第32話 魔法の強さ

 扉の先には荘厳かつ豪華な大広間が広がっていた。全体的に不気味かつシックな雰囲気の空間にはワインレッドのレッドカーペットが敷かれ、両脇には二十人の兵士が向かい合わせになって、槍を縦に構えながら並んでいる。鎧も先の兵士よりも装飾が増え、格の違いを感じさせた。

 レッドカーペットの先には黒色の椅子があり、誰かがそこに座っている。片手には長杖を持ち、全身を紫のローブで覆い隠している。正に魔法使いといった格好だ。杖にはビー玉のような大小様々の玉が埋め込まれており、ローブには金色で細かい装飾が施されている。これも城の中で遭った魔法使いとの違いを示していた。


「......」

「......」


 異様な空気が流れる。一触即発のようでそうではない。しかし何かが仕掛けられているような空気である。やたらと高い天井がそれを助長した。


(目は既につけられていると考えるべきだ。あの奥に座っているやつがボス、最終的にはこいつと一対一かな)


 間宮は少しずつ状況を整理していく。とは言えこの光景では力関係は非常に分かりやすい。敵が魔法に優れているという推測の元、最奥の敵が現時点では最も強いとアタリをつけた。


(動かないなら、先に兵士からやろう)


 決めた瞬間、間宮は全力で体内の魔力を練り、身体強化を施した。


(一瞬で決める)

「『断絶』!」


 空間が割れる。宙に入った亀裂は二十人の近衛兵をまとめて切断した。


「なっ!?」


 はずだった。二十人の内、魔法使い側に最も近い二人が『断絶』を躱したのだ。空間が割れる直前に脇に避けることで、切断する予定の空間領域から離れることができた。間宮にとって、躱されるのは初めての経験である。


「うそっ!?」

「手を抜いたつもりはマジで無かったんだけどな、来るぞ!」


 間宮は短剣を取り出して構える。近衛兵は二人、間宮を挟むように陣取ることで有利に立ち回ろうとする。さらに武器が槍であるため、同士討ちも狙いづらい。間宮は空間把握能力を全開にし、近衛兵の槍先がどのように振られているのかを必死に把握して捌き続ける。


「くそっ、頭痛ぇ......」


 肉眼で正面からの槍の突きを認識して、短剣で槍先を弾く。横なぎに振るわれたら刀身を合わせて受け流す。背後からの攻撃は、空間把握能力に完全に頼って回避しているため、間宮の脳への負荷は相当に高くなっている。


(埒が明かない、一回仕切り直すか?)


 空いている片手で高密度の魔力球を作り出し、爆発させることで近衛兵との距離を無理やりに置くという方法。自傷もするだろうが、現状がジリ貧であるためにやるしかなかった。

 間宮が魔力を集め出した、その直後。


「っ!?何か来るわよ!」


 間宮ではない、急激な魔力の高まりをナイアは感じ取った。遅れて間宮が反応すると、そこには杖を間宮に向けて構え、うわ言を呟く魔法使いの姿があった。一見すると何も起こっていないが、その内部では尋常ではない魔力量が渦巻いているのがナイアには分かった。


(迷っている時間はない)


 魔力球を即座に作り出し、それを爆発させる間宮。近衛兵らと間宮、全員が爆風によって散り散りになり、三人の間に距離ができる。取り敢えずはひと段落だが、新たな問題が降りかかりそうになっていた。


「何の魔法だ?あれ」

「魔法陣を見ないと何とも言えないわね」


 近衛兵らも既に体勢を整えているというのに、何故か間宮に手を出そうとはしてこない。魔法使いの魔法発動を待っているようにも見える。


「周りを巻き込むタイプか?」


 城の外で見せられた火球の魔法のようなものだろうか、と間宮は考える。どちらにしても今、近衛兵が攻撃してこないというのは間宮にとって都合が良かった。未だにうわ言を呟きながら杖を構えている魔法使いだが、少しずつ杖の先端に魔法陣が現れ始めている。


「発動される前に仕留めるぞ!」


 全力で床を踏み抜き、魔法使いに急接近する間宮。近衛兵は予想できなかったのか、動き出すのがワンテンポ遅れて追いつけない。強化された脚力によって、一瞬にして間宮は魔法使いに肉薄した。

 短剣を振りぬいた瞬間、ローブに隠された魔法使いの素顔が、間宮には見えた。


「遨コ髢楢サ「遘サ」

「なっ!」


 しかし短剣は空を切る。謎の言葉を呟いた瞬間、その場にいたはずの魔法使いの姿は消えてしまった。


「どこだ?」

「アンタ、上よ上!」


 傍にいるナイアが間宮に教える。魔法使いは高い天井にも届きそうなほどの高さで宙に浮き、完成した魔法陣を間宮らに向けている。既に魔法の構築は完了していた。


「轤主シセ」

「『断界』」


 赤く光る魔法陣からは無数の炎弾が発射された。一つ一つはバスケットボール程度の大きさであるが、それが幾つも同時に畳みかけられることがあれば、相当な質量攻撃となるのは当然である。炎弾は間宮の『断界』によって防がれてはいるが、次第に能力維持が難しくなってくるだろうと間宮は予測していた。


(動こうと思えば動ける。だが二人の近衛兵がどう出るかだな)


 以降近衛兵は動きを見せていない。この魔法を見れば、確かに間宮に近づいていれば巻き添えを喰らっていたのは間違いないため、それを避けるためだったということが分かる。


(またジリ貧か。多少無理をしてでも近衛兵を先に倒すべきだったか)


 もしものことを考えても仕方がない。間宮は炎弾に押しつぶされそうになりつつも、対処法を考え始めた。

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