第33話 太陽

 炎弾の雨を受け止めながら、打開策を考える間宮。『断界』の強度はまだ少し余裕がある。まずは二人の近衛兵を倒すため、間宮は動き出す。


(一歩でも変な動きをしたら奴らは襲い掛かってくる。だが最初の『断絶』が避けられている以上、同じ手は通用しないだろう)


 片方を倒すために動けば、もう片方に攻撃されることは目に見えている。倒すためには両方を同時に攻撃する必要があると、間宮は考えた。


「色々やってみるか、まだ余裕はある」


 体内で魔力を練り、魔法陣を組み上げる。余裕がある内にできる事をやっていく方針となった。『断界』が破られてからでは遅い。


「『氷獄』」


 間宮の足元から青く光る魔法陣が無数に出現し、そこから氷の鎖が出現した。何十本と現れたそれらは間宮の意志に従い、二手に分かれてそれぞれの近衛兵を襲い始めた。


「......!」


 近衛兵が少し驚いたような素振りを見せる。しかしそれは一瞬で、すぐに槍を構えて鎖の雨に対応した。前方から降る鎖の先端を槍で弾き、地面に叩きつける。そして間宮までの道が見えた瞬間、残りの鎖を無視して間宮に突っ込んだ。魔法使いによる炎弾は槍で弾きつつ、素早く距離を詰めてくる。鎧の所々が溶けているがお構いなしで、間宮に接近戦を仕掛けてきた。


「こうなるか、やるしかない」


 無事である氷の鎖は魔法使いに仕向けたものの、全て炎弾によって相殺された。間宮は今、炎弾の雨と二人の近衛兵による攻撃を同時に捌かなくてはならなくなった。


「片方を無理やり倒す、ナイアは治療の準備よろしく」

「オッケーよ!」


 間宮の残り魔力は7割程度。今まで能力のみを使ってきたため、まだ余裕はある。身体強化と短剣強化に魔力を大幅に割き、確実に一人を仕留めるために動き出した。

 間宮に向かってきている近衛兵の内、片方に対して間宮は急接近し、槍の間合いを通り越して短剣の間合いに入る。超接近戦である。


「はぁっ!」


 腕の付け根当たりにある鎧の継ぎ目を狙って間宮は短剣を振るう。刃は隙間に完全に入り、近衛兵の右肩を傷つけた。そのまま間宮はしゃがみ込み、返す刃で左足の継ぎ目を切りつけた。

 槍を取り落とし、足を止める近衛兵の一人。その隙を間宮は見逃さない。


「『断絶』」


 胴体を狙って空間を切り裂こうとする。近衛兵は左足が自由に動かせないため、右足の脚力のみを使って地面を蹴り上げ、高くジャンプすることで回避した。


「それを待ってた、『氷獄』」


 しかしそれは完全な隙である。宙で身動きが取れない近衛兵を氷の鎖が絡めとり、極低温によって氷漬けにしてしまった。


「『断絶』、まずは一人」


 氷漬けになった近衛兵を完全に切断して仕留め、もう一人の近衛兵に間宮は向き合った。間宮に追従して展開されている『断界』はまだ保てている。このペースであれば、もう一人の近衛兵も余裕を持って倒せると間宮は考えていた。

 その時、再度大きな魔力が流れ出す。


「隨ャ荳?遲臥エ夐ュ疲ウ......」


 魔法使いが炎弾の射出を止め、新たな魔法陣を構築し始める。それは先ほどのものと比較にならないほど巨大で、禍々しい魔力が絶えず流れ続けている。赤黒い光が辺りを暴れまわり、間宮は眩暈が起こりそうな気さえしてきた。


「この感覚......あの時と同じだ」


 それは城の外で見た、太陽のような火球を出現させる魔法。その時に感じたものと殆ど同じものだった。あの爆弾のような魔法を屋内で使うとは考えられないが、もしくはそれに匹敵するような凶悪な魔法であると推測できる。

 しかし呆気に取られている暇は無くなった。もう一人の近衛兵が間宮に追いついて攻撃を仕掛けてくる。突き、横なぎ、まるで基本に忠実かつ強力な動きを繰り返し、間宮の意識を巨大魔法から逸らしていく。


「くそっ......」


 体力にはまだ少し余裕があるが、あの魔法を喰らえばそんなものは無いと同じである。また、一人目の近衛兵よりも二人目の方が防御が堅くなっており、攻めることが難しくなっていた。短剣の間合いに入ることは出来ているが、その際に鎧の継ぎ目への攻撃を徹底的に避けられている。


(焦るな、焦るな俺)


 心情は行動によく表れる。決定的な隙が全く見つからない間宮に対して、近衛兵は適切に処理し、少しずつカウンターを返していく。柄で短剣を受け、一歩離れた際に槍先で切り返す。刃同士の鍔競り合いとなったら、槍を反転させて石突で打撃を与える。特別な装備をしていない間宮には、一つ一つの攻撃が確実に蓄積されていた。


「が、はっ」


 間宮の口から声が漏れる。石突による打撃が鳩尾に入り、胃液が食道を逆流しそうになった。その隙を逃さず、近衛兵による槍の刺突が間宮の肩を貫いた。視界が白黒に明滅し、短剣を握っていた感覚がいつの間にか消失している。短剣が床に跳ね返る無機質な音が、大広間中に響き渡った。


「邨ゅo繧翫°」


 ふらついた間宮に対し、心臓への一突きを繰り出す近衛兵。勝負はあった。








「武器......捕まえたぞ」


 それは届かない。未だ機能する左手で、間宮は突き出された槍先を無理やり掴んで受け止める。そしてこれは間宮が待っていた状況の一つである。莫大な魔力によって保護されている左手は、それが貫通することを許さない。


「!?」

「『氷獄』」


 近衛兵が明らかに動揺した。それだけの隙があれば、間宮がそれを突くのには十分である。近衛兵の足元から出現した氷の鎖はたちまち近衛兵を絡めとり、鎧ごと全てを凍結させた。

 取り落とした短剣を拾い上げ、氷塊へ向ける。


「『断絶』」


 氷は完全に分断された。斜めに切られた氷は断面で滑り落ち、床に落下して粉々に砕け散る。血飛沫すらも出ることは無かった。

 これで近衛兵は全員死亡し、間宮は魔法使いとの一騎打ちへと臨む。しかし、


「はは、まじか」


 上を向けば、あの時の太陽が顕現していた。

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