左腕を振るった。


「らああ゛っ!」

「頑張って!」


 短剣の刃が白炎球に食い込み、勢いが拮抗する。刃が焼ける嫌な音から気を逸らしながら、必死に短剣の柄を握り込んだ。押し返そうとするも、まるで固定されているかのようにびくともしない。


(全力を出してもこれか......だったら)


 絶望的な力の差を感じた間宮。これがもう一発用意されているという事実が、間宮に重く圧し掛かる。徐々に間宮が押され、踏ん張る足が後ろに下がっていく。このままではどうしようもないことは間宮もナイアも感じていたこと。であれば一か八かの賭けに出るしかない。


「遐エ陬ゅ○繧」

「なっ......!」


 瞬間、間宮の目の前で閃光が弾けた。このままだと思っていた白炎球がいきなり弾け、内包する莫大なエネルギーを周囲に放出する。もちろん間宮もナイアも耐えられる訳もなく、大広間を囲う石レンガの壁に激突して轟音を響かせた。壁が崩れ、煙が辺りに充満する。その場に沈黙が訪れた。









「......」


 魔法使いはただ静かに見守る。もう一つの白炎球を展開したまま地上に降り立ち、間宮が壁に衝突した部分をじっと見つめていた。飛び散った火の粉も、流れてくる煙も気にすることは無かった。

 一分、待った。何も起こらなかった。吹き飛ばした人間と精霊が動くような気配もなく、怪しい謎の力が動くこともない。

 確認のために爆発部分に足を運ぼうとする。その時だった。


「『氷獄』」


 唐突に声が発せられた。直後、魔法使いを包囲するかのように無数の青白い魔法陣が展開される。数十などではなく数百、ここまで魔力が残っていたのかと魔法使いは感嘆する。しかしそれは倒される理由にはならない。警戒しつつ、発動者がどこにいるのかを探知しようとする。

 だが氷の鎖が創造され、魔法使いを取り囲んでドームを作るかのように覆ってしまう。魔法使いの視界は蠢くチェーンで埋め尽くされ、さらに魔力による探知が上手く働かなくなってしまった。


「......」


 無言で魔法使いは考える。魔力を見る目が非常に発達しているため、普段であれば魔力の持ち主を目で見ることによって、あらゆる物質を透過して場所を探知することができる。しかし魔法使いを覆う氷の鎖には尋常でない魔力が込められており、魔力を見ることにジャミングをかけられているようになっていた。

 だが自分の力の一つを封じられての魔法使いの感想は、「くだらない」だった。


「邊臥?輔○繧」


 展開していたもう一つの白炎球を放ち、辺りを焼き尽くそうとした瞬間、


「!?」


 氷の鎖によるドームの一部が破裂し、濃密な魔力の塊が飛び込んできた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る